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第10話 おばあちゃん、魔力のお勉強をする

 その後、マルクス様から様々な話を聞いた。出発は準備もあるので二日後になり、今日は私の魔力量測定が行われるとの事。その話をしているときに、マルクス様が「ついでにあの方たちにも測定をしてもらいましょうか……」と悪い顔で言っていたの。そんな表情もできるのね、と少し衝撃だったわ。


 魔力測定ではマルクス様の言う通り、私の魔力数値が国で一番を示したそう。記録を確認してくれたマルクス様が「一位の方の数倍以上ですね」とにっこり笑うので、そうなのだと思う。

 ちなみにクリスちゃんの家族は私の水晶玉の数値を見て、顎が外れるのでは? と思うくらいあんぐりと口を開けていた。遠くで見ていたヘンリクは大笑いしていたし、マルクス様も口角が少し上がっていた。マチルダちゃんなんかは鼻で笑っていたけど……貴女、侯爵が雇用主ではないの? そして癒し担当のコニーくんは全員の様子をハラハラしながら見ていたわ。可愛かった……。


 私の後に嫌がる彼らも数値を測ったようなのだけど……やっぱり順位は落ちていたみたい。兄はそれでも二十位前後だったけれど……父と母なんて五十位前後となっていたみたい。二人とも「嘘だ!」と叫んで他の方が持っていた記録と見比べたみたいだけれど……どうみてもその順位になっていて、愕然としていたわ。

 努力は裏切らない、と日本では言うけれど……これを見ていると、怠惰も裏切らないのねぇ。


 最初は「わー、きゃー」言っていたけれども、マルクス様の上司の方に説教? されてからは、だいぶ大人しくなったみたい。失意の中、帰っていくクリスちゃんの家族を見送ったわ。最後に父が縋るようにこちらを見ていたけど……にっこりと微笑んで手を振ったら、衝撃を受けたのかその場で固まっちゃったわ。

 それが彼らの姿を見た最後。もしかしてマルクス様の上司に言いくるめられたのかしら? まあ、私は賢者の仕事を遂行するだけよ。


 それ以外は特に何も問題なく教会で過ごしたの。そして出発当日。荷物を積んだ私たちは馬車に乗って移動を始めたわ。私とコニーくん、ヘンリクは客車に乗り、マチルダちゃんが御者の担当になったの。

 事前に決めていたのだけど、ヘンリクも御者ができるみたいで「俺がやる」と言っていたのだけれど、マチルダちゃんに押し切られた形になったみたい。最終的には――。


「アナタは私よりも若いんですから、お姉ちゃんに任せてください」


 とマチルダちゃんに言われて、背筋に悪寒が走ったらしく引き下がったみたいね。勿論、彼女だけに任せるわけにはいかないと、ちゃんと交代の約束はつけてきたみたい。その後、ヘンリクは落ち込んじゃって「前世も含めたら俺の方が年長者だ……」と肩を落としていたけどね。


 私も馬車に乗るのは初めてなので、最初ははしゃいでいたけれど、途中から疲れちゃったのでコニーくんとヘンリクと話していたのよ。どうもヘンリク、という呼び方に違和感があったからねぇ……「ヘンくん」って呼んでみたら渋い顔をされてしまったわ。せめて「リクくん」だって……。

 その後はコニーくんとリクくんヘンリクと詠唱について話し始めたの――。




「そういえば、コニー。ひとつ聞きたい事があるんだが」

「な、なんでしょうか……?」


 リクくんの言葉に肩が跳ねるコニーくん。ちょっと、リクくん! 驚かせちゃダメじゃない!


「あ、いや、すまない……驚かせるつもりはなかったのだが……」

「い、いえ……僕こそすみません。急に声をかけられると、いつも肩が跳ねてしまうので気にしないでいただけると助かります……」

「あら、それだけ集中力があるという事ね! コニーくん凄いわ!」

「あ……ありがとうございます……」


 コニーくんを褒めれば、最初はぽかんと口を開けていた彼の頬が次第に赤くなっていく。あら、ちょっと照れているみたい。ああ、やっぱり可愛いわぁ〜と微笑ましく見ていると、私から温かい目で見られている事に気づいたコニーくんは、少し嬉しそうに見えた。


「話は戻すが、魔力について聞きたい。コニーやクリスは魔法を使用する際に詠唱が必要なんだよな?」

「ええ、そうですが……」

「俺はいつも詠唱なしで魔力を利用しているのだが、魔法も詠唱なしで使う事ができるのか?」

「え?! リクくん、詠唱なしで魔法使えるの?! すごいわねぇ」


 両手を合わせて喜んでいたら、リクくんが複雑な顔をしていた。「なんかおばあちゃんに褒められた気分だ……」とか言っているけれど、中身はおばあちゃんよ?

 コニーくんは私たちのやり取りの間に、少しだけ悩んでいたようだけれど、すぐに顔を上げてリクくんへと話し始めた。


「え、えっと、ヘンリクさんが魔力を使う時って……どんな時でしょうか?」

「魔力を使う時……ああ、肉体を強化させたり、剣に纏わせたりするな」


 そう言って彼は力こぶしを作ってから、そこに透明な何かを纏わせた。透明な何かはコニーくん曰く、魔力らしい。

 この世界の魔力は見えるようだ。私がよく見ていた魔法少女系のアニメや漫画では魔力という言葉は使われていなかった気がするし、魔力が見えるという描写もなかったと思う。目に見えるなんて、不思議よねぇ。

 そういえば自分で魔法を使った時に魔力は見えたかしら、と思ったけれど……あの時は詠唱という名の決めゼリフを選んでいたから記憶がないのよね。


「た、多分ですが……ヘンリクさんのように……体内にある魔力を体にまとわせるだけであれば、詠唱は必要ないと思われます。剣にまとわせる時も、剣は手に持って魔力をまとわせていますよね?」

「ああ、その通りだ。剣を離した状態で魔力をまとわせた事はないな」

「えっと……そ、そこだと思います。ヘンリクさんは魔力自体をそのまま体や剣の強化に使いますが、ク……クリスさんは魔力を何かしらに変化させてから使っているので、詠唱が必要なのかと思われます」

「……」


 うーん、なんとなく理解できるような、できないような? ……でも、そう言ったらきっとコニーくんは自信を無くしちゃうわ。どうしたらいいのかしら? そう内心狼狽えた私は、縋るようにリクくんを見る。彼はコニーくんの言葉を理解しているようで、うんうんと頷いている。


「確かに、クリスはこの前は火に変化させていたな」

「あ、そう……そうです! それです! 魔法は魔力を水や火などに変化させて使用するモノなので、詠唱が必要とされているのではと考えられています!」


 つまり私が体を強化させようと思ったら、詠唱がなくても魔力があればできるって事なのね。ただ、杖を使用する魔法少女系は……完全に詠唱が必要だわ。肉弾戦をしていた魔法少女は……あ、意外と居るわね。

 私もいつか身体強化をして、物理で戦ってみたいわ! 夢が広がる……いえ、クリスちゃんの身体が保つかが分からないわ! 要検討ね。


 一人で考えたり、頭を上下に振ったりしている私。そんな私を見て、二人は顔を見合わせていた。


「あ、あの……クリスさんは大丈夫ですか……?」

「ああ、あれは何か良からぬ事を考えている時のミ……クリスだ」

「よ、良からぬ事……?」


 ため息をついたリクくんと青褪めるコニーくん。そうとは知らずに私は、ニマニマとこれからのことを考えていた。

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