「ほっほー! 見てみろや菓乃子! ホンマに空飛んどるで!」
「ピッセ! 恥ずかしいからそんなにはしゃがないでよ」
そもそもピッセは宇宙海賊のキャプテンだったんだから、空飛ぶ乗り物は珍しくも何ともないでしょ。
……いや、乗り慣れてたからこそ、久しぶりに乗った空飛ぶ乗り物にテンションが上がってるのかな。
そう考えたら小さな子どもみたいでちょっとだけ可愛いけど、実際は201歳のおばあちゃんだからなぁ。
「ところでピッセ、本当に堕理雄君と沙魔美氏には、今日のことバレてないんでしょうね?」
「あ、ああ、バッチリや。まあ、先輩には昨日スパシーバで、『やけにソワソワしてるけど、何か楽しみなことでもあるのか?』って訊かれたけど、適当に誤魔化しといたわ」
「本当に大丈夫それ!?」
堕理雄君にならまだしも、沙魔美氏にバレたら、この旅行自体を台無しにされかねないよ!?
ハア。
まあ、その時はその時か。
でも、まさか私の21歳の誕生日を、こうしてピッセと二人で過ごすことになるとはね。
こんなこと、ピッセと出逢った当初は、夢にも思わなかったな。
二週間程前のこと。
夜中に急にピッセから電話が来て何事かと訝しんだら、再来週の私の誕生日、二人で北海道に一泊二日の旅行をしたいと言ってきた。
そんな唐突に!? と、戸惑いを隠せなかった私だけど、どうやら前に私が北海道に行ってみたいと言ったのをピッセは覚えていて、前々からコッソリ計画してくれていたとのことだった。
しかも既に飛行機のチケットと宿は、二人分取ってしまっているとも言われた。
もし私に断られたらどうするつもりだったの!? と、一層戸惑った私だけど、そんなところもピッセらしいのかもしれないなと、妙に腑に落ちたところもあった。
特にその日は予定もなかったし(また去年みたいに沙魔美氏達がサプライズパーティーを計画してくれてる可能性はあるけど)、北海道に行ってみたかったのは事実なので、今回はピッセの厚意に甘えることにした。
その翌日、スキップまじりに本屋さんに北海道の旅行雑誌を買いに行ったのは、私だけの秘密。
残る問題は、どうやって沙魔美氏達にバレずに旅行するかだった。
極論、沙魔美氏以外の人にバレる分には特に問題はないと思うけど、沙魔美氏にバレた場合は、絶対にまた嫉妬の炎に燃え狂うはず(愛されてるな私……)。
だから私は、誕生日は家族旅行するという嘘を、事前にそれとなくみんなに伝えたのだった。
ピッセもその日は、用事があるからと言ってスパシーバの休みを二日間もらったみたい。
これで多分、みんなに私達が二人で旅行することはバレないとは思うけど、どうしても一抹の不安は拭い切れなかった。
まあ、バレたらその時は腹を括るしかない。
運が悪かったと思って諦めよう。
幸い誕生日当日の今日まで沙魔美氏にバレた様子はなく、こうして無事飛行機も離陸できたことで、私はやっと少しだけ胸を撫で下ろした。
左隣の窓際の席に座っているピッセは、未だに眼をキラキラと輝かせながら、外の景色に見蕩れている。
本当に子どもみたい。
まあ、いくつになっても子ども心を忘れてないのが、ピッセの良いところの一つなのかもしれないけど。
あ、そういえばスマホの電源を切り忘れてた。
私は慌ててスマホを機内モード設定してから、バッグの中に仕舞った。
ただ、スマホを仕舞いながら私は、離陸する直前にネットニュースで偶然見かけた記事の内容を思い出して、何故か少しだけ背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
「オウねえちゃん、北海道は初めてかい?」
「え?」
その時ふいに、通路を挟んで右隣の席のおじさんが、私に話し掛けてきた。
小太りで若干不潔感漂う出で立ちをしていて、正直苦手なタイプだ。
「え、ええ……初めてです」
「そうかいそうかい。俺は地元が北海道で、久しぶりに帰るとこなんだけどよ。ねえちゃんさえよかったら、向こうに着いたら観光地とか案内してやってもいいぜ」
え?
もしかしてこれナンパ?
よりにもよってこんなおじさんに?
……勘弁してよ。
せっかくの誕生日旅行だっていうのに。
「あ……いいえ。お気持ちはありがたいんですけど、もう行くところは決めてますので」
本当は決めてないけどね。
「まあまあ、そう言わずに。地元民しか知らない穴場スポットとかもあるからよ。俺に任せとけって」
「あ、はあ……」
うわあ、どうしよう。
思ったよりしつこい人だわ。
「オイオッサン」
「!」
その時だった。
私の肩越しにピッセが身を乗り出してきて、おじさんに喰って掛かった。
私の背中に、ピッセの豊満な胸が思い切り当たっている。
ピッセ!?
「オ、オッサン!? オッサンてのは、俺のことか!?」
「他に誰がおんねん、このデブオッサンが」
「デブオッサン!?」
「ちょ、ちょっとピッセ! それは言いすぎだよ!」
お願いだから事を荒立てないで!
「オイ、耳にヒレみてーな飾りつけてるねえちゃん! デブオッサンってのは俺のことなのか!?」
「だから何度もそう言ってるやんけ。もう歳で耳も遠なっとるんか?」
「な、何だと!?」
「ピッセ!」
「ジブンは黙っとれ菓乃子。ここはウチに任せろ」
「ピッセ……」
あなたに任せたらろくなことにならなそうだから、止めてるんだけど……。
「デブオッサン、ちいとだけ500円玉貸してくれへんか?」
「は?」
急に何言い出すのピッセ!?
「500円玉や500円玉。すぐに返すさかい、ええから貸せや。エエモン見したるさかい」
「……」
いったい何をするつもりなの……?
「ハッ、本当にイイモノを見せてくれるんだろうな?」
「だから何度も同じことを言わせんなや。それとももうボケが始まっとるんか?」
「クッ! ……いいだろう、貸してやる。その代わり、ねえちゃんの言葉が嘘だったら、相応の礼をしてもらうからな」
おじさんはいやらしく口端を歪めながら、財布から500円玉を取り出して、ピッセに差し出した。
……本当に大丈夫なのピッセ?
ピッセはおじさんから500円玉を受け取ると、言った。
「よー見とけよ。フンッ」
「え?」
ピッセは500円玉の端を親指と人差し指で挟むと、一思いに半分に折り曲げた。
ああ、そういうことか。
「なっ!? う、嘘だ!? 手品を使ったんだろねえちゃん!? 俺の眼は誤魔化されねーぞ!」
「アホか。この500円玉はジブンから借りたモンやろ? どうやってタネを仕込むねん。よー確かめてみろや」
そう言うとピッセは綺麗に半分に折り畳まれた500円玉を、おじさんに投げ返した。
おじさんは慌てて500円玉を受け取ると、まじまじと凝視したり、元に戻そうと懸命に力を入れたりした。
でも、500円玉が本物だとわかると、途端に脂ぎった顔を青ざめさせた。
「これでわかったやろ? その500円玉みたいになりたなかったら、二度とウチらには話し掛けんな」
「クッ……」
おじさんは何か言いたそうな顔をしていたけど、身の危険を感じ取ったのか、無言で反対側を向いて不貞腐れてしまった。
「……もう、余計なトラブルは避けてよね」
私は小声で、ピッセに釘を刺した。
「余計やないわい。菓乃子が嫌がっとったんやから。次似たようなことがあっても、ウチは何度でも500円玉を折り曲げるで」
「……硬貨を破損させるのは、日本では普通に犯罪だからね?」
「え? そうなんか? じゃあ次は、罪にならんモンを折り曲げるわい」
「折り曲げる以外の選択肢はないの……?」
まあ、正直ちょっとだけスッとしたのは事実だけど。
やっぱり元キャプテンだけあって、こういうところは、カッコイイな……。
「ん? どないした菓乃子? ウチの顔に、何か付いとるか?」
「っ! い、いいえ! 何も付いてないわ!」
「?」
危ない危ない。
私は顔の火照りがとれるまでは、なるべくピッセの方は向かないように努めた。
ふう。
昨日の夜は今日が楽しみであまり寝れてなかったから、ちょっとだけ眠くなってきちゃったな。
少し寝ようかな。
今はどの辺を飛んでるんだろう?
もう千葉県は過ぎた辺りかしら?
ふと隣のピッセを見ると、ピッセはいつの間にかグーグーいびきをかきながら寝ていた。
さっきまではあんなにカッコよかったのに、今は見る影もないくらいのマヌケ面だ。
……まったく。
でも、もしかしたらピッセも私と同じ理由で、あまり寝てなかったのかもしれない。
そう考えたらピッセのマヌケ面も、途端に愛らしく思えてくるから不思議なものね。
ちなみにさっきのナンパおじさんは、自棄になって自分で持ち込んだワインのボトルをラッパ飲みして、顔を真っ赤にしている。
自業自得とはいえ、何だか哀れだな。
「キ、キャアアアァァアア!!」
「「「!?」」」
今の悲鳴は……!?
前の上級クラス席のほうから聞こえたけど……?(ちなみに私達の席は普通席の前のほうだ)
「菓乃子」
「っ! ピッセ」
いつの間にかピッセは起きていて、鋭い眼光を前方に向けていた。
「今の悲鳴聞こえた?」
「ああ。何やようないことが起きとるみたいやな。ウチの野生の勘が、ビンビンに警鐘を鳴らしとるで」
「……そう」
ピッセが言うと説得力があるな……。
でも、嫌な予感は私もしてる。
周りの人達も同様なのか、普通席は徐々にざわつき始めた。
と、その時。
ガクンという揺れと共に、機体が大きく右に旋回していくのが、窓から見える風景でわかった。
なっ!? いったい何が起きてるっていうの!?
「みなさん、お騒がせして申し訳ない」
「「「!!」」」
その時、ノーネクタイで黒いスーツに身を包んだ、背が高くてガタイの良い男の人が、前方から普通席に入ってきた。
そしてその後ろから、二人程似た風貌の男の人も付いてきて、その人の左右に後ろ手で兵隊の様にビシッと直立不動で立った。
更にその後ろから、もう一人仲間と思われる男の人が入ってきたけど、この人はキャリアウーマン風のパンツスーツ姿の女性を連れていて、その女性の首に手を回し、チョーク・スリーパーのような体勢を取っていた。
な、何この人達!?
「我々は『救国の光』の者です。ニュース等でご存知の方も多いのではないでしょうか」
そう言うと最初に入ってきた男の人は、シャツの胸元を大胆にはだけさせた(わーお)。
すると心臓の辺りに、太陽を模したシンボルのタトゥーが彫られているのが見えた。
あれは!
まさしく救国の光のシンボル……。
――救国の光というのは、さっき私がスマホで見たネットニュースでも取り上げられていた、最近話題の怪しい新興宗教の名前だ。
『日本を救う』なんていういかにもなスローガンを掲げて、所々でデモ活動をしてる、謎に包まれた集団。
その救国の光が、近々大々的な救国活動を催すと発表していたので、救国活動とは具体的に何なのかというのが、ネットニュースで議論されていたネタだった。
そして今、その当事者達が、私達の目の前にいる。
私の頭の中に最悪の想像が芽生えて、たちまちそれは巨大な影となって、私の全身を支配した。
「単刀直入に申し上げます。この便は、我々がハイジャックさせていただきました」
「「「!!!」」」
リーダー風の男は何でもないことのように、サラッとそう言ったのだった。
……やっぱり。
救国活動っていうのは、このハイジャックのことだったんだ……。
でも、ハイジャックをすることが、どう国を救うことに繋がるっていうの?
それにこの人達は丸腰で、武器を隠し持ってるようにも見えないけど、どうやってこの便を乗っ取ったんだろう……?
「オイオイあんちゃん達よ~。冗談はその辺にしてくんれ~かな~」
っ!?
おもむろに隣のナンパおじさんがろれつの回らない口調で、千鳥足になりながらリーダーのところに歩いていった。
あ、危ないですよ! 迂闊な行動を取っちゃ!
でも、時は既に遅かった。
「『
ズンッ
「ガッハァッ!」
!!
リーダーは目の前まで来たナンパおじさんの心臓に、体重を乗せた掌底を撃ち込んだ。
するとナンパおじさんは私の席の後方まで、バトル漫画のやられ役みたいに一瞬で吹き飛ばされた。
な、何今の!?
「大丈夫ですかッ!?」
私は急いでおじさんのところに駆け付けて、様子を伺った。
でも、おじさんは完全に白目を剥いていて、脈を測ってみると、ピクリとも動いていなかった。
し……死んでる!?
「ご安心ください優しいお嬢さん、その方は死んではおりません。一時的に仮死状態になっているだけです」
「!」
リーダーはまたもや世間話でもするくらいの体で、そう言った。
仮死状態!?
「手前味噌な話になってしまいますが、我々は裏の世界ではそこそこ名の知られた暗殺集団だったのです」
!?
は、話が飛躍しすぎていて、付いていけない……。
「何故名が知られていたかと申しますと、それは我々が、『無手』で人を殺す
っ!
……なるほどね。
話が見えてきた。
「私は無手こそが最高の暗殺術だと思っています。無手なら空港の厳しいセキュリティチェックでさえも難なく突破した上で、こうして武力を行使できるからです。今私がそちらの御仁に放った、『磔刑』も我々の秘技の一つです。磔刑は気を込めた掌底を心臓に撃ち込むことで、その相手を一時的に仮死状態にすることができるのです。こうなれば、何があろうと丸一日は目を覚ますことはありません。ああ、逆に言えば明日になれば、自然と心臓は動き出しますのでご安心ください。
……。
つまり、今の磔刑とやらを使って、上級クラス席の人達や乗組員さん達を、全員仮死状態にして制圧したってこと?
でも、依然としてハイジャックと救国活動が、どう結びつくのかが謎のままだ。
いえ、実は一つだけ仮説が浮かんでいるけれど、あまり考えたくはない内容だから、今は考えないようにしているというのもある。
「これで我々が、伊達や酔狂でハイジャックなどという大言を吐いているのではないということが、みなさんにもご理解いただけたことと思います。言うまでもないことですが、こちらの女性は人質です。みなさんが妙な動きをされた場合は、容赦なくこの方の首を部下がへし折りますので、ご留意ください」
リーダーは、拘束されているキャリアウーマン風の女性を、横目で一瞥した。
リーダーの眼は人をモノとしか思っていないような、無色透明な眼だった。
その女性はリーダーの眼を見ると、今にも泣き出しそうな顔になり、ヒッと声にならない悲鳴を上げた。
私は、その女性が感じている恐怖が手に取るようにわかった。
何を隠そう、今一緒に飛行機に乗っているピッセと、初めて私が対峙した時に感じた恐怖と同種のものだと想像できるからだ。
絶対的な力を持つ者に、自分の命を握られているという絶望感。
ほんの少し気まぐれで力を入れられただけで、自分という存在がこの世から消失する恐怖感。
他の乗客の人達にもその恐ろしさが伝播したのか、ざわついていた機内は、水を打ったように静まり返った。
「何や、さっきから黙って聞いてりゃ、随分回りくどい言い回しやなジブン」
「「「!!」」」
そんなシリアスな空気を、私の旅のパートナーは一瞬でぶち壊した。
ピッセエエエエ!!!
なんであなたはいつもそうなの!?
「ホウ、私の話し方がお気に障りましたかな? 変わった耳飾りをつけられたお嬢さん」
「アア、大いにお気に障っとるわ。何やねんそのインテリぶった喋り方。そんなん大阪行ったら、街中の連中からツッコまれるで」
「……それは失礼いたしました」
いや、あなた別に大阪の人じゃないでしょ。
エセ関西人のクセに、何大阪代表みたいな威厳を放ってるのよ。
ピッセは通路に出て私の前に立ち、リーダーと相対して、言った。
「とにかく結論から先に言えや。ジブンらの目的は何やねん。ウチらはこれから北海道で時計台観に行かなアカンねん。サムいコントの練習は、他でやってくれへんか?」
ピッセエエエエエエ!!!!
人質のおねえさんが、半泣きでこっち見てるわよ!?
お願いだから犯人を刺激しないで!!
「……時計台ですか。あれはみなさんが思っているよりも小さい建物ですので、行ってもガッカリするだけだと思いますよ」
「ウオオオォォイ!! ヒトが楽しみにしとるモンを、そない言い方すんなや!!」
……早速反撃されてるし。
ホント人狼ゲームの時といい、心理戦は最弱ね、ピッセは。
「まあ、お嬢さんが仰る通り、勿体ぶるのも野暮というものでしょう。――我々がハイジャックをした目的、それは、この飛行機を、
「「「!!!」」」
半ば予想していたこととはいえ、リーダーの口から発せられた言葉は、到底理解できるものではなかった。
それってつまり、9.11の同時多発テロ的なことを、この日本でも再現しようってこと……!?
「この国はもう取り返しがつかないところまで腐敗しきってしまっています。国の上に立つ人間は保身しか考えておらず、少子高齢化や貧困格差の問題には見て見ぬふり。国のためにこの身を捧げようという志を持った者など、一人としておりません」
……それは言いすぎだと思うけど。
「ですからこの国を救うためには、一度全てを破壊し、一から創り直す必要があるのです。その暁には、我らが教祖様がこの国の頂点――救国の光となって、この国を正しい姿に導いてくださることでしょう。そのためにも、みなさんには私達と一緒に、尊い犠牲になっていただきます」
リーダーは一点の曇りもない、澄んだ瞳でそう語った。
……狂ってる。
その教祖様とやらとこの人達との間に、どんな馴れ初めがあってここまで妄信的な信者に仕上がったのかは定かじゃないけど、この人達の思想が悪い方向に振り切れてしまっているのは確かだ。
そうでなくちゃ、国会議事堂に自爆テロを仕掛けるなんて、今時漫画でも見ない荒唐無稽なことを、実行に移せるわけがないもの。
「今この機体は私の部下が操縦桿を握っています。もちろん部下は飛行機の操縦資格は持っておりませんが、独自に訓練を積んでおりますので、この機体を東京までとんぼ返りさせ、国会議事堂に墜落させることは十二分に可能ですのでご心配なく。――私からの状況説明は以上となります。それではみなさん、国会議事堂までの人生最後の旅路を、共に楽しもうではありませんか!」
リーダーは両手を大きく広げ、心底楽しそうに言い放った。
「グー、グー」
「「「!?」」」
リーダーが話している間、一言も喋らなかったからおかしいなと思っていたら、ピッセは鼻ちょうちんを出しながら、立ったまま寝ていた。
ニャッポリート!?
「ピッセ! ピッセッ!!」
私は後ろからピッセを、思い切り揺すった。
「んがっ!? お、おお……スマンスマン。使い古されたテンプレの悪役台詞だったもんやから、退屈で寝てもうたわ。実は時計台が楽しみすぎて、昨日あんま寝てないんや。勘弁な」
「……」
ピッセはリーダーに形ばかりの謝罪をした。
リーダーは無言だったけれど、その顔には確かな怒りが見て取れた。
そんなに時計台が楽しみなの!?
時計台の何が、あなたの心をそこまで駆り立てているの!?
「でもなあ、一応元一国一城の主だった立場から、これだけは教えといたるわ」
「? ……何ですかな」
「たとえどんな理由があろうが、自分の
「!」
……!
ピッセが言うと、含蓄のある言葉だな。
確かにピッセは宇宙海賊という職業柄、部下のほとんどを失ってしまったけど、誰一人として、部下の命を簡単に見捨てたことはなかったと思う。
むしろ家族こそが一番の宝として、どんな宝石よりも大切にしていたはずだ。
それはこの一年間、ずっとピッセのことを隣で見てきた私だからわかる。
「せやからジブンらにこないなことさせとる時点で、ジブンとこの教祖様は人として零点や。そんなんやったら、ビリケンさんを教祖様として祀っとったほうが、ナンボかマシやで」
だからなんであなたは、ちょくちょく関西人ぶるのよ!?
そもそも地球人ですらないでしょあなた!!
「っ! ……我が教祖様を愚弄する者は、何人たりとも許しませんよ!」
「ホウ、許さんかったらどないするつもりなんや?」
そう言うとピッセは両手を下げたまま、無防備な体勢でリーダーにスタスタ近付いていった。
ピ、ピッセ!?
「クッ、磔刑!」
ズンッ
リーダーの磔刑が、容赦なくピッセの左胸に撃ち込まれた。
ピッセッ!!
「フーン。ま、地球人にしちゃ上出来ちゃうか? ちいとばかし、ピリッとしたわ」
ピッセは顔色一つ変えずに、磔刑を喰らった感想を漏らした。
……おお、流石ピッセ。
やっぱり地球人じゃ、足元にも及ばないか。
「なっ!? バ、バカな!? 我が磔刑は、どんな者も一撃で葬り去る、必殺の秘技だというのに!?」
「いや、実際エエ線いっとるで。確かに便利な技やでこりゃ。どれ、こないな感じか?」
「は?」
「磔刑」
ズンッ
「ゴハアッ!?」
っ!?
ピッセはリーダーの左胸に、磔刑を撃ち込んだ。
リーダーの公言通り磔刑は一撃必殺の秘技だったらしく、磔刑を喰らったリーダーは糸が切れた操り人形みたいに、その場に
す、凄い……。
一度喰らっただけで、もう磔刑を完コピしてしまったわ。
やっぱりピッセの戦闘センスは、地球の物差しで計れるものじゃないみたい。
「ショ、ショコラ様!!」
「ショコラ様ー!!」
!?!?
リーダーの両脇に立っていた部下らしき二人が、リーダーのことをそう呼んだ。
この人ショコラって名前だったの!?
もちろん偽名なんだろうけど、それにしたって可愛すぎじゃない!?
これも一種のギャップ萌えなのかな?(絶対違う)
「クッ! よくも貴様! ショコラ様をッ!」
「覚悟しろッ!」
部下二人が、一斉にピッセに跳び掛かった。
「ダブル磔刑」
ズズンッ
「ゴッハッ!?」
「ゴハッフ!?」
ファーーー!?
早くもダブル磔刑まで会得しちゃった。
ピッセは左右の手でそれぞれ、二人同時に磔刑を撃ち込んだのだった。
これで糸の切れた操り人形は三体になった。
「コ、コロン! モカー!」
おねえさんを人質に取っている最後の一人が、倒れた二人の名前を呼んだ。
なんでさっきからみんな、トイプードルに付けられるみたいな名前なの!?
それとも、この名前を教祖が付けたんだとしたら、やっぱり教祖はこの人達のことを、自分に忠実な犬くらいにしか思ってないってことなのかも……。
「さてと、これで残りはジブンだけやな」
ピッセは最後の一人のほうへ、おもむろに歩き出した。
「く、来るなッ!! この女がどうなってもいいのか!?」
「ヒッ! た、助けてくださいッ!!」
おねえさんは眼に涙を浮かべながら、ピッセに懇願した。
でもピッセはその言葉を無視して、ズンズン近付いていく。
「ピッセ!?」
「心配すなや菓乃子。ウチに任しとき」
っ!
ホントに大丈夫なの……?
それともピッセには何か、秘策でもあるのかしら?
「クソッ! ウオオォォォオオッ!!」
「キャッ!?」
男はおねえさんを横に突き飛ばして、ピッセに突貫してきた。
「死ねえぇっ!!」
「
ズンッ
「ゴハンチンッ!?」
足磔刑ーーー!?!?
もう何でもアリじゃない……。
足でまで磔刑が撃てるなんて。
習得してから1分で、早くもオリジナルを超えてしまったわ。
……でも、結果的には人質のおねえさんも無事だったし、これで一安心か。
「大丈夫でしたか!」
私は急いで、倒れているおねえさんに駆け寄った。
「え、ええ」
「っ! アホ!! 菓乃子、その女から離れろやッ!!」
「え?」
「もう遅いわよ」
「!?」
おねえさんは右手の手刀を、私の喉目掛けて突き出してきた。
なっ!? まさかこの人も――!?
ガシイッ
くっ。
…………あれ? どこも痛くない。
なんで?
思わずつぶってしまった目を恐る恐る開けると、間一髪、手刀が私の喉に届くギリギリのところで、ピッセの左腕がおねえさんの腕を掴んでいた。
おねえさんは何が起きたのか理解できない様子で、目を大きく見開いている。
「……ピッセ」
「まったく。せやからウチに任せとけ言うたやんけ。この女もこいつらとグルなんは、ウチには最初からわかってたんやから……な!」
「グアッ!?」
ピッセはおねえさんの腕を思い切り握り締めて身動きを封じてから、私を後ろに下がらせた。
さ、最初から!?
そしてピッセはそのまま右手で、おねえさんのシャツの胸元を豪快にはだけさせた(わーお二回目)。
すると心臓の辺りに、救国の光のシンボルがハッキリと彫られていた。
やっぱりこの人も救国の光の一員だったんだ……。
「そ、そんな……嘘よ! 私の演技は完璧だったはずよッ!」
「いやいや、素人は騙せても、ウチの眼は欺けへんで。――目線の動かし方、呼吸の仕方、体重移動のタイミング、足運び、その他諸々――ジブンが武道に精通しとるんは、一目でわかったわ。こう見えてウチは200年近く、ジブンらみたいなんを相手にしてきたんやで」
「なっ!?」
ピッセの戦闘センスがストップ高だわ!!
そこまでの観察眼を、何故人狼ゲームでは発揮できなかったの!?(戦闘だけに特化してるのかな?)
「むしろそこで寝とるインテリマッチョよりも、ホンマはジブンのほうが強いんやろ? 大方ジブンこそが、この計画の影のリーダーってとこか?」
「……」
おねえさんは無言でピッセを睨みつけたけど、それはピッセの推測を肯定しているようなものだった。
「ハッ、やっぱ男なんかよりも、女のほうがよっぽど恐ろしい生きモンやで。まっ、今回は相手が悪かったと思て、諦めや。……ああ、それとな」
「え」
「ウチの菓乃子を傷付けようとした罪は、万死に値するで」
っ!?
ウチの!?
「っ! ちょっ」
ゴツンッ
「ゴッハンッ!」
ピッセの強烈な頭突きが、おねえさんの頭に直撃した。
痛そう(小並感)。
おねえさんは泡を吐きながら、仰向けで大の字に倒れ込んだ。
……これで今度こそ、解決か。
ガクンッ
「「!?」」
私が気を緩めた途端、機体が大きく傾いた。
しまった!
私のバカ!
まだコックピットの犯人が残ってたじゃない!
しかもこの機体の傾き方……明らかに急激に高度が下がってる。
もしかして……。
「フ、フフ……残念だったわね。この勝負は、私達の勝ちよ」
っ!
おねえさんが顔だけをこちらに向けて、不敵に笑った。
「何やと?」
「コックピットの部下には始めから、雲行きが怪しくなったらその場で飛行機を落とすように命じていたのよ」
なっ!?
そ、そんなっ!?
「国会議事堂の上に落とせなかったのは残念だけど、これで救国の光の力を日本中に示すことはできる。私達の目的は、十分に達成できたわ。きっと、教祖様も褒めていただける……はず……よ」
それだけ言うと、おねえさんは今度こそ気を失った。
「う、うわあああ」
「キャアアアア」
「し、死にたくないっ」
っ!
途端、乗客全員はパニックに陥った。
CAさんが、「落ち着いてください!落ち着いてくださいッ!」と宥めるものの、効果はまったくない。
「チッ」
ピッセは舌打ちを一つ零すと、脇目も振らず前に走り出した。
「ピ、ピッセ!? 待って!」
私も慌てて後を追った。
でも、上級クラス席に入った瞬間、私は思わず立ち止まってしまった。
それもそのはず、上級クラス席の人達はCAさんを含め、全員残らず磔刑によって眠らされていたからだ。
前の方では機長と福機長と思われる人も、床に寝かされている。
その寝顔は誰もが穏やかで、この光景だけを見れば、まるで楽園にいるかのような錯覚さえした。
でも、こんなものは楽園でも何でもない。
ただのテロ行為の一過程だ。
私は自分で自分の頬をパンと叩き、コックピットに向かって走り出した。
「ピッセ!」
コックピットに着くと、ピッセは操縦席に座る人物のことを、眉間に皺を寄せながら見下ろしていた。
私の角度からでは、犯人の顔は見えない。
「……ピッセ、その人は?」
「……遅かったわ」
「え?」
遅かった?
ピッセの言葉の意味を確かめるために恐る恐る操縦席を覗くと、犯人は自分の心臓に右手を当てたまま、死んだように眠っていた。
「ま、まさか!?」
「……ああ、こいつは自分で自分に磔刑を撃ったみたいやな。そないなこともできるんやな」
ピッセは場違いに吞気な声で感心した。
「ちょっとピッセ! なんでそんな平然としてられるのよッ! ――あっ!」
しかもよく見ると、操縦機器も全て破壊されている。
これじゃもう、墜落は避けられないじゃない……。
「……あれ?」
その時ふと、前方の窓から外の風景に目を移した私は、違和感を覚えた。
左側に海が広がっているのが見えたからだ。
辛うじて生きていた運航路線図のモニターで確認する限り、どうやら千葉県の東側にある、
なんで東京に向かっていたはずの飛行機が、千葉県の東側にいるの!?
……そっか。
多分この操縦役の人も、飛行機を操縦するのは初めてだったんだ。
だから飛行機を旋回させる時、上手く旋回させきれずに、この方向に向かってしまったのかも。
てことは、どちらにせよ、この飛行機が国会議事堂に落ちることはなかったってことか……。
でも、そんなことは当事者である私達にはあまり関係はない。
どこに落ちようが、全員死んでしまうことには変わりはないんだから。
……ん? 待って。
いや、どこに落ちても同じとは限らない。
少なくとも海に不時着させることができれば、地面に落ちるよりは遥かに衝撃を和らげることができるはず。
映画にもなった実話の『ハドソン川の奇跡』みたいに、乗客全員が助かる可能性だってある。
でも、どうやって海に?
操縦機器を壊された上、そもそも操縦技術がない私達じゃ、そんなことは不可能だ。
こんな時、沙魔美氏がいてくれたら……。
魔法でいくらでも、解決策を出してくれるのに。
……そうだ!
今からスマホで沙魔美氏に連絡すれば、ギリギリ間に合わないかな!?
あっ、でもスマホはバッグに入れて、座席に置きっぱなしだ。
それに空の上じゃ、電波はほぼ入らないって聞いたことがある。
それでもそれしか方法がないなら、一か八か走って座席まで戻る……?
と、この間0.5秒で、そんな諸々を私が考えた時だった。
「……しゃーないな」
「え?」
ピッセがボソッと、そう言った。
しゃーない?
何がしょうがないっていうの?
「菓乃子、先に謝っとくで。スマン」
「は?」
ブチュウッ
「!?」
おファッ!?
ピッセに突然キスされた。
え!? 何何!?
なんでこのタイミングでキスしてくるの!?
もしかしてピッセ……最後の晩餐的なアレで、私を……?
ドウッ
「イヨッシャー!!!」
「キャッ!?」
ピッセの身体からただならぬオーラが発せられると同時に、額の文字が『鮫』に変わった。
これは!? キャプテンシャークモード!!(堕理雄君命名)
「離れとき、菓乃子」
「え」
「伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウ」
「ちょっ!?」
ピッセは前方の窓を、伝説の必殺拳技ファイナルアトミックインスタバエナッコウで木端微塵に破壊した。
「な、何してるのよあなた!?」
「黙っとけ。行くで」
「え? 行くってどこに? ――キャッ!?」
ピッセは私を無理矢理お姫様抱っこすると、何の躊躇いもなく割れた窓から外に飛び下りたのだった。
ええええええーーー!?!?!?
当然の帰結として万有引力の法則により、私達は高度数千メートルもの上空から、地面に落下をし始めた。
「ピ、ピッセ!?」
「喋んな! 舌噛むで!」
「っ!」
戸惑いを隠し切れない私とは裏腹に、ピッセは落ち着き払ったベテランスカイダイビング選手みたいな顔をしている。
確かにピッセは前、沙魔美氏達とネズミーランドに行った時に、高所から落ちた私を似たように助けてくれたけど(※53話参照)、あの時と今とじゃ、高さが何十倍も違う。
いくらピッセでも……。
っ! そうか!
そのために、キャプテンシャークモードになる必要があったのね!?
「ウチを信じろや、菓乃子」
「ピッセ……」
ピッセはとても頼り甲斐のある、凛々しい顔つきでそう言った。
……うん、信じるよピッセ。
私のこの命、全てあなたに預けます!
私は肯定の意を示す代わりに、ピッセに力強く抱きついた。
ピッセは若干鼻の下を伸ばしかけたけど、すぐに引き締まった顔に戻って、ジッと地面を見据えた。
そして次の瞬間、ズドンという轟音と共に、私を抱きかかえたピッセは海岸の砂浜に両足から着地したのだった。
大量の砂が舞い散って地面にはちょっとしたクレーターが出来てしまったけど、ピッセはかすり傷一つ負ってはいなかった。
……流石キャプテンシャークモード。
「……ありがとうピッセ。……でも、他の乗客の人達が」
飛行機は今にも、地面に落下しそうな程の距離まで迫っていた。
「安心せい。ちょいと行ってくるわ」
「え?」
ピッセは私を砂浜にそっと下ろすと、助走をつけて飛行機に向かってジャンプしていった。
そして飛行機のお腹辺りを掴むと、海の方向に向かって豪快にブン投げた。
ニャニャッポリート!?!?
何百トンもあるはずの飛行機は、まるで子どもが手にしたプラモデルみたいに簡単に方向を変え、そのまま海面とほぼ水平な角度で、見事に海の上に不時着したのだった。
機体の形も見る限り、どこも損傷はしていないみたい。
あれなら乗客の人達は、全員無事なはずだ。
……何だか今日は一日、ピッセに驚かされてばかりだったな。
「フー、ざっとこんなもんやろ。……ウッ」
「っ! ピッセ!?」
私のところに戻ると同時にキャプテンシャークモードが解けたピッセは、危うくその場に倒れそうになったけれど、すんでのところで堪えた。
そうだよね、キャプテンシャークモードは、身体に物凄い負荷がかかるんだもんね。
「……本当にお疲れ様、ピッセ。あなたはみんなのヒーローよ」
「……ハッ、ウチはベビーフェイスよりも、ヒールのほうが好きなんやがな」
「もう、またそんなこと言って」
そんなところも、ピッセらしいけど。
「おっ、そうや。ホンマは北海道に着いてから渡そうと思てたんやけど、こないなことになってもうたから、今の内に渡しとくわ」
「?」
ピッセは胸の谷間から、綺麗にラッピングされた小さな包みを取り出して、私に手渡してきた。
あなたまで胸の谷間に物を仕舞っているキャラになるの!?
「ささやかやけど、誕生日プレゼントや」
「あ……ありがとう」
私は赤面した顔を隠すために、なるべく下を向きながら包みを解いた。
すると中には平たい箱が入っていて、その箱を開けると、そこには魚をモチーフにした、可愛いブレスレットが収められていた。
「わあ、素敵」
よく見るとその魚は、ちょっとだけピッセに似ている気がする。
うふ、本当に可愛い。
私は早速ブレスレットを、左腕につけた。
「そのブレスレットをウチやと思て、大事にしてくれや」
ピッセははにかんだような笑顔で、そう言った。
「うん!」
大事にするよ。
一生――。
「ハハッ――っと、流石に……限界……みたいや」
「え? ピッセ?」
ピッセは私に思い切り抱きついてきた。
ちょっ!? ピッセ!?
こ、こんなところで……。
「グー、グー」
「…………は?」
ピッセは私の腕の中で、いびきをかきながら寝てしまった。
……えぇ。
……まあ、ピッセはろくに寝てない中で、本当に頑張ってくれたもんね。
今は少しだけ、このままにしておいてあげるか。
「おやすみ、ピッセ。……ハア、でも参ったな。これもう完全に大ニュースになってるだろうし、絶対私とピッセが北海道に行こうとしてたこと、沙魔美氏にバレちゃうよ」
「もうバレてるわよ」
「!!!」
こ・の・こ・え・は……。
恐る恐る首だけで振り返ると、そこには沙魔美氏が全身から怒気を孕んだオーラをガンガンに発しながら、ガイナ立ちをしていた。
あ、あわわわわわわわ。
「沙魔美氏……なんでここに」
「なんでってそりゃ、昨日堕理雄が、『今日スパシーバでやけにピッセがソワソワしてたけど、何か楽しみなことでもあるのかな?』って言ってたから、怪しいなとは思ってたのよ。その矢先に、このハイジャックニュースがテレビで流れ出したから、もしやと思って来てみたらこれだもの。見事、菓乃子氏の不倫現場を目撃したってわけよ」
「不倫現場って……」
別に私と沙魔美氏は、婚姻関係は結んでないと思うんだけど……。
ていうか、やっぱりピッセのせいで、沙魔美氏にバレちゃったじゃない。
せっかく上がった株価が、一瞬で下落したわ。
「で? この状況はどういうことなのか、私に納得のいく説明をしてもらおうかしら」
「え、えーと、それは……」
まさかここに来て、今日一番のピンチを迎えるとは……。
何て言うのが正解なの……?
なんで私は何も悪いことはしてないのに、こんな目に遭ってるの……?
「う~ん、むにゃむにゃむにゃ。菓乃子~、ハッピーバースデー、むにゃむにゃ」
「「……!!」」
もう!
ピッセ!
そういうとこだよッ!