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第21話 退屈、あいつらのいない午後

 ザラメに仕事をクビにされてはや一週間。

 のんべんだらりな日々が続く。


 ザラメはあれ以来帰ってこない。

 どうやら、カフェで寝泊まりしているようだ。

 時々こっちに来るコスズ曰く、ザラメはずっとご機嫌斜めらしい。


 静かな空間に、茶を啜る音が響いた。

 身体を起こしてテレビを消し、俺はうんと伸びをした。


「……暇だなぁ」


 半ば無意識に、そう呟く。

 空は曇天。雨は降らないらしいが、分厚い雲は空一面を覆い、太陽の覗く隙間はない。


「はぁ、腹減った……」


 時刻は午後3時。

 ちょうど小腹が減る時間だ。


 キッチンの棚を一通り開けるも、めぼしいものはない。


「しゃーね、買いに行くか」


 どーせ暇だしな。解雇されたからニートだし。

 小遣いはあるわけだし、必要なもの買ったら、パチンコにでも行こう。


 俺はお茶を飲み干し、部屋を後にした。




 ショッピングモールの地下モールに赴いた俺は、駄菓子コーナーをゆっくり歩いていた。


「これでいっか」


 選んだのは、こんぺいとうだった。

 ザラメのお気に入りであるこのこんぺいとう。俺だって、この砂糖の粒が嫌いじゃない。


 あいつ、どうしてるかな。


 ふと、そんなことを考える。

 あいつのことだから、無秩序に料理を爆発させてるに違いない。

 カフェ諸共爆発してるのかもしれん。

 今の俺には関係のないことなのに、気になってしょうがねぇ。


 ……確かにあいつ。メイド服を気に入ってたけど。

 あんなにフリフリで女子っぽい服を、着たことがないって言わんばかりに。


 ーー別にいいだろ、服の1着や2着。


 好きなものを軽んじたから。

 だから、いつもだったらぷりぷり怒って終わるところを、クビになんてしたんだ。 



 ……俺にどうしろってんだよ。


 レジで会計をする間にも、思考回路は悶々としてて。

 つくづく厄介な女だと、頭を抱えた。


「――あの、お客様」

「っ、あ。はい」


 若い女性店員に呼びかけられ、俺は我に返る。


「こちら福引のチケットでございます。一等は世界一周旅行。ぜひ挑戦してみてくださいね」


 レシートと一緒に、福引のチケットを渡された。

 場所はここを出たところだ。

 帰りにちょっくらやってくか。




 カランカランと、時折鐘の音がする。


「3等! 最新型扇風機!!」


 大声で叫ぶ若い男性。

 木製のガラガラに玉の当たる音。

 ガヤガヤと、客の声。


 会場は、俺の気持ちを慮ることなく賑わっていた。


「2等……駄菓子一年分か」


 あいつが跳んで喜びそうだ。

 ん? 何考えてんの、俺。

 毒されてんの? あいつに。


 ため息が溢れる。顔が、自然と俯く。

 数十人が並ぶ列の最後尾に並んだ俺は、順番がくるのを、黙って待っていた。


 と――。

 受付の女性が、俺に声をかける。


「はーい、次のか……た」


 その女性と……いや。そいつと、目が合う。

 数秒の沈黙の後、


「「げっ」」


 思わず、そんな低い声が漏れた。

 だって。

 視線を上げた先にいたのは、今最も会いたくない裸コート……ザラメだったのだから。


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