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4、植物の使い道

 どうする……どうする……どうしたらいいんだ。

 僕は頭を抑えて、その場にうずくまってしまった。


「ん? えっ? ちょっちょっと、どうしたの!」


 そんな僕の姿に驚いたアリサが、慌てて傍まで駆け寄って来た。


「大丈夫? 頭、痛いの?」 


「まずいよ! このままだと葉っぱ1枚になっちゃう!」


「はあ? 葉っぱ1枚? え? なに? なんの事、言っているの?」


「服だよ! このままだと葉っぱ1枚に! あーー! どうしたらいいんだ!!」


「どうして、服が葉っぱに? 訳が分からないから、ちゃんと……」


「ああああ! いい解決策はないものか!!」


「……駄目だ、まったく会話、成り立たない。も~……しかたが、ないな~」


 アリサは土器を拾って、沢の水をすくい――。


「落ちつき、なさい!」


 僕の顔めがけて、勢いよく水をぶちまけた。


「はぶっ!」


「どう? 少しは、冷静になった?」


「………………はい」


 あーあ、服の問題なのにびしょ濡れになっちゃったよ。

 取り乱した僕が悪いから、文句は言えない。


「じゃあ、ちゃんと説明、してくれる?」


 僕は濡れたシャツを脱いで絞りながら、アリサに説明した。

 一通り話し終えると、アリサはため息をつき。


「……はあ~……なんだ、そんな事か」


 そんな事の一言で済まされてしまった。

 いやいや、ある意味この島で一番大きい問題でしょうに。


「うちは、別に服が無くても、気にし――」


「それは駄目!」


 言うと思った!

 それは僕の命に関わる事だから、絶対に拒否!


「じゃあリョーが、裸でもうちは、気にし――」


「それも駄目!」


 それはそれで耐えられないっての。

 うーん……これはもう洗濯をしたら、アリサとは離れて1日作業をするしかないか。

 不便なところも出て来るけど背に腹は代えられないからな。


「もう~わがまま、言い過ぎ……仕方ないな~。ちょっと、待ってて」


 そう言うと、アリサは森の中へと走って行った。

 待っててって、一体どこに行ったんだろう。




「ただいま~」


 しばらくすると、虹色の大きな葉っぱを両手に持ったアリサが戻って来た。

 あれはシェルターの屋根に使った奴だよな。


「服、とまではいかないけれど、即席の雨具として、使っているわ」


 雨具? 大きな葉っぱを見ると傘のイメージしかないんだが……。


「ここを、こうして……」


 アリサは大きい葉っぱを半分に折り曲げた。

 そして、折り曲げた真ん中の部分を足の爪で丸くくり抜いた。

 あーなるほど、葉っぱをポンチョみたいにするのか。


「これで、よし。はい、着てみて」


 僕は渡された葉っぱを被り、穴から頭を出した。

 うん、長さも十分で下半身も隠れている。

 ただ真横が開いて丸見えになっているから、蔓か何かで閉じないといけないな。

 それ以外だと特に問題はなさそうだ。

 流石にずっとは辛いけど、一時的な衣服として使えるな。

 これはこの世界でしか出来ない事だ。


「どう?」


「あ、うん。これなら大丈夫……かな」


「そっ、良かった~」


 服の問題が簡単に済んでしまった。

 てか冷静になって考えれば、葉っぱがついた蔦を腰辺りにグルグル巻き付けて、腰ミノみたいにしても良かったじゃないか。

 なにが葉っぱ1枚で前の部分を隠す事しかないだ……馬鹿すぎるぞ。



 沢でのひと騒動も解決して、僕達は拠点へと戻って来た。

 えーと、拠点に異常は……ないな。

 もしかしたら猪鹿蝶に荒らされているかもと思ったけど、何もなくて良かった。

 特に干してあった干物なんて、食べて下さいと言っている様なものだからな。


「拠点、ジロジロと見て、どうしたの?」


「きょ、拠点が猪鹿蝶に荒らされてなくて良かったなって」


「あ~、そういう事ね、確かに……。ん~イノシカチョウ、いるのが分かったし、何か対策した方が、良いわよね」


 対策か。

 進入防止の定番といえば柵になるんだけど、あの巨体だと簡単に壊されるよな。


「き、木の柵だと簡単に壊されてしまうのが目に見えているから、丸太か土を使っての頑丈な壁を作るのが理想的なんだけど……」


「そんな頑丈な壁、作るとなると相当、時間がかかっちゃうだね」


 そうなんだよな。

 その日暮らし状態だから、流石にそこまで手は回らない。

 どうしたものか……。


「ん~……じゃあ、あれを使うしか、ないか……本当は、使いたくないけどな~」


「? あ、あれ?」


 あれって何だろう。

 眉間にしわ寄せているけど……。


「あの辺りに、生えてたわね。ま~た、走らないとか……うち、ちょっと採ってくるから、火起こしておいてくれる?」


「あ、うん。わかった」


 アリサは駆け足で森の中へと入って行った。

 あの辺りに生えてるとか言っていたから、植物を取りに行ったのかな。

 植物……ああ、そういえばヨモギの葉を燃やすと虫よけ効果があるって話を聞いた事があるな。

 そんな感じで動物よけの効果がある奴を採りに行ったのかも。

 でも、なんで眉間にしわを寄せていたんだろうか。

 ……まぁ植物と決まったわけじゃないし、1人だからバムムで火起こしをしておくか。




「ただいま~」


 火を起こし、土器の乾き具合を確認しているとアリサが戻って来た。

 その手には白い球体で真ん中の部分に丸い黒いシミがあって、まるで目玉の様な……。


「――って! それ、眼じゃないか! ちょっと! ど、どっからそんな物を持って来たんだよ!」


「あはは、びっくり、しないで。これ、眼に見えるけど、花のおしべよ」


「……へ? おしべ?」


 アリサの持っている目玉をよく見ると、確かに質感が植物っぽい。

 あれ? これってどこかで見た事がある様な……そうだ、この無人島についた時に見たおしべが眼の様に見えた花のやつだ。

 こんなもので動物よけ? ああ、わかった!


「こ、これを吊るして獣よけにするわけか!」


 僕の世界だとカラスよけとしてよく見る奴だ。

 こっちの世界だと猪鹿蝶に効果があるのか。


「え? そんな事、しないわよ」


 違うのかい。

 どや顔で言った自分がすごく恥ずかしんだけど。


「使うのは、汁の方。こうして、石を押し付けて……」


 アリサが鼻をつまみながらゴリゴリと眼……もといおしべを潰し始めた。

 おしべとわかっていても、見た目的になんかグロイな。

 にしても、なんで鼻をつまんでいるんだろう。


「……――っ! くっさっ!!」


 何だ!? このものすごい悪臭は!!

 ドブ川の様な腐った生ごみの様な、とにかく吐きそうほど臭い!

 アリサが鼻をつまんでいた理由はこれか!


「臭い、でしょ。この臭いで、動物が嫌がって、逃げるの」


 そりゃそうだろう! こんなのハエみたいな悪臭に引き寄せられる生物以外は全部逃げるわ。

 アリサの眉間にしわが寄っていたのはこういう事だったのか!

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