放課後になった。
授業が終わると奏はそそくさと部活に行ってしまった。
あいつ逃げたな、と思っていると、教室前に比良坂さんが俺を待っていた。
クラスメイトからは「ほら、愛しの彼女のお出ましだぞ」だの「あんな可愛い子がどうしてお前に」だの「なんかあったらお前も埋める」だの、物騒な声が飛ぶ。
待て、俺は奏とは違うぞ。
「悠真さんっ、今日も一日お疲れ様でした!」
比良坂さんの笑顔は、正直言って癒される。
俺に会うのが待ちきれなかったとでも言うように、結んだ髪をぴこぴこ揺らしている。
「この後どうします?私は部活に顔を出そうかと思うんですけど。」
「たしか、美術部だっけ。」
「わぁ、覚えててくれたんですね。」
入学当初、一緒に美術室に行った時、彼女の作品が飾ってあった。
綺麗な向日葵の油絵。コンクールで賞を取ったと言っていた。
「実は最近、思うように描けてなくて…。コンクールも迫ってきているんですけど…。」
「…わかった。美術室まで送るよ。」
あまり描けていないのは、俺に責任がありそうだ。
彼女の好意はありがたいが、甘えてばかりもいられないな…。
彼女を送った後は、せっかくだから美術室を見て回ることにした。
この学園は運動部も文化部もレベルが高い。
ギリシャ風の男性像がこちらを見ている。
芸術はよくわからないが、この石膏像は力作だ。
夕暮れの赤に染まっていく教室で、比良坂さんが真剣に絵と向き合っている。
普段は小動物のような彼女とは違い、熱気が伝わってくる。
創作の邪魔にならないよう、教室の隅に座って彼女を待つ。
僕は胸ポケットから手紙を取り出し広げる。
美術室に向かう前。
教室を出る際、知らない生徒から手紙を渡された。
ラブレターでは、なさそうだ。中身を確認してみると、学園の理事長からの呼び出しだった。
《明日の朝、理事長室まで来られたし。》
正直面倒な気もしたが、行かないわけにもいかないかった
なぜなら理事長は、俺をこの学園に連れてきた張本人なのだから。