目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

あなたと、GOOD MOURNING!!

第18話 宣伝、GOOD MOURNING!!

 ここはカフェ“GOOD MOURNING”。

 ザラメが店長として経営する、小さな喫茶店だ。


 今いるのは、相変わらず俺とザラメ、コスズの従業員トリオ、そしてご注文はザラメのデウスだけ。


 6月という梅雨真っ只中の今日この頃。なんとなく気分の晴れない日が続く。

 今だって、ザアザア雨の音が店の中まで聞こえてくるし、湿ったコンクリの匂いがする。


「こーおーりさぁあん、暇ですぅ」

「暇ですぅ……」


 店のカウンター席には、ザラメが上半身を前に倒してお冷をがぶ飲みしている。

 その隣で、コスズがザラメを真似てテーブルに突っ伏す。


「っぷはぁ。全然お客さんが来ないですよぉ。退屈がすぎますぅ」

「すぎますぅ……」


 語尾を伸ばし、呑んだくれみたく駄弁るザラメ。ここは居酒屋か。

 そんなザラメを律儀に倣うコスズ。良い子は真似しちゃいけません。


「ならば、この私を盛大に歓迎しないか? ザラメの淹れた紅茶なら、例え市販のものでも絶品! きっと天にも昇る心地だろう!!」

「いたんですかデウスさん」

「ひどい!!」

「冷やかしに人権はないです」

「過激派!? ……コスズも応戦したまえ!! 私のツカイマだろう!」

「デウス様……注文しないなら帰って」

「辛辣!!」


 俺もお冷を注ぎながら、駄弁ってる3人に言う。


「にしても、まーじで人来ねぇな。経営的に大丈夫なのかよ」

「……1ヶ月は電気ガスなしの生モヤシ生活です」

「ウッソだろ……」

「良いではないか! ザラメの生もやし! ……青年? 何をそんなに怯えている?」

「お前は知らないから、そんな呑気なこと言えるんだよ!!」


 トラウマが頭を過る。




 そう――。

 あれは思い出したくもない昨晩のこと。

 もやし料理とは名ばかりの生もやし盛り合わせに、俺は苦しむこととなった。

 味がないって、めっちゃツラい。シャリシャリと、口の中で響く咀嚼音が無機質に感じられる。


 逃げようものなら椅子に縛り付けられ、


「たんとお食べ……」


 と、さすがにもやしに飽きたらしいコスズに押し付けられ、


「消費期限今日までなので、ほらほらっ!」

「ふごふもごご!!」


 と、ザラメにもやしを口いっぱいに押し込められた、あの夜。


 人の心無いんかこいつら?!

 人じゃなかったよこいつら!!


「もご……吐く……」




 ――という地獄のひと時を経て、今がある。


「なんとかして、俺の平穏を取り戻さねぇと」


 思わず口に出たのは、予てからの痛烈な願いだった。

 ここんとこ、色々ありすぎて疲れたんだよ。主にザラメのせいで。

 まあ肝心のザラメは、そんなこと意に介していないだろうが。


「ふむ」


 デウスが、壁に背をつけて腕を組む。


「今のカフェに足りないものを分析して、改善すれば良いのではないか? 問題あるところに原因あり。その原因を解決すれば、客も来るだろうな」

「な、なるほど……それで、ここで言う原因って何ですか?」

「知名度だろ」


 続けて俺が口を挟む。


「宣伝もろくにしてねぇみたいだし、待ってるだけじゃ、繁盛なんて夢のまた夢だ」

「うう……ということは、宣伝をすれば良いんですね」

「まあ、そうだな」


 確証はないが。


「じゃあさっそく、宣伝活動です!!」

「ワタシも、手伝う……」

「私も付き合うぞ、ザラメ! これぞ初めての共同さぎょ」

「郡さんも! やりましょう!!」

「へいへい」


 安寧のためには、こうするしかないみてぇだ。

 やるからには、とっとと終わらせちまおう。






 止む気配のない雨音が、永遠と耳朶を打つ。


「宣伝って何をすればいいんでしょう?」


 ザラメの問いに、コスズは首を傾げる。

 唸る女子二人に、デウスが切り込んだ。


「SNSはうまく活用した方が良い。例えば、トゥイッターやインストゥアだな」

「ほうほう……」


 真面目にスマホのメモ帳へと書き込むザラメ。

 やる気はあるんだよな、こいつ。


「ザラメはやってるのかね、トゥイッターとインストゥア」

「一応、インストールだけはしてます」

「ならばそのIDを言ってもらえないだろうか。そしてそれを私のアプリに覚えさせてあ"っ冷たっ!! 何するんだねコスズ!!」


 見ると、デウスの手が薄く凍っている。

 コスズが息を吹きかけて凍らせたようだ。


「ワタシ……“ザラ×こお”派閥……」

「何を言ってるのかね?!」

「“ザラ×デウ”……解釈違い」

「解釈違いとは何だ、解釈違いとは?!」


 こいつら……全然話進める気ねぇだろ。


「あれだろ? 店用のアカウント作って、そっから色々発信すれば良いんだろ?」

「つめたぁ……あ、ああ。その通りだ」


 ザラメの持つスマホの画面……そのうちのアカウント作成ボタンを指差す。

 ザラメがそこを押すと、アカウント作成用の入力画面が表示された。そこに書かれた手順に従って、ザラメは黙々と打ち込んでいった。

 が……。


「むむむ……」

「どうしたんだよ」


 悩めるザラメの横から、俺は画面を覗き込む。ザラメは、名前や住所などの基本設定を終え、今はアイコンの設定画面が表示されている。


「アイコン……どうしましょう」

「んなもん適当で良いだろ」

「ダメですよ! 仮にもアイコンはお店の顔です! ……なら、これでどうです?! ザラメたちを象徴する一品です!」


 ザラメが写真を選び、アイコン画面を設定する。

 丸いスペースの中で収まる白く長細いソレらに、俺は息を呑んだ。


「こ、これは……?!」

「もやしです!」

「真面目にやれぇえええ!!」


 先はまだまだ長そうだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?