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第11話 美少女戦士を知っているのは何故?

「あ、ありがとうございました! ご挨拶はまた後ほど、失礼します! ゆ、勇者様!」


 目の前にいた男の子は、私に頭を下げると勇者様の元へ一目散に走っていく。どうやら勇者様の腕や顔に傷ができていたらしい。傷の部分に彼の手から淡い光がキラキラと注ぎ、みるみるうちに治っていく。


 全員が無事だった事に私が安堵していると、声をかけてきたのはハルちゃんだった。


『ねぇ、ミヤちゃん。今の詠唱って、美少女戦士サンシャインの緑の子のやつに似てたね! えっと、マイコちゃんだっけ?』

「そうだけど……え、ハルちゃん。美少女戦士サンシャイン知ってるの?!」

『知ってる、知ってるよ〜! 超有名じゃん!』


 ハルちゃんは世界を管理しつつ、空いている時間があれば気晴らし日本の漫画を見ているという。『神は寝る時間も要らないし、漫画なら数分で読めちゃうから、他の神様にも人気だよ』……神様も漫画を読むのね、と感心しちゃったわ。


『いやぁ、ハルちゃん。詠唱にそれを選ぶとは思わなかったよ……? 見た目は魔法少女、頭脳はおばあちゃん……魔法少女おばあちゃんの爆誕……! まあ、服装は違うけどね』


 詠唱と聞いて、一番に思い出したのがそれだったもの。少し恥ずかしいけれど……今はピチピチの十六歳なんだから、やっても問題ないわよね。確か主人公たちは中学生から高校生の年齢なんだから。

 それよりもハルちゃんの言葉……なんかどこかで聞いた事があるフレーズだったけれど、どこだったかしら? まあ、見た目と頭脳がチグハグなのは、ハルちゃんの言う通りだわ。


『あれ、でもマイコちゃんの攻撃技のセリフってもっと長くなかった? 我が守護木星よ……から始まったような気がするんだけど……?』

「勿論、そこもちゃんと覚えてはいたけど……敵が逃げちゃいそうじゃない?」


 ハルちゃんはイメージが大事だと言っていたし、詠唱も短くて問題ないと言っていた。普段からアニメを見ていて、思うのよ。長い詠唱の間、敵は突っ立っているだけなのかしら? って。

 アニメなら忖度はあるでしょう。けどこの異世界は現実よ。だから短くしてみたの。


「この世界なら、何でもできそうね」


 私は初めて使えた魔法に大満足だった。

 想像さえできて、詠唱できちんと発動するのならば……もしかしたら敵を拘束したり、変身できるのでは?! あ、カードキャプターウメちゃんは確かカードを使用して魔法を発動する仕組みだったわよね。手元にカードはないけれど、アニメで何となく魔法を使ったのかは覚えているから、そこをしっかり思い出せば、より沢山の魔法は使えるわね!


 ああ、夢が広がるわ……!


『ミヤちゃんが……思ったより魔法少女? 美少女戦士? ガチ勢だった件……』


 そんなハルちゃんの呟きに気づかず、私はどんな魔法を使おうかとウキウキと頭の中で記憶にあるアニメを引っ張り出していた。



「助けてくれて、ありがとう。不躾で済まないが……ひとつ聞いて良いだろうか?」


 しばらくして治療を終えた勇者様と男の子が私の前に現れるが、私はニヤニヤしながらアニメの事を考えていた。

 魔法少女アニメといえば、変身は鉄板。最近は可愛らしい杖で魔法を使う事が多いのよね。美少女戦士を筆頭に、おじゃ魔女れみふぁも杖を使っていたわね。 最近じゃ、二人はキラキュアも杖を使う事が多いような気がするわ。初代は素手だったけれどね。アニメの服って可愛いわよねぇ。一度着てみたいわ。


 反応しない私に男の子は心配そうな表情をして、勇者様と私の顔を行ったり来たり。勇者様は私の様子に苦笑い。それに気がつかない私。


「……おーい、聞こえているか?」


 今度他のアニメで使っていた魔法も使用してみましょう! それが良いわ! あとはひみつのリョウコちゃんみたいに、変身できたらかっこいいわよね? あら、もしかして――。


「おい」


 その言葉と同時に私の目の前に、にゅっと手が現れた。驚いて手を出した人物を見ると、そこにいたのは勇者様と気遣わしげにこちらを見ている男の子だ。勇者様は眉間に皺を寄せて、こちらを見ていた。

 そうだ、私はこの方に助けられたのだったわ。ずっとアニメの事を考えていて、失礼な事をしたわね……まずはお礼を言わなければ!


「ぼうっとしておりました。申し訳ございません。また、助けていただきありがとうございました。私、クリスティナ――と申します」


 やっぱり苗字が思い出せない私。貴族らしくワンピースの裾を軽く持ち上げて膝を折る。すると勇者様は少しだけ目を見開いて……微笑んだ。


「いや、こちらも助けてくれてありがとう。君のお陰で助かった」

「ぼ、僕からもありがとうございました……!」


 男の子は慌ててぺこり、と頭を下げる。彼の姿が孫の男の子と重なり、可愛らしい。微笑ましく見ていると、後ろからマルクス様の声が聞こえた。


「コニー、申し訳ありません。こちらに来ていただけますか?」

「マルクス様、分かりました! あ、それでは呼ばれているので、一旦失礼します……!」


 そう告げて彼はトコトコと走っていく。その後ろ姿を可愛いわぁ、と思いながらじっと見ていると、勇者様から声がかかった。


「紹介がまだだったな。俺はヘンリク・アストンだ。女神様より勇者に指名された者だ。もしかして君はもしかして賢者、か?」

「はい。先程マルクスさんに賢者だと指名された話をお聞きして、こちらに」


 令嬢っぽく振る舞ってみたけれど……こんな感じで良いのかしら? そんな事を考えていた私は、次の言葉で考えていた事が吹っ飛んだ。


 「そうか……気になる事がある。単刀直入に聞くが、何故君は美少女戦士サンシャインを知っている?」

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