「くちゅくちゅくちゅくちゅ…………」
よく口の中を水でゆすいで……。
「――ペっ! ど、どうかな?」
歯磨きで使った炭を洗い流して、口の中をアリサに見せた。
僕的に口の中を見せる行為はあまりしたくは無いんだけど、本当に炭で歯磨きが出来ているのかを見てみたい! とアリサにめちゃくちゃせがまれて、見せる羽目になってしまった。
「どれ、どれ~……ん~……あまり、変わっている感じが無いよ? 本当に、磨けているの?」
「……た、たぶん……」
すっきりした感じはあるんだけど……これは気分的な問題かもしれない。
まぁ炭を噛んだだけだから、歯を磨いた感は全くはない。
一応指で歯を擦ったけど、歯ブラシ的な物が欲しいな。
そういえば江戸時代の時代劇か何にかのドラマで、木の棒と塩を使って歯を磨いてるシーンがあったな……棒の先がブラシ状になってたけど、あんなフサフサな状態どうやって作ったんだろう。
細かく刃を入れた? でもそれだと、あんなに細かくは無理だよな。
うーむ……。
「やっぱり、歯磨きは歯ブラシが、無いと駄目よ」
「……だ、だよね……え? 歯ブラシ? こっちにあるの!?」
この世界にはそんな物は無いと勝手に思っていた。
「うん、あるわよ」
そうだよな。
食べ物を食べるんだから、どんな世界だろうと歯を磨く物が出てくるのは当たり前か。
「ち、ちなみにこっちの世界の歯ブラシってどんなの?」
僕の世界と同じなのかな。
いや、でもプラスチックは流石になさそうだし柄の部分は木とか?
「どんなのって……ちょっと、待って。今、作るから」
「へっ? 作る?」
こんな何もない島で?
「う~んと……これで、いいかな」
アリサはその辺りに落ちていた細目の木の枝を拾い上げ、樹皮をペリペリと剥き始めた。
やっぱり柄は木なのか。
「本当は、先端部分をお湯に入れて、柔らかくするんだけど……今は出来ないから、とりあえずこの状態で、やってみるね」
そう言うとアリサは枝を石の上に置いて、枝の先端部分を別の石でガンガンと叩き始めた。
枝の先端は潰れ、細かく裂かれた状態になって来た。
「ん~…………やっぱり綺麗に、出来ないな。本当なら、先がもっと柔らかくて、バラバラになるんだけど、今はこれしか無理ね」
アリサから手渡されたのは、先端部分がブラシ状になっている棒。
ぱっと見は木で出来た毛先の歪なメイクブラシだけど……。
「こ、これは……」
江戸時代の作品で見た歯ブラシとほぼ同じ物じゃないか。
まさか、こんな形で異世界との接点を見つけられるとは思いもしなかった。
「どう、したの?」
「い、今は使われてないけど、これによく似た物を僕達の先祖が使っていたんだよ」
「へぇ~、そうなんだ」
ただ、アリサが作ってくれたこの歯ブラシは使えないな。
ブラシ部分があまりにも硬すぎる。
こんな硬い物で歯を磨いたら、口の中が血まみれになっちゃうよ。
次うまくできたら使わせてもらおう。
無人島で虫歯になったら一貫の終わりだからな。
「は、歯ブラシを見せてくれてありがとう」
「うん、どういたしまして~」
さて、歯ブラシの件も一区切りついたし次の作業に入りますか。
えーと、まずはこの出来た炭に火を付けないとな。
かまどはもう火が付いているから、その中に炭を入れて無理やり付けるとして……後ほしいのはシェルター内のかまどの方か。
「ぼ、僕はシェルターのかまどに火を付けて来るから、アリサ……さんは小魚をバムムの網に乗せて、日の当たる所に干しておいてくれないかな?」
「わかったわ、まかせて」
干物はアリアに任せて、僕は炭を数個と取っておいた小枝をたくさん手に持ちシェルターへと入って行った。
無人島に着火剤、バーナー、新聞紙とかが無いので、これらの方法で炭に火を付ける事はもちろんできない。
現状で出来るとすれば割り箸……も無いので、代わりに小枝を使って炭に火を付けてみよう。
動画でも割り箸が無ければ落ちている小枝でも出来るって言ってたしな。
やり方はすごく簡単。
まず、空気が入りやすい様に隙間を少し開けて炭を並べる。
並べた炭の上に小枝をたくさん乗せる。
そして小枝に火を付けて、炭の上で焚き火をする。
あとは火が消えないように小枝を足していくだけだ。
「もーえろよ、もえろーよー……」
火って、見てるとなんでこんなに心が穏やかになるんだろうか。
ずっとこのまま何もせずに見ていた……。
「ねぇねぇ~! 中身がないミースル、あるんだけど!」
……かったのに、アリサの声に現実へと戻された。
はいはい、貝殻の使い道ね。
火が消えない様に小枝を多めに放りこんで、シェルター外へと出た。
「そ、それを使って畑を作ろうと思ってね……」
「……はい? 畑? え、こんな島で畑を? しかも、貝殻で!?」
「う、うん。僕の世界だと普通に使われているよ」
ただ、使われてるのはカキや甲殻類の殻だからミースルが使えるどうかわからないけどね。
とはいえやってみる価値はある。
だから持ち帰って、沢で体を洗うついでにミースルについた海水も洗い流しておいた。
「どうやって、使うの?」
「こ、粉々に砕いて土と混ぜるんだよ。他にも、草木の灰とかも混ぜたり……」
灰は焼き畑農業で有名。
貝殻、灰の成分が土を強くしたり栄養なるらしいけど……詳しくは僕もわかんないんだよね。
某TV番組で紹介されてて、へぇーそうなのかー程度の知識のみ。
「へぇ~……そう、なんだ。貝と灰、でねぇ……」
「こ、今後、卵芋や他の野菜を拠点の近くで栽培して収穫出来たら楽でしょ? だから、今のうちに畑作りもしておこうかと思っとね……」
「リョーって、よく色々と思いつくわね」
「そ、そんな事ないよ……」
全部見様見真似だから、特に褒められる事じゃないんだけど……とはいえ、褒められるのはやっぱりうれしい。
「と、とりあえず、その貝殻も干しておいてくれる?」
貝殻は乾燥させた後、細かく砕くからやるのは明日以降になるな。
えーと、シェルター内に炭を入れた。
干物、貝殻も干した。
土器、火おこし用のバムムもかまどの近くに置いて乾燥中……おっと、土器を焼くところを作らないといけない。
今回は大きいから、焚き火の中に入れられないからな。
いつもの様に穴を掘ってになるんだけど……何処がいいだろう。
あまり穴が多いのも不便になっちゃうし……そうだ、蒸し焼きで使った穴を再利用しよう。
ある程度掘り返さないといけないけど、土が柔らかくなっている分1から穴を掘るより楽だ。
「よーし、頑張るぞ!」
と、意気込んで蒸し焼きで使った穴を掘り返し始めた。
が、楽だと思ったのは最初だけ。
蒸し焼きで掘った分では土器3つが入るわけもないので拡張する羽目になった。
結局、この日の残りはその作業で辺りは暗くなってしまった。
夕食は焼いた小魚を温め直して食べて、寝る前に今日最後の作業。
乾燥が出来た土器と穴の中に入れ、土器を葉や枝で全体を覆う。
そして火をつけて土器を焼く。
本当なら雨対策で屋根を置きたいけど、燃え移ってしまうと悲惨な事になってしまう。
これからの事を考えると、この対策もしないといけないな。
とはいえ、明日の朝この土器たちがどうなっているのか楽しみだ。
土器があれば生活において必要な物がたくさん作れるようになるからな。
どうか、雨が降らず、ひび割れもしませんように……そう祈りつつ、僕はベッドの上で横になった。
今日は疲れたからすぐに眠れそうだな……。
……と思っていたんだけど、甘かった。
「……」
「……す~す~」
「……」
「……す~す~」
「………………うう……寝れないよ……」
どんなに疲れていても、横で寝ているアリサの存在が気になって眠れない。
本当に倒れちゃうよ……誰か……助けて下さい……。