夕闇が迫る山間の集落、
村はずれの朽ち果てた
お咲は、村人たちに惨殺され、その遺体は桜の木の下に埋められた。そして、それからというもの、奥山村では、奇妙な事件が頻発するようになった。家畜が何者かに襲われ、村人たちが夜中に奇怪な声を聞くようになったのだ。
やがて、人々は、お咲の怨念が、口裂け女となって村を徘徊しているのだと噂するようになった。その口裂け女は、真っ赤な着物を着て、長い黒髪を靡かせ、不気味な笑みを浮かべているという。そして、夜道で子供に「綺麗?」と尋ね、綺麗だと答えると、鋭い刃物で口を裂いてしまうのだ。
その刃物は、お咲が殺された際に使われたものと同じだと伝えられている。口裂け女は、お咲の怨念が宿った刃物で、村の子供たちを襲い続けるというのだ。
ある日、村長の息子である10歳の少年、
薄暗くなった山道。太郎は、背筋に冷たい風を感じた。その時だった。
「綺麗?」
背後から、かすれた声が聞こえた。太郎は、恐怖で体が震えた。ゆっくりと振り返ると、そこに立っていたのは、真っ赤な着物を着た女だった。彼女の顔は、影に隠されていたが、その不気味な笑みは、はっきりと見えた。
太郎は、恐怖で声が出なかった。彼は、必死に逃げようとしたが、足が動かない。まるで、何かが足に絡み付いているかのように、体が重く感じられた。
「き…綺麗じゃない…」
太郎は、震える声で答えた。しかし、その言葉は、虚しく響き渡った。
女は、ゆっくりと太郎に近づいてきた。そして、彼女の顔は、影から現れた。それは、想像を絶するほど、恐ろしい顔だった。彼女の口は、耳元まで裂けており、その裂けた口からは、鋭い歯が覗いていた。
太郎は、絶叫した。しかし、その声は、夜の闇に飲み込まれてしまった。
女は、何かを手に持っていた。それは、錆びついた刃物だった。太郎は、その刃物が、自分の顔に近づいてくるのを感じた。
その時、太郎は、全てを悟った。彼は、口裂け女に襲われる運命にあったのだ。
しかし、太郎は、諦めなかった。彼は、必死に抵抗した。彼は、女の手から刃物を奪おうとした。
激しい格闘の末、太郎は、女から刃物を奪うことに成功した。しかし、その瞬間、彼は、女の顔を見た。それは、お咲の顔だった。
お咲の怨念は、太郎の心に深く刻まれた。そして、太郎は、村の忌まわしい歴史と、口裂け女の伝説を、これからも語り継いでいくことを決意した。それは、二度と、同じ悲劇を繰り返さないための、彼の誓いだった。
それからというもの、奥山村では、口裂け女の噂は影を潜めた。しかし、村人たちは、決してその伝説を忘れることはなかった。彼らは、お咲の霊を慰め、二度と悲劇が繰り返されないように、村を守り続けていった。そして、枯れ果てた桜の木の下には、毎年、白い花が供えられ続けている。それは、お咲の魂への鎮魂歌だった。
しかし、時折、夜中に村の奥深くから、かすかな女の笑い声が聞こえてくるという。それは、お咲の魂が、まだこの世に未練を残している証なのかもしれない。奥山村の口裂け女の物語は、今もなお、語り継がれ続けている。