季未
歴史・時代戦国
2025年02月02日
公開日
24.5万字
連載中
【第4回NSP賞・優秀賞受賞作】
幾度となく繰り返される悠久の時の牢獄。胡蝶の夢の狭間を、青年は彷徨い続ける。
ある時は戦国の世に仇なす風となり、武田の赤備えを率いて無情の蹂躙を。
またある時は義を胸に、白地に染まる上杉の毘の旗印を掲げ、天に祈りを。
相模の獅子に抱かれ、その威光を背に五色の采配を振るい、あるいは今川の赤鳥の庇護の下、雅の調べに心を浸す。
青年が歴史の激流を駆け抜けようとすると、愛する者たちは儚く散っていった。
その度に前世の記憶が彼の心を苛む。彼方に広がる平和の空。しかしその知識は、無力。歴史は非情なまでにその流れを変えようとはしない。
幾度、涙を流しただろう。幾度、絶望の淵に沈んだだろう。
だが、此度こそは。
慈愛の籠で、自身を守ってくれた母と父。時の彼方で雄々しく散っていった、戦友たち。
天下の夢と共に散る、覇道を行く主君。乱世に咲く花の如き、散りゆく定めの我が愛児。
──此度こそは、この手で全てを救うのだ。
蝶は信濃の空を舞う。それは美しくも儚い、一羽の蝶が織りなす戦乱の世の夢幻。