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第4話 本当の理由

夕方になり、燈ちゃんを女子寮の前まで送り届けた。

男子寮はここからそう離れてはいない。

すでに外は暗くなってきており、部活動を終えた生徒たちに混じって帰路につく。

部屋に戻ると、奏がベッドでくつろいでいた。

「おう悠馬、遅かったな。もう飯食ったか?」

「とりあえず荷物置きにきた。これから食堂行くわ。」

「そうか、俺はさっき済ませたから、これから風呂行こうと思ってた。待ってようか?」

「んー大丈夫。先に行ってさっぱりしてきてくれい。」

「わかった。なぁ悠馬。」

普段と違う俺の様子を察してか、奏は神妙な顔をした。

「困ったことがあれば、頼れよ?」

こういう時、奏には敵わない。ファンクラブがあるなんて噂も、あながち嘘でもなさそうだ。本当にいい男だ。

「…大したことじゃないよ、ありがとな。」

「ん、じゃあ大浴場行ってくる。また後でな。」

あえて深掘りはしてこない。

その日は簡単に食事を済ませ、早めに床についた。

理事長の話とは一体なんだろう。

色々考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。


翌朝。

カーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚める。

奏はもう部活に行ってしまったらしい。

今日は9時に理事長室に来るよう言われている。

比良坂さんには昨日、一応事情を説明しておいた。

制服に身を通し、学園へ向かう。


理事長室は、普段俺たちのいる校舎とは別の建物にある。

入り口で管理人さんに声をかけると、エレベーターに乗るように言われた。

理事長室は6階だ。

エレベーターの前には秘書さんらしき人が待っていて、こちらだと案内してくれた。

促されるまま、一緒に上階へと登っていく。

「…。」

無言。

「……。」

「あ、あの。」

「…なにか?」

「…いえ、なんでもないです…。」

何となく近寄りがたい雰囲気に気圧されてしまった…。


6階に到着した。部屋に通されると、壁や天井の豪華な装飾が目に入る。

その部屋の中央に、1人の女性が座っていた。タイトなスーツに身を包み、肩まである髪はウェーブがかっている。自分の能力に絶対の自信があるというような、凛とした雰囲気を漂わせている。

「やぁ少年、入学の時以来だな。昨日はよく眠れたか?」

「おかげさまで、よく眠れました。」

「それはなによりだ。」

理事長はニコリと微笑んだ。

「前回は少し立て込んでいてな。今回は少しだけ時間が取れた。わざわざ呼び出してすまないな。」

「いえ。ところで、今日俺が呼ばれた理由を聞いてもいいですか?」

「いきなりか。まぁ当然か。私も回りくどいのは好みじゃない。よし、そこに座りたまえ。コーヒーでよいかね?」


先ほどの無口な秘書さんがコーヒーを入れてくれた。

詳しくはないが、高そうな豆を使っているのだろう、部屋の中に良い香りが漂う。

「先ほどの質問だが、君は自分のことについて、どの程度知っている?」

「どの程度と言われても、ごく普通の男子高校生だと思いますが。」

「聞き方が悪かった。君は〝自分が何者か〟を知っているのか?」

なんだ、この人は。質問の意図がわからない。

「…余計に意味がわかりません。」

「そうか、覚えていないのも無理はないな。では質問を変えよう。」


「母親のことを、覚えているか?」


「ーーーッ!?」

突然のことに、動揺した。

この人は何故知っている。一体どこまで。

誰にも言ったことはないはずだ。

不意打ちを喰らったように視界が歪む。

「いいえ、よくわかりません…気分が悪いのでこれで失礼します。」

俺が席を立とうとした瞬間。

「待て。」

理事長の次の言葉に、俺は耳を疑った。


「君の母親、あれは私の妹だ。」

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