ザラメに仕事をクビにされてはや一週間。
のんべんだらりな日々が続く。
ザラメはあれ以来帰ってこない。
どうやら、カフェで寝泊まりしているようだ。
時々こっちに来るコスズ曰く、ザラメはずっとご機嫌斜めらしい。
静かな空間に、茶を啜る音が響いた。
身体を起こしてテレビを消し、俺はうんと伸びをした。
「……暇だなぁ」
半ば無意識に、そう呟く。
空は曇天。雨は降らないらしいが、分厚い雲は空一面を覆い、太陽の覗く隙間はない。
「はぁ、腹減った……」
時刻は午後3時。
ちょうど小腹が減る時間だ。
キッチンの棚を一通り開けるも、めぼしいものはない。
「しゃーね、買いに行くか」
どーせ暇だしな。解雇されたからニートだし。
小遣いはあるわけだし、必要なもの買ったら、パチンコにでも行こう。
俺はお茶を飲み干し、部屋を後にした。
ショッピングモールの地下モールに赴いた俺は、駄菓子コーナーをゆっくり歩いていた。
「これでいっか」
選んだのは、こんぺいとうだった。
ザラメのお気に入りであるこのこんぺいとう。俺だって、この砂糖の粒が嫌いじゃない。
あいつ、どうしてるかな。
ふと、そんなことを考える。
あいつのことだから、無秩序に料理を爆発させてるに違いない。
カフェ諸共爆発してるのかもしれん。
今の俺には関係のないことなのに、気になってしょうがねぇ。
……確かにあいつ。メイド服を気に入ってたけど。
あんなにフリフリで女子っぽい服を、着たことがないって言わんばかりに。
ーー別にいいだろ、服の1着や2着。
好きなものを軽んじたから。
だから、いつもだったらぷりぷり怒って終わるところを、クビになんてしたんだ。
……俺にどうしろってんだよ。
レジで会計をする間にも、思考回路は悶々としてて。
つくづく厄介な女だと、頭を抱えた。
「――あの、お客様」
「っ、あ。はい」
若い女性店員に呼びかけられ、俺は我に返る。
「こちら福引のチケットでございます。一等は世界一周旅行。ぜひ挑戦してみてくださいね」
レシートと一緒に、福引のチケットを渡された。
場所はここを出たところだ。
帰りにちょっくらやってくか。
カランカランと、時折鐘の音がする。
「3等! 最新型扇風機!!」
大声で叫ぶ若い男性。
木製のガラガラに玉の当たる音。
ガヤガヤと、客の声。
会場は、俺の気持ちを慮ることなく賑わっていた。
「2等……駄菓子一年分か」
あいつが跳んで喜びそうだ。
ん? 何考えてんの、俺。
毒されてんの? あいつに。
ため息が溢れる。顔が、自然と俯く。
数十人が並ぶ列の最後尾に並んだ俺は、順番がくるのを、黙って待っていた。
と――。
受付の女性が、俺に声をかける。
「はーい、次のか……た」
その女性と……いや。そいつと、目が合う。
数秒の沈黙の後、
「「げっ」」
思わず、そんな低い声が漏れた。
だって。
視線を上げた先にいたのは、今最も会いたくない裸コート……ザラメだったのだから。