教室に戻ると、クラスメイトたちは授業の準備で忙しそうだった。
頬杖をつきながら黒板を眺めていると、隣の席から声をかけられる。
「なんだ、午後は真面目に来る気になったか。」
ルームメイトの、鈴池奏(すずいけかなた)だった。
「まぁ、比良坂さんに言われたからな。お前だろ?俺の居場所教えたの。」
「お昼のチャイムとほぼ同時に駆け込んできたぞ。あんまり迷惑かけるなよな。」
「わかってはいるんだけどなぁ…。」
「そう思うなら、行動で見せなきゃな。」
奏はテニス部のエースで成績優秀、面倒見のいい性格で男女問わず人気がある。
もしも校内抱かれたい男選手権があったとしたら、奏は間違いなく上位に入るだろうイケメンだ。
「ところで奏、今日は小鳥遊さん一緒じゃないのか?」
「あぁ、あいつならさっきそこに…」
「「ゆうやーーーーーーーん!」」
机の間を縫って迫ってくる女性がいた。
目の前まで来ると、いきなりのノートのチョップをお見舞いされた。
「にゃはは、今日も重役出勤かよご苦労さん。暇だったから授業ノート取っておいたぞぃ!」
小鳥遊葵(たかなしあおい)。奏のバディである。
「なぁ葵、やっぱり悠馬は午後から来ただろう?」
「そうだなぁ。ゆうやんの事だから、一日寝てるかと思ったのに。賭けはあたしの負けかぁ。」
会話の流れから予想はつくが、あえて確認してみた。
「賭けって?」
「ゆうやんが午後も授業サボるか、奏と賭けしてた。」
「悠馬もそこまで不真面目じゃねぇよな。」
奏、精一杯のフォローありがとな。でもお前も朝起こしてくれてもいいと思うぞ。
「じゃあ奏、明日は学食の限定プリン、奢りでよろしくぅ!」
「待て葵、賭けに勝ったのは俺だぞ。しれっと何言ってやがる。」
やれやれ、夫婦漫才が始まってしまった。
実際のところ奏と小鳥遊さんは、カップルのように仲が良い。
学園内でもバディ同士の交際はないわけではない。
が、上流階級にも色々事情があるらしく、中々気軽にはいかないらしい。
俺にはよくわからん世界だ。
「もう、奏ったら小さい事気にしてたらモテないぞぉ。仕方ない、奢ってくれるなら、一晩私を好きにしていいとしよう。」
小鳥遊さんは、まるで見せつけるように豊満な胸を持ち上げた。
心なしか、男子生徒の目線が一斉に集まった気がした。
奏は溜息をついた。
「葵、悠真が見てるぞ。」
「にゃはは、冗談だってばぁ。ゆうやん顔真っ赤で可愛いなぁ。じゃあ私、席に戻るから。また後でね。」
俺は小声で奏に確認した。
「奏、お前まさか本当に小鳥遊さんと?」
「おっと、そろそろ授業始まるみたいだぞ。」
本当だったら校庭の桜の木の下に埋めてやろう。
少なくともクラスメイトの男子は許してくれそうだ。