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【幕間】それは嫉妬、そして始まりですわ

 わたくし、ティスカ・ルーデリアにとって、同郷のキール・ラングロは正に英雄でした。


 大地震が起きたあの日以降、わたくしは彼のような探索者になることを夢に見て、実際に沢山の魔物を倒してきました。


 すると、探索者としての活動を始めてから僅か一ヶ月。

 探索者ランクで圏内入りを果たし、期待のルーキーとして名が売れ始めました。


 その時のわたくしは、自信に満ち溢れていました。

 誰も自分には追い付けない。

 誰にも指図なんてさせない。

 自分は選ばれし存在だ。

 固有能力ユニークスキルがそれを示している。


 ですが、期待のルーキーはわたくしだけではありませんでした。


 御剣みつるぎ楓音かのん

 白水しらみず由奈ゆな


 それは、わたくしよりも遅く探索者となり、わたくしよりも一日早く圏内ランク入りを果たした二人の名です。


 無論、期待のルーキーの噂は度々耳にします。

 しかしすぐに頭打ちになり、成長が止まりました。

 わたくしを追い抜くことはおろか、肩を並べることすらできない者ばかりでした。


 しかし、彼女達は違います。

 あっという間にわたくしを追い抜いてしまいました。


 理由は明白。

 わたくしはソロで、彼女達は二人組でしたから。


 探索者ランクを抜かれて初めて、わたくしはソロでは限界があることに気が付きました。


 自分にも、仲間が必要だ。

 彼女達のように、クランを作るべきだ、と。


 でも、耐えられません。

 自分よりも弱い人を仲間にするだなんて、我慢できるはずがありません。


 では、どうします?

 自分よりも強い人に声をかけ、仲間になってもらえばいいのでは?


 ダメ、それも無理です。

 ランク圏内のほとんどは、特定のクランに所属しています。

 わたくしのようにソロで活動する探索者は稀なのです。


 それにそもそも、ランク圏内にもかかわらずソロで活動している時点で、クランを組む気など無いに決まっています。自分もそのつもりでした。


 故にソロのまま、このランクまで上がってしまったわたくしがクランを作るには、自分よりも弱い人を選ぶしかないのです。


 そしてそれができない以上、自分はこれから先もずっとソロの探索者で居続けることになります。その他に道は残されていません。


 わたくしが己の立ち位置を自覚した丁度その頃。

 御剣さんと白水さんがクランを解消したとの知らせが入りました。


 理由は定かではありませんが、あんなにも仲の良かった二人が、別々の道を歩むことを決めたのです。そしてわたくしは、それをチャンスだと捉えました。


 白水さんは探索者を辞めて組合職員になってしまいましたが、御剣さんは探索者のままです。ですからわたくしは迷わず声をかけました。


 御剣さんは、わたくしと同等かそれ以上の実力の持ち主です。

 仲間にするに相応しい相手だと言えます。


 しかしながら、御剣さんはそう思わなかったようです。


「もう誰にも、あたしの背中は任せないから」


 わたくしの勧誘を受け、一言。

 それが悔しくて、そしてどうしようもなくムカついて、イライラが止まらなくなったわたくしは、その日を境に御剣さんに執着するようになりました。


 それは、キール様に抱いていた憧れと同じものでした。


 いつか、認めてもらって。

 いつか、一緒にクランを組んで。

 いつか、二人揃って一桁ランクになって。


 わたくしは夢を見ながら探索を続けました。

 なのに、それなのに、


 御剣さんは再び、クランを結成しました。


 相手は誰?

 白水さんではない?


 新たなパートナーは、見たこともない男でした。


 彼は誰?

 いったい誰なの?

 御剣さんは、彼になら背中を任せることができるとでも言うの?


 つい先日、御剣さんはわたくしのランクを再び追い抜きました。

 そしてだからこそ、今このタイミングでクランを作る意味が分かりませんでした。


 その男は何者か。

 探索者組合で聞いた話によると、探索者ランクは圏外とのこと。ますます理解不能です。


 仕方がありません。

 わたくしは実際に己の目で見てみることにしました。


 奇しくもそれは、キール様が遠征する日と重なりました。

 故に、これはもう一つのチャンスでもあります。


 キール様が率いるクラン「オール・キル」には、普段は近づくこともできません。下部組織が周囲を固めているからです。


 ですが、今日は違います。

 御剣さんが選んだ男の正体を見極めながらも、同時にキール様へアピールすることができるのです。


 もし、御剣さんの目の前でキール様に見初められたら、それ見たことかと思えるはずです。

 わたくしは国内トップのクランに勧誘されたぞ、と。

 そんなわたくしを御剣さんは無下にし、どこぞの馬の骨を選んだのだと。

 そう罵ってやるつもりでした。


 でも、失敗しました。


 御剣さんとキール様は、わたくしを一切相手にしませんでした。

 その後、半ば強引に了承を得た魔物退治対決でも、わたくしは御剣さんとの力量差を感じていました。


 その時のわたくしは、焦っていたのでしょう。


 たかが赤の門如きで、こんなにも苦戦するとは思いませんでした。

 それがまさか、焦った挙句にレッドゴブリンの罠にかかることになるとは、夢にも思いませんでした。


 わたくしには固有能力ユニークスキルがありますし、冷静に対処することができれば後れを取るような魔物ではありません。


 だというのに、わたくしは再度失敗しました。


 レッドゴブリンの巣に気付かず誘い込まれて罠に引っかかり、手足の自由を奪われて玩具になってしまったのです。

 もがいても、もがいても、レッドゴブリンは放してくれません。


 プライドばかり高くて、御剣さんのように背中を任せられる相手を見つけることができなかった。その結果が、コレです。

 わたくしの人生は、所詮こんなものです。


 それなのに、死を覚悟したその時、レッドゴブリンの群れが肉塊と化しました。

 助けられたと理解したのは、その数秒後、彼がわたくしに声をかけた時です。


 小汚いと罵ったのに、この男はわたくしを助けました。

 わたくしの身を案じ、着ている服までプレゼントしてくれました。

 そしてこの瞬間、わたくしの頭の中に一つの言葉が浮かび上がりました。


 ――無償の愛。


 これです。

 これなのです。

 これこそが御剣さんが望んだもの。


 本当は気付いていました。

 自分自身を曝け出すことができなければ、たとえクランを作ったとしても背中を任せることはできないということを。


 たとえば、わたくしにとってキール様は憧れの存在です。

 認めたくはありませんが、御剣さんもまた同じく、わたくしの憧れであり続けました。


 そして彼は、その二人とは明確に異なりました。


 真実に気付いた時、わたくしの中で彼は小汚い男ではなくなっていました。

 かといって、憧れの存在になったわけでもありません。


 己の背中を任せたい。任せてもらいたい。

 そう思える存在へと変わっていたのです。


 だからわたくしは決めました。

 彼の前では、正直にいよう。全てを曝け出そう。ありのままを見てもらおう。

 そしてそんな自分を受け入れてもらえるように、全力で尽くしてみせようと。


 故に、今日もわたくしは邪魔をします。

 御剣さんがライバルであることに変わりはありませんが、その形式は様変わりしましたから。


 過去は、探索者として。

 未来は、恋のライバルとして。


 当然、わたくしは笑います。

 御剣さんに負けるつもりは毛頭ないと。


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