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第33話 男子諸君、イチローみたいなことにならないように気をつけよう

「と、いうことがあったんですよ」


 俺たちは会議室にいる。

 もちろん、議題は二階堂氏の事だ。

 サクラ氏の説明を聞いて、ボス氏が渋いものでも食べたかのような顔をしている。


「ふむう……カトーとイチローは、その二階堂という人、どう感じた?」


「いけすかない感じだけど、嘘はついてないように思いました。でもそれは、自分より強いサクラがいたからかもしれない」


「俺も、嘘はついてないと思います。俺の勘ですが、彼はまだ何か秘密を持っていそうな……そんな余裕を感じました」


 そう、彼は何かを隠している。

 サクラ氏の『闘気』を感じていたと言っていたし、俺たちとは違った能力を持っているような気がする。


「そうだね。では、私が会うことにしよう。血液採取のためにナカマツ、ボディーガード役としてサクラも連れて行く。それから皆に言っておくが、ナミとハカセのことは私がいいと言うまで絶対に話さないよう注意をしてくれ。二人が人質にでも取られたら致命的な状況になるからね」


「ボス氏は地球に移住することをどう思ってる? 俺は賛成だけど、特効薬を見つける目的とは相反するよね。なので、一時的な生活拠点だけでも移す感じになるかもだけど」


 俺は移住について聞いてみた。

 これは俺だけかもしれないけど、地球のこと、結構気に入っているんだ。

 コーラも美味しいし、メイドカフェも最高だしね。


「あのね、ボス……地球に住むなら……私、学校に行ってみたい!」


 それはとてもいい考えだと思う。

 ハカセの常識のなさは、病気で学校に行けなかったことで、共同生活の経験が不足しているのも原因なんだよね。

 学校で友達ができれば、俺との距離感も変わってくるかもしれないしね。


「そうだな……まだ移住を決めた訳では無いが、そうと決まったときは考慮しよう」


「やったあ。ボス、頑張ってきてね!」


 ハカセが力強くそう言ったので、ボス氏の表情がほころんだ。

 相変わらず、ボス氏はハカセに甘い。


 ――


 ボス氏への報告後、俺はナミ氏の研究室へと向かった。

 戦闘データについての報告をするためだ。


「ねえイッチ……戦闘データの中に25万超えがあるんだけどさ、これって例の二階堂って人?」


「うん。実際にカトー氏と戦闘になったんだけど、カトー氏じゃ相手にならなかったよ。二階堂氏は本気を出していなかったみたいだから、実際はもっと強いと思う」


「そう……。宇宙って広いよね。でも、さすがにさっきゅんの方が強いんでしょ?」


「多分ね。サクラ氏、二階堂氏のどちらもサクラ氏の方が強いと認識してたみたいだし、二階堂氏も実際にそう言ってたよ」


「イッチも分かってると思うけど、これってまだ試作品なんよ。このままお蔵入りさせるか、量産して配るべきかちょっと考えちゃうよね」


「カトー氏にとっては厳しい現実になるからね……でも、これがあれば敵の戦力を知ることができるんだよな」


 このメガネ、一見するとあったほうが良さそうに見えるのだけど、これがあるせいで、サクラ氏とカトー氏の足を引っ張るのかもしれない。

 戦闘での強さは、この戦闘力とイコールではないからね。参考程度の数値に振り回されたら困るということだ。


 俺とナミ氏はこの問題を考慮し、実験段階で一旦お蔵入りさせることを考えていたのだけど、二階堂氏の登場で状況が一変したと言ってよいだろう。

 おおまかであっても、彼の強さを把握することは、俺たちの利益に繋がる可能性があるから。


 俺たちが頭を抱えていると、突然研究室のドアが開いた。

 ドアの方を見ると、サクラ氏が少し怖い顔で入ってきた。


 えっ? 何?


「なあ、二人とも……私に何か隠していることがあるだろ? ほら、怒らないから話してみな!」


 いや、もう既に怒ってる感じなんだけど。

 俺が反応に困っているのを見て、ナミ氏が観念したのか話し始めた。


「実はね、ウチがイッチにこのメガネのテスト運用を頼んでいたんだよ」


 ナミ氏はメガネを手に取り、サクラ氏に渡した。


「イチローがさっきまで掛けていたメガネだよな。いつもと違うなとは思ってたから覚えてるよ」


 サクラ氏って、こういうのをよく見てるんだよな……。

 隠し事をしても、なぜかすぐバレるんだけど、観察眼がすごいのかもしれない。


「そのメガネね、見た相手の戦闘力が分かるようになってんの……」


「戦闘力! 強さが分かるのか!」


「そう。でね、地球でもデータを取っていたんだけど、予想外の結果になったから、その情報を公開するべきか悩んでいたんだよ」


「だから、イチローが私のことをジロジロ見てたのか……キモいなと思ってたら、そういうことだったとはね。で、予想外の結果とは?」


 うわあ、全部バレてるのか……。っていうか、キモいって思われてたの?


「さっきゅんの戦闘力がね、計測不能になるレベルで高かったこと。カトリンが思ったより強くなかったこと。例の二階堂という人が結構強いこと……かな」


「具体的な数字は?」


「……カトリンが3万5千、二階堂って人が25万、さっきゅんが200万以上……」


「あー、やっぱりそれくらいの差があったのか……」


「えっ、分かってたの?」


「さすがに分かるでしょ、カトーとは毎日一緒に戦闘訓練してるんだぞ。そのカトーと二階堂さんの戦闘も見て、大体把握はしてた」


「うわあ、さすがさっきゅんだね。でね、このデータを公開したら、さっきゅんとカトリンの訓練に悪影響じゃないかって相談をしてたんだ」


「カトーの奴は、意外とナイーブだからな。私との差だけでも落ち込むだろうけど、二階堂さんまで出てきたからな……」


「そういうことなの。さっきゅんはどうすればいいと思う?」


「こういう場合はボスに丸投げするのがいいかな。ってことで、これのサングラスバージョンを作って、ボスに渡すんだ。ちょうど二階堂さんと会うことになってるから、役に立ちそうだって喜ぶと思うぞ」


「それいいじゃん。さっきゅん、あざまる水産」


「おう。でも、これからは隠さず話してくれよな」


 そう言ってサクラ氏は研究室から出ていった。

 とりあえず問題が解決して、少し落ち着いたのだが……。


「あ、イッチ……。言いにくいんだけどさ……」


「ん? どうした?」


「さっきゅんと話すときにさ、胸を見ながら話すの……やめろし。でかいのが好きなのは分かるけどさ、多分バレてると思うから。ちなみにログの映像にも胸ばかり映ってたからね!」


 ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


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