古びた墓標が立ち並ぶ、村はずれの墓地。生い茂る雑木林は、薄暗い影を落とし、昼なお暗い空間を作り出していた。その奥にひっそりと佇む小さな火葬場。コンクリート造りの近代的な火葬場とは異なり、それはまるで朽ち果てた小屋のようだった。
私の家系は、江戸時代から続く旧家。代々受け継がれてきた墓は、苔むして文字が判読できないほどに古びていた。その墓のそばで、私は村の葬儀を何度も見てきた。
故人の遺体は、すでに小さな棺に納められていた。その棺を担ぐのは、喪服から白い着物に着替えた遺族の男たち。彼らの顔は、悲しみと疲労の色で覆われていた。
前日が雨だった日は、墓地への道はぬかるみ、足元は滑りやすかった。男たちは、ぬかるんだ道を慎重に、しかし力強く進んでいく。彼らの足取りは、重く、そして沈痛だった。
火葬場の小さな炉は、煙を吐き出し、不気味な音を立てていた。火夫は、炉の火を絶え間なく見守り、調整していた。彼の顔にも、疲労の色が濃く浮かんでいた。
棺が炉に納められると、男たちは静かに祈りを捧げた。彼らの祈りは、悲しみと、故人への鎮魂の念で満たされていた。
火葬が終わると、男たちは白い着物を脱ぎ、再び喪服に着替えた。彼らの顔には、疲労と喪失感、そして何とも言えない虚脱感が漂っていた。
しかし、その葬儀には、いつもと違う何かがあった。それは、視線だった。
誰かが、私を見ているような気がしたのだ。
それは、墓地の木々の間から、あるいは墓標の陰から、私をじっと見つめる視線だった。冷たい、そして鋭い視線。
その視線は、故人の霊なのか、それとも…
私は、恐怖に慄いた。
その夜、私は悪夢を見た。
夢の中で、私は墓地にいた。漆黒の闇の中で、白い着物を着た男たちが、棺を担いで彷徨っている。彼らの顔は、影に隠され、表情は全く見えない。
そして、彼らの背後から、何かが迫ってくる。それは、巨大な影で、その形は全く分からなかった。
私は、叫び声を上げたが、声は出なかった。
私は、逃げようとしたが、足が動かなかった。
そして、私は、その影に飲み込まれてしまった。
私は、目を覚ました。
額には、冷や汗が流れていた。
それからというもの、私は村の葬儀を見るのが怖くなった。
あの冷たい視線、あの不気味な影。それらは、私の心に深く刻み込まれていた。
ある日、私は村の古老に、あの葬儀の話をした。
古老は、私の話を静かに聞いていた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「昔、この墓地では、多くの悲しい出来事があった。人々は、その悲しみを、この地の霊に託した。そして、霊たちは、今もこの地を彷徨っている…」
古老の言葉は、私の恐怖をさらに増幅させた。
私は、村を離れることを決めた。
しかし、村の葬儀、そしてあの冷たい視線は、今も私の心に深く刻み込まれている。
それは、決して忘れることのできない、恐怖の記憶として。