「まあ住むとこはここしかねぇし、我慢するしかねぇか」
嫌なら他の所で自分で作れっての。
こっちは歓迎なんてしていないんだからな。
あーだこーだ言いつつクラムは拠点内を歩きはじめ、ジロジロと辺りを見わたしている。
「……ん? これはなんだ、器か?」
クラムが手にしたのは乾かしている最中の土器じゃないか。
あんなに乱暴に持ちやがって、割れたらどうすんだよ!
「これには何が入って……おっ? ここにも酒があるのか、どれどれ……」
クラムはさっきの嵐の時に溜った土器の器の雨水を手ですくって一口飲んだ。
「チッ! ただの水じゃねぇか!」
ただの雨水です。
つか、水か酒かなんて口につける前に臭いでかわかるだろう。
「おい! 酒はないのか? 酒!」
「……お酒なら、手に持っている、じゃない」
そうそう、お前が持っているその密造酒しかありません。
「うるせぇ! これ以外の酒の事を言ってんだよ! そのくらい分かれや!」
逆ギレもいいところだな。
そもそも、なんでお前の事を思わないといけないんだよ。
「ったくよ……おっ、干し肉があるじゃねぇか」
「あっ! それは!」
貴重な猪鹿蝶の肉!
「ちょっと待っ――!」
僕が止める間もなく、クラムは手にした肉を口の中へと放り込んだ。
「ムシャムシャ……チッ、かてぇなこの肉……」
「ああああああああああ!!」
一口で食べちゃった!
貴重な肉の保存食だったのに!!
「あん? なんだ、うっせぇな……肉を食ったくらいで叫ぶんじゃねぇよ」
叫びたくもなるっての!!
「偶然いた猪鹿蝶を捕まえて、なんとか手に入れた貴重な肉だったんだ! それを食いやがって!」
「んだよ、そんな事かよ。あぐっ」
僕が怒っているのに、なんで2枚目も食ってんだ。
「いいか? 1匹見たら3匹、4匹はいるもんだよ」
なんだ、そのゴキブリ理論。
確かに島の隅々まで探していないから、可能性は無くはないけど……。
「だから、今すぐ探して来い。俺様はこんな硬い干し肉なんかより、普通の肉が食いてぇからな」
「はあ? 今から探して来いって、おま――」
「サンダーボルト」
クラムの右手が光ったと同時に僕の真横を電撃が走り、後ろにあった木に当たった。
「いいか? 今のはわざと外したんだ、また気絶されると面倒だからな……もう一度だけ言うぞ、さっさと探しに行きやがれ」
「……っ」
くそっ魔法が使えるっていうだけで、こんなにもこいつが有利に立つなんて思いもしなかった。
「わかったわ。リョー、行きましょう」
黙っていたアリサが、僕の腕を掴んで引っ張った。
「いや、でもさ……」
「……」
アリサから無言の圧。
はあ……ここは言う事をきいた方が良さそうだな。
「……わかった。行こう」
「早く捕まえて戻って来いよな」
偉そうにしやがって。
なんで僕達が作った拠点で、こんなにもでかい顔をされないといけないんだ。
「ふざけんなっての!」
僕は傍にあった木を蹴り飛ばした。
こういう八つ当たりは良くないのはわかってはいるけど、どうしても我慢できなかった。
「困った、ものよね。これ、無かったら、うちも色々と、言えるんだけど……」
ああ、あいつに対して強く口答えをしなかったり、素直に言う事をきいていたのは首枷のせいか。
「はあ~……今すぐ、ここから飛んで、逃げたいわ」
「ぼ、僕もすごく逃げだしたいよ」
無人島である限り、それは出来ないんだけどな。
「あ、逃げ出すといえば……ねぇねぇ、船かイカダを作って、この島から出るっていうのは、どうかな?」
あー無人島から脱出する手段として、船やイカダを作るというのは定番だ。
でも、現状それが出来ないんだよ。
脱出できそうなら最初からやっていたからな。
「ふ、船かイカダで海に出るのは陸地が見えるか、そこに行けば救助される可能性がある場合だけ。目的地も無しに、海の上に出るのは相当危険なだけなんだよ」
「相当、危険か……確かに、この島の周辺って、何も見えないものね」
「そ、そういう事。それに食料、特に水の確保が難しいから余計にね」
「水の確保? 海水を飲んじゃ、駄目なの?」
「そ、それは絶対に駄目! 海水を飲むと、塩分のせいで余計危険な状態になっちゃうんだ」
「あ~だから船に、普通の水を乗せてるのか……いい方法だと、思ったんだけどな~」
水の上にいるのに水が飲めない。
本当、おかしな話だよな。
「と、とりあえず、この話はここまでにして他に猪鹿蝶がいないか痕跡を探してみようか。肉の確保はしたいし」
「うん。じゃあ、うちはこっちを探すね」
僕はアリサと反対側を探してみるか。
何か見つかるといいな。
※
日も落ち始めてきたな。
結局、猪鹿蝶や他の動物の痕跡は見当たらなかった。
「な、何も見つからなかったけど……これ以上暗くなったら拠点に戻るのが大変だし、ここまでにしようか」
「そうね」
クラムの奴にグチグチと文句言われそうだな。
いや、愚痴よりも先に雷魔法が飛んできそうだ。
くそっなんであいつなんかに、ビクビクしないといけないんだか。
あれ? 拠点に戻って来たけど、クラムの姿がないぞ。
ラッキー! クラムがいなくなってくれた方がうれし――。
「……グガー……グガー……」
「……」
シェルターの中からいびきが聞こえる。
覗き込んでみると、案の定俺のベッドの上でクラムが寝ていた。
人に仕事を押し付けて、自分は酒飲んで昼寝ってか……叩き起こしたいけど、起こした方が色々とうるさいからこのままにしといた方がいいか。
とはいえ、俺の寝床は取られてしまっているから野宿確定か。
「まったく……起きていても、寝ていても迷惑な奴だ」