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13「魔族じゃないですか」

 ようやくアンセムの街に辿り着きました。ようやくと言っても予定より早く着いたんですけどね。


「「これはパンチョ様! 見回りご苦労様です!」」


 門番の二人が息ぴったりにパンチョ兄ちゃんをねぎらいます。さすがに勇者ファネルの公認弟子、この大きな街でも有名人になっているようです。


「しかしパンチョ様といえども、門が開く前に街の外に出るのは慎んで頂きたい」

「すまぬな、マロウが暴れている気がしたので開門を待てなんだわ」

「してこちらは?」


 我々の番ですね。何故かタロウが僕の後ろに隠れています。公的なものが苦手なんでしょうか。


「僕らはペリメ村のヴァンとタロウと申します。所用がありましてアンセム様を尋ねる最中なんです」

「なんとアンセム様とな? いきなり行っても会えぬと聞くが……」


「え? そうなん? ちょっとヴァンさん大丈夫なん?」


 タロウ、言いたいことがあるならはっきり言えば良いでしょう。僕の後ろで小声でボソボソと。


「大丈夫だと思います。古くからの知り合いですし、父の言いつけで伺いますので」

「古くからの?」「父?」

「この者は『真祖の吸血鬼』ブラムの子よ。大丈夫であろう。我が証明する」


 二人の門番が相談の結果、問題なしと判断したようです。無事に街に入れました。


「では我の家へ参れ。昼食にしてから街長の元へ参ろう」

『腹ヘッタ』


 三人と一頭でパンチョ兄ちゃんの家へ向かいます。久しぶりに来たアンセムの街は相変わらず活気がありますね。タロウは店を覗いてはヨダレを垂らしています。


 道々、街の人たちがパンチョ兄ちゃんに声を掛けていきます。人気者のようですね。プックルは子供たちに人気のようです。


『人デモ、子供カワイイ。ドノ種族モ、子供ハカワイイ』


 長文も喋りましたね。これは物凄い魔獣を貸して頂いてしまいました。


『タロウモ、マダ子供』


 完全に成人してるんですがタロウは子供扱いだったようです。僕はタロウをかわいいとはちっとも思いませんが。

 何が基準なんでしょう。精神年齢ですかね。

 今もプックルはタロウと並んで機嫌よく歩いています。気に入られたようですね。


「ここだ」

「デカいっす! 豪邸じゃないっすか!」


 大きいです。タロウと同じく驚きました。


「五十年以上も街の騎士として仕事しておったらな、知らぬ間に貴族になっておったのだ。肩書きがつくとそれなりの家に住めと言われてな。ちょうど売りに出ておったので買った」


「お高かったでしょう?」

「知らぬ間に金も貯まっておったのでな」


 タロウを見るとポカンとしていました。働く事が如何に大事か分かったでしょう。


「帰ったぞサバス。客もいる、昼食を頼む!」


 パンチョ兄ちゃんは扉を開け、大声でどなたかに呼び掛けました。間をおかず、黒が基調のキチッとした服装の老年の方が姿を見せました。


「お帰りなさいませ、パンチョ様」

「うむ。ファネル様の盟友、真祖の吸血鬼ブラム様の子ヴァンと、その友人タロウだ。簡単で良いので昼食を頼む」

「畏まりました」


「昼食が済んだら街長の所へ行き、それが済んだら我は旅に出る。すまんが旅の準備も頼む」

「旅、でございますか?」


「うむ。我ももういつお迎えが来ても良い老人だ。ファネル様に最期のご挨拶を思い立ったのでな」

「お三人で?」

「いや、我は一人旅だ。ヴァンらには別の旅がある」

「そちらも畏まりました」


 大きな部屋に案内されました。食堂のようですね。しかし本当に広いですねこの家。


「昼食が整うまで、こちらでしばしお待ちくださいませ」




 タロウは座らずにキョロキョロと辺りを見渡して、飾られた調度品の数々を入念に観察しています。


「意外と趣味良いんすね」

「ほぅ、分かるかタロウ」


「いや、全然」

「そうであろう。我も全く分からん」


 なんだかんだで仲が良さそうでなによりです。


「そこらの物は全てサバスに任せておる。サバスに任せておけば間違いはない」

「サバス殿は魔族の血が入っているようですね」


「分かるか。さすがは真祖の吸血鬼の子」

「ちょっとちょっと、魔族ってあかんやつちゃうんすか!?」


 またタロウが騒いでいます。ばたばたと近付いて来ました。


「何言ってるんですか?」

「だって魔族って人族の敵とか、悪魔とか、なんかそんな感じですやん!」


 タロウの世界ではそうなんですね。ちょっと傷付きます。


「今更何を言うんですか。僕だって半分魔族じゃないですか」


 少し沈黙。


「魔族ってなんなん?」

「説明しませんでした?」


 魔族とは、特に人族と大差ありません。

 人族と人族との間に突然産まれる異能を持った者、そしてその子の血を受け継いだ者たちの事です。


 中でも最初に産まれた者を真祖と呼びます。例えば僕の父がいい例です。

 父は他者の血から活力を吸収し、吸収された者を自分の眷族として操るという異能を持って産まれた為、『真祖の吸血鬼』と呼ばれています。

 太古より様々な異能が確認されており、その度に様々な『真祖』が生まれるという訳です。

 不思議な事に、真祖として産まれた者は、物心つく頃には自分の異能について自ずと理解するそうです。


「タロウ、寝ないでください」

「……寝てなっす!」


 言葉がおかしいですよ。


「質問!」

「どうぞ」


「どんな異能があるんすか?」


「良い質問ですね。本当に多種多様で、目から発した光で他者を眠らせる、ひと睨みで石化させる、獣と会話する、手をかざしただけで傷を癒す、飛ぶ、などなど様々です」


「はい!」

「はい、タロウ!」


「その様々な異能って、なんとなく魔法で出来そうなことばっかりじゃないっすか?」

「そう、その通りです。タロウ君は大変良いところに気がつきますね。魔法とは、魔族の異能を再現する為の力と言われ――」

「ウォッホン!」


「授業も良いがお主ら、サバスが困っておる。続きは今度にせぇ」


 あ、これは失礼しました。昼食の用意が出来ていましたか。

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