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第3曲目(11/14)ミラちゃん はじめての2025ねん! 〜死闘!?来夢VSオーヴァー〜

 「「……………!!」」


 オーヴァーと私は、無言のまま睨み合いを続けていた。


 「春ちゃんフラレた……春ちゃんフラレた……ブツブツ……」



 静まり返ったホールに、ジェンダーレス生春巻の呟きだけが響く……って、アンタは、RPGの町の入口付近にいて、何回話しても『ここは〇〇の町です』としか言わない町人か?私にフラれたショックで、バグったのかしら!?



 「ちょっと、来夢ちゃん。騒がしいけど、何かあったのかい?」


 さっきまでの私達の言い争いが聞こえたのか、心配そうな顔をした甘子かんこさんがホールにやって来た。


 「何でもありませんのよ女将さん。中学時代の昔話で盛り上がっただけですのよ。ね??お騒がせしてごめんなさいですの」


 甘子さんを見た途端、オーヴァーは猫被りの笑顔に切り替えて言う。


 「そうなんですか?それなら良いんですけど……」


 「さーて、食べ終わりましたので、ワタクシ達はこれで失礼しますわ。ご馳走様でした!女将さん、お会計をお願いしますですのよ」


 「あ、は、はい。ありがとうございます。あのー来夢ちゃんのお友達さん、顔中が食べカスまみれですよ。とりあえず、外に出る前にお顔を拭いた方がいいですよ」


 「あ、アハハ!嫌ですわ!ワタクシったら!お恥ずかしいですのよ♪……っていうか、女将さん大人しそうな顔をしてるのに、猛毒を吐きますのね?」


 「あら?私、何か変な事を言いました?」



 「あ、ああ、いえいえ。何でもございませんですのよ。……無自覚な分、余計にタチが悪いですのよ?」



 甘子さん、グッドです!ちょっとだけ私の気分スッキリしましたよ♡


 「来夢ちゃん、お友達におしぼりを渡してあげて」


 「……はい」


 オーヴァーは、私から受け取ったおしぼりで顔を拭く。


 「それじゃ、一郎さん、生春巻さん帰りますわよ」


 「お、オーヴァーちゃん、あの、まだ話は終わってない……」


 「春ちゃんフラレた……春ちゃんフラレた……ブツブツ……」


 「生春巻さん!いい加減におし!とっとと〝こちら側〟に戻って来るんですのよ!」


 そう言って、オーヴァーは項垂れてるジェンダーレス生春巻の頭をゲンコツで叩く。


 「はっ!?は、春ちゃん、今までどうしてたのかしら?」


 「やっと戻りましたわね。さあ、もう帰るんですのよ」


 「えー?もう?でも、春ちゃんご飯食べ終わってない……」


  「よーくお皿を見なさい!炒飯も味噌ラーメンも完食してるんですのよ。きっと〝あっち側〟に行ってる間に無意識に食べてたんでしょ?掃除機みたいな食欲ですのね」


 「あら、嫌だ!春ちゃんったら、はしたない♡」


 「来夢さん♡〝安心しておくんですのよ?それじゃ、またお会いましょう!楽しいミュージックフェスになりそうですわ!キャーホホホ!!」


 「ねえ?加トちゃん。投票って何のこと?」 


 「生春なまはるさんには後で説明するよ。もうこの店終わりみたいだから、とりあえず出るよ」


 「えっ?わ、分かったわよ。来夢ちゃーん!春ちゃんは諦めないからねー!〝FOREVER LOVE〟よー♡」


 ……会計を済ませたダイヤモンドブレイカーズの面々は店から出て行った。


 「随分、個性的なお友達なのね。あら?来夢ちゃん、難しい顔しちゃってどうかしたの?糞詰まりにでもなったの?トイレ行ってきたら?」


 「さっきの私と同じ事を言わないでくださいよー!糞詰まりじゃないけど、トイレには行ってきます」


 〝バタン〟


 私はトイレのドアを閉めた。


 フー。やっと落ち着いたって…………………や、や、や、やっちまったぁぁーーーー!!!!


 オーヴァーの奴が特撮ヒーロー主題歌の事を馬鹿にするから、つい怒って〝対バン決闘〟を受けちゃったわよ!ポイズン!!しかも、負けたらバンド解散の条件付きで!何で絵に描いた(本当は文字だけど)ような〝お約束〟をやらかしてんだ私!?


 バイト終わった後、菜々子ななこすめらぎに会う約束があったよね。2人に何て話せばいいのかな?


 ダメだ!何にも思いつかないや。とりあえず、今はバイトに集中して、ファミレスに着くまでに考えるしかないわ。


 ……トイレから出た私が見たのは、ミラがホールのテーブルを拭いている姿であった。


 「ミラ、起きてたのか。どう?よく寝れた?」


 「あ!ライ様!〝5話分〟くらい寝てたから、頭スッキリなのじゃ」


 「5話分って、どういう意味よ?」


 「てへ♪ミラちゃん、子供だから難しい事は分からないのじゃ!」


 「……まあ、いいわ。どうして、ミラがテーブル拭いてるのよ?2階で大人しく待ってなさいって言ったじゃない」


 「ミラ、ライ様たちのお手伝いがしたいのだ」


 「え?あんた子供なんだから、そんな事をしなくていいわよ。それに大将達の邪魔になっちゃうじゃない」


 「ごめんね来夢ちゃん。でも、ミラミラちゃん、2階から下りてきた途端『お手伝いしたい!』って繰り返し言うもんだから、ついお願いしちゃったのよ」


 ミラの隣にいた甘子さんが、両手を合わせながら言う。


 「あ、いや、甘子さんは悪くないです。ミラ、手伝ってくれるのは嬉しいけど17時から夜の部が始まってお客さんが入ってくるから、それまでの間だけよ。私のバイト時間は19時30分までなの。だから、17時になったら少しだけ2階でテレビ観て待ってなさい」


 「はーい!合点承知の助なのじゃ」


 ……それから間もなくして、17時になり夜の部となった。約束通りミラは2階に上がり、私はひとまずバンドの事は忘れて夢中で働いてたら、あっという間に19時30分になった。


 お店の営業時間は20時までなので、19時30分のラストオーダーを厨房に伝えれば、私の仕事は終わり。後は大将と甘子さんに任せるのが、いつもの流れだ。


 「大将、甘子さん、お疲れ様でした」


 私は、厨房の2人に声をかけて、着替えるために2階に上がろうとする。


 「来夢ちゃんお疲れ様!」


 階段を上る途中、甘子さんに声をかけられたので、振り返った。


 「あ、甘子さん。お疲れ様です。あ、あの今日は、ミラの事でお騒がせして、ごめんなさい!もう次からはアパートで留守番させておきますから」


 「私も、ミラミラちゃんの事で言おうと思ってね。これからバイト来るときはミラミラちゃんも一緒に連れてきなさいよ」


 「え?い、いや、それはいくら何でも迷惑じゃ……」



 「私達夫婦も子供が欲しかったんだけど、どうしても授からなくてね。だから、ミラミラちゃんが自分の娘みたいに思えて可愛かったし、また会いたいなって。今度は、ミラミラちゃんが退屈しないようにオモチャも買っておくわ。来夢ちゃんも急にお姉さんの子供を預かる事になって色々大変でしょ?私達家族みたいなもんじゃない?それに、〝ずるい〟わよ」


 「ずるい?甘子さん、それはどういう意味……」


「そうよ。来夢ちゃんだけ〝子育ての楽しさと辛さを独り占めしてる〟なんて。私達もずっと子育てしたかったんだから!。あ、でも来夢ちゃんの場合、自分の子供じゃないから、正確に言うと〝子育て〟って言葉は間違ってるのかしら?まあ、細かい事はいいじゃない!ホホホ!」


 「か、甘子さーん!え、えぐ……!う、うわぁぁーん!」


  甘子さんのミラに対する言葉と優しさが嬉しかった私は、思わず抱きついて泣いてしまった。



 「あらあら。急に泣いちゃって、どうしたのよ?まるで来夢ちゃんの方が小さな子供みたいね」


 そう言って甘子さんは、私の頭を優しく撫でてくれる。


 この涙は、ミラの事だけじゃない。……分かってる。怒りに任せて自分勝手に対バン決闘を受けてしまった事に対する〝後悔〟と〝自分自身への情けなさ〟の感情も含まれてるんだって!


 今頃になって、こんな事に気がつくなんて、私は本当にバカだ!



 菜々子と皇は、きっと怒るだろうけど正直に話して謝るわ!


 だから甘子さん、あと30秒だけでいいです!貴女の胸でバカな私を泣かせてください……。




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