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第30話 新聞部でずっと一緒に

 月曜日。

 今週は書く記事がないから新聞は出せないかと思っていたが、何となく手持無沙汰になり、どうでもいいクロの生態系についての記事を書いて掲載したのだった。

 最近はどうにも文章を書いていないと物寂しいという感じになってきた。

 布姫に言わせると、それは良い傾向らしい。

 いつもよりも少ないとはいえ、記事を見てくれている人もいる。

 こうして読んでくれる人がいると思えば、くだらない内容だったとはいえ書いて良かったと思う。

 壁に寄り掛かり、ボーっと新聞を読んでいる人たちを眺めていると、不意に花のような甘い匂いが僕の鼻孔をくすぐった。

 あ、この匂い、知ってる……。

 そう思って、掲示板の前にいる人たちを順番に見ていく。

 ――やっぱり。

 そこにはあの先輩がいた。

 少し小柄で、可愛らしい雰囲気の女の子。一見すると後輩に思えるほど幼く見える。

 先輩は随分と長い間、僕の新聞を見てくれていた。

 僕の新聞のファンだったとしたら、先輩のことは書かなくて良かったと心底思う。

 まあ、ファンじゃなかったとしても人を傷つけるような記事は書きたくない。

 例え、書かなかったことによって、出る被害者がいたとしても。

 そういう観点からしてみても、やっぱり僕は記者には向いてないかもしれない。

 そんなことを考えていると、先輩が振り返ったので僕と目が合ってしまった。

 先輩はボンと音が聞こえてきそうなほど、一気に顔が赤くなる。

 ぺこりと僕にお辞儀をして、そそくさと逃げるように走り去ってしまった。

「あら、嫌われたみたいね」

「……なんで嬉しそうに言うんだよ」

 いつの間にか、僕の横には布姫が立っていた。

「そういえば、夏休み、何するか考えてないわね」

「ああ……。そうだな」

「佐藤くんはどこか、行きたい場所とかあるのかしら?」

「んー。いや、特に」

 布姫や水麗、唯織ちゃんたち新聞部のメンバーと一緒ならどこでもいい、とは思ってはいても口には出さない。どうからかわれるか分かったものじゃないし。

「それじゃ、今週の議題は夏休みにどこへいくか、かしらね」

「今週も、だろ?」

「私としては、海や山に行くのもいいと思うけど、七不思議を調べる合宿でも構わないって思ってるわ。なんだかんだ言っても、楽しいし」

「うん。それは同感だ」

 布姫といつも通りの会話をしていると――。

「号外号外―!」

 いつも通り、水麗がテンション高く、走って来る。

 その後ろには唯織ちゃんの姿が見えた。

 そして、今日も、いつも通りの学校生活が始まるのだった。


 部活が楽しいとはいえ、やはり授業自体は楽しいというわけではない。

 そう考えると月曜日は少しアンニュイな気分になるものだ。

 教室に入り、自分の席に座って、一時間目の時間割に視線を向ける。

 一時間目は音楽か。

 僕は立ち上がって教室の後ろにある生徒用の物入れへと向かう。

 物入れから若干飛び出ているリコーダーを引き抜く。

 あー、そろそろリコーダーのテストがあるな。練習しないと。

 そう思いながら、自分の席に向かう。

 そのとき、ふと、甘い花のような匂いを感じた。

 え? まさか。

 教室内を慌てて見渡すが、先輩の姿はなかった。

 気のせいか。

 自分の机に戻り、突っ伏す。

 なんか体が重い。

 今日は部活までの授業をなんとか寝て過ごそう。

 僕の中では授業よりも、新聞部のメンバーと過ごす部活の時間の方が大事なのだ。

 机に突っ伏していると、横から女の子たちの話し声が聞こえてくる。

「ねえねえ、知ってる? 夜の学校でね……」

 こうやって、日々、新しい七不思議が作られていくのだろう。

 我が新聞部としてはネタが尽きなくていいことだ。

 僕は机に突っ伏しながらも、その女の子たちの話に耳を傾けるのだった。



 校舎の裏側にある、トーテムポールは願いを叶えてくれる。

 もし、その七不思議が本当であるなら、僕は『新聞部のメンバーとずっと一緒に居たい』と願いたい。


終わり


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