「あーもうマジで疲れた無理だ動けねぇ」
ドサっとベッドに倒れ込むなり、ライアンはそんなことをぼやく。
「ちょっとライ。髪乾く前に寝たら風邪引くわよ?」
「分かってるけど無理……」
ベッドのすぐ脇では、汚れがすっかり落ちたイニが仁王立ちになって今にも眠ってしまいそうなライアンを睨んでいる。しかし、そんなことお構いなしにライアンは今にも襲いかかる睡魔の誘惑に負けてしまいそうだった。
「まあ、あんだけ部屋が散らかってたらしょうがないとは思うけど……」
「だろぉ? まさかあんなに部屋にゴミがあるとか思わねえよ」
「まあねえ」
苦笑いを浮かべるイニに、ライアンは深いため息をもって、どれだけ疲れたかを訴える。
「じゃあ、わざわざ片付けなくてもよかったんじゃない?」
「いやあ、流石に飯食わしてもらっただけじゃなく、シャワーも使わせてもらって、その上こんなに柔らかいベッドで寝泊まりさせてもらうんだしさ。っつーか、あの状況見て片付けないって選択肢はねえよ」
「まあ……足の踏み場もなかったもんね」
「だろ? だからまあ、お礼ってやつだよ」
黄色く黄ばんだ天井を見上げながら、ふぅと息を吐くと、疲れも一緒に流れ出ていくようだった。
「こうやってベッドに横になったのっていつぶりだっけ?」
「えーっと、最後に宿に泊まったのが半年は前だから、それ以来じゃない?」
「うえっそんな前だっけ?」
思い返してみると、確かにそんな気はする。
「あの時は宿に泊めてもらう代わりに、食堂の机を全部修理したんだっけか……あれもあれでマジで疲れたけど、飯食わしてもらって風呂入れてしかも寝るとこもあって。目的のない旅だったらあっこに住んでたかもな」
「アハハッそもそもライの性格だったら旅に出てないんじゃない?」
「んーそれは言えてるか」
ケラケラと二人で一通り笑ってから、ライアンは「なぁ」とイニを呼んだ。
「何?」
「やっと二個目だな」
「今回も偽物かもよ?」
「もちろんその可能性はあるけど、それでも今回のやつは魔法を使ってるって言ってたし、本物の可能性の方が高いんじゃねえかな」
「どーだか」
肩をすくめて言うイニに、ライアンは再び笑う。それから、少しだけ声のトーンを落として、呟くように言った。
「きっと本物だよな」
「……だといいわね」
きっと大丈夫だと、願っているものがあるはずだと、二人は信じてこの町にやってきた。もちろんこれまでみたいに偽物の可能性だってある。それでも、心から望んだものが、また一つ手に入るかもしれないから。二人の旅の終わりが、また少し近付くのだとしたら、何があっても前に進むしかない。
「でもなあ、情報収集するったって、どーすればいいんだろうな」
「聞き込みとか?」
「最近怪しい人見ませんでしたか? って訊いたところで、避けられるのがオチだろうなあ」
「だよねぇ……」
うーんと二人して唸っていると、ライアンが突然「あっ」と声を上げた。
「どうかした? 名案が思い浮かんだの?」
「あぁ。この前の町でやけに横暴なおっさんがいただろ? 覚えてるか?」
「あーライのことを貧乏人ってバカにしてきた人? それがどうかした?」
「そうそう。すんげぇ腹立つあのクソジジイな。思い出したらぶん殴ってやりたくなってきた……じゃなくて、あいつの持ち物、覚えてるか?」
「やけに金ピカのアクセサリーに、でっけぇ宝石何個もジャラジャラ見せびらかすみたいに着けてて嫌味ったらしかったよね」
「そう。そこで、だ。俺に考えがある」
「何だか嫌な予感がするんだけど……」
ケケケと不気味に笑うライアンとは対照的に、イニは顔を引き攣らせることしかできなかった。