「――それで本能のままに晴くんのことを襲っちゃった訳だ」
「襲った訳ではないが」
「うーん、ちょっと会話に
翌日。
雫は晴の言う通り、喫茶『ROJI・URA』までやってきていた。そこで、昨日ロジとウラが帰った後に起こったことをありのままに話すと、そこで巻き起こったのは爆笑。恐らく笑うのは悪いと思っているのだろう、震えながら笑いを堪えて話すウラと、それとは逆に隠さず静かに腹を抱えて大笑いをしているロジ。その様子を見て、雫はムッと口を尖らせた。
大切な、それに匿ってくれている命の恩人に攻撃を加える訳がないではないか。
そう不満に思いながら、コトリと音を立てて目の前に置かれた珈琲に視線を落とした。この二人はこういう人だから、と晴に聞いてはいたが、それでも言う。そんなに面白いことなのか。と。
未だに笑いで震えている二人を見て首を傾げ、もぞりと居心地が悪そうに身動いだ。
「ごめんごめん。でもま、確かに晴の言う通り、順序があるとオレも思うな」
「順序とは?」
「やっぱりそこからか〜!」
声を揃えて言った二人はもう限界で、腹筋崩壊と言わんばかりにあっはははと声をあげて爆笑する。それを雫はきょとんとして見るばかりだ。
「とにかく。雫は晴に自分の気持ちを伝えてみなよ」
「気持ち、か……」
そんなものよく分からない。というのが本音だ。
自分の持つモヤモヤとした気分がなんなのか、何故、晴にあんなことをしてしまったのか。自分の気持ちというものも、最近の己の行動もよく分からない。
暫く熟考するが、矢張り答えは見つからないのだ。俯く雫を見たロジは、隣に座るウラの髪を撫でながら、ふふ、と笑う。
「確かに雫くんはそういうのに無縁な環境で生きてきたし、ボクたちみたいに初めからプログラムされている訳じゃないから、そんなすぐには分からないんじゃない?」
「そっか」
雫が悩んでいるのをよそに、珈琲に口をつけたロジの言葉に納得したウラは頷くと、カウンターの上に肘をついてカラカラとアイスティーの氷を混ぜた。
「でも、本能的にそんなことをするくらいなら、何かはあるでしょ?一緒にいて楽しいとか、手を繋ぎたいとか……」
「ああ……そういうことなら。あいつといると変な感じはするが、心地良い」
「それを直接晴くんに伝えてみれば?彼なら理解するでしょ」
顔を顰めながら言った雫の言葉に頷いたロジは、不敵に口角を上げた。