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第12話

 弥助は叫びながら木に登り、木と木を移動しながら、枝を揺さぶるなど激しく音を立て、松永軍を陽動した。


 この思惑は成功した。松永軍は突然の物音に火矢を放つのをためらうのが目視でき、織田軍は叫び声のする方向を警戒し、臨戦態勢を整えた状況になったのを耳にした。


 この騒動を利用し、弥助は木から降りると、松永軍の一人に近寄り、後ろから首を絞めると一気に首の骨を折り、声をあげさせる間さえ与えず殺した。


 同じように近くにいる松永兵も倒すと、久通が部下に退けと命じる声が響いた。織田軍も森林に入り、索敵を開始しだしている。


 退く松永軍を弥助は再び追走する。今度は慌てて逃げているため、弥助も音など気にせず追走できる。


 騒ぎに気づいた弥助の仲間達も集まりだし、影となり松永兵を追走している。


 しばらく追うと、森林に散らばっていた松永軍が続々と集まり、久通を先頭に大木や枝で隠されている入口の狭い洞窟へと入っていく。


 弥助らはそれを見張り、全ての松永兵がいなくなると、洞窟の入口前に集まった。


 最後に入った兵が木や枝で再び入口を隠したため、傍目にはわかりにくいが、ずっと様子を見ていた弥助らには通用しない。


「ランヲ、タスケル」


 弥助らは仲間の一人を信長へ報告に行かせ、洞窟の中へと侵入した。洞窟内は一人が通るのがやっとの道幅しかなく、狭く息苦しい。


 弥助は先頭になり、暗い道を奥へと進んだ。一本道のため迷うことはないが、月明かりさえない全くの暗闇と酸素の薄さは、長時間いると平常心を狂わす。


 意外に長い道を通り抜けると、ようやく広い場所に出た。


 おそらく城内だろう、月の光が壁の上の格子窓から差し込んでいる。見張りの兵などの姿はない。


 弥助は周囲を警戒しながら、他の仲間達が狭い通路から出てくるのを待った。


 忍び込む機会が良かったのか、敵の見回りなどもなく、全員無事に城内へと到達した。


 弥助は二手に別れて詮索するよう提案した。ここまで来たからにはなんとしても蘭丸と陳登を探し出し、連れ帰ろうと決意した。




 道三はようやく譙に到着した。譙は豫州よしゅうの州都で彭と許昌のほぼ中間である。


 街に入ると、曹操の軍が進発準備をしていた。



「貴公は信長殿の。いかがなされたか?」


 一人の将が道三を発見するなり、馬を寄せて近づいた。


「おぉ、曹操殿の配下のお方か。儂は信長殿の配下利政と申す」


「申し遅れた。臧覇ぞうはでござる」


 臧覇は息も絶え絶えな道三の馬の手綱を取り、自分の名を告げた。


「臧覇殿、信長殿より曹操殿へ至急伝言があるのじゃが」


「差し支えなければ、お聞かせ願いたい」


「うむ。信長殿の部下が、青州の手の者に捕らえられた。これを奪還するために軍を動かす。この戦いが袁紹と曹操殿の戦の火つけ役となろう。油断なさらず軍を進め、また徐州にも援軍をいただきたい、と」


 道三はまくし立てるように勢いよく話した。


「なるほど。重要事項であるな。利政殿、我らは曹操様の命でこれより青州に向かう手はずであった。兵を分け、徐州防備に差し向けよう。利政殿はだいぶお疲れの様子。体を休め、私と青州へ向かいましょう。曹操様には我らの部下より、早馬を送る。これでよろしいか?」


臧覇は元々呂布と互角の同盟を組み、共に曹操と戦った将であった。徐州や青州方面に詳しく、人望も厚いため此度の遠征の将に選任されていた。


 臧覇は状況を把握すると、すぐさま最善と思われる返答をした。


「うむ。助かる」


 馬は疲労から弱りきり、もう走れそうもない。




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