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ダブルトランス=ロマンステイル~男の娘(おとこのこ)な僕と漢女(おとめ)な君と~
ダブルトランス=ロマンステイル~男の娘(おとこのこ)な僕と漢女(おとめ)な君と~
水無月六八
現実世界ラブコメ
2025年02月07日
公開日
3万字
連載中
貧弱で引っ込み思案な男子中学生、伊原遍(いはら あまね)には家族以外の誰にも言えない秘密があった それは眼鏡を外し、化粧をしてウィッグを被り、ゴスロリ服を着て女装をして街に繰り出すこと 普段は冴えなく生きている遍は、美少女に化けている時だけは生の充実感を得ることができるのであった ある日遍は、姉の通う大学の学園祭に女装して遊びに行き、そこで親が大学教授をしているという美少年・レイと友達になる ところが後に、レイがボーイッシュなスポーツ美少女だと知ることになり、遍とレイ、お互いにちぐはぐな二人の物語が始まる。 ※毎週火曜・木曜の19:00に更新予定です。

Ep.1 告白


 すべての人間は自然的に平等であり、自由であり、独立している。そして、いかなる者も他者の同意なくしてその自然権を奪うことはできない。

(ジョン=ロック『統治二論』より)


 ◇


 伊原いはらあまねは、悩んでいた。


 ここ、東京都心から少し離れたところにある、郊外というほど遠くはない街にある色々な音が鳴り響くゲームセンターの、自動販売機コーナー近くにある長椅子の上に座って悩んでいた。


 白と黒の色を基調としたいかにも年頃の少女趣味的なゴスロリ服を着て、フリルのついた白いヘッドドレスの下に長い艶やかな黒髪を垂らしたあまねは、その美少女然とした整った顔をほんの少しだけ、なるべく気付かれないよう控えめにすぐ横に向ける。


 そしてあまねはその大きな瞳で、隣に座っているその黒っぽいデニムジーンズを穿いた脚を組み、小さなペットボトル入りの濃厚なグレープジュースドリンクを斜めに傾けて呷るように飲んでいる、ほんの一週間前に姉の大学の学園祭で知り合った長身の美少年、レイをちらりと見上げる。


 男子としては少し長めのふわっとした髪を明るく茶色に染めて、ダボっとした少年らしいグレーのパーカーを着た、その一週間前にあまねと友達となったレイは視線に気づき、薄い唇からペットボトルの口を離して目線を下げて不思議そうな口調で尋ねる。


「ん? どうしたのあまねちゃん?」


 ペットボトルを下ろして中に入っている紫色の液体を揺らし、高くも低くもない中性的な声でそう尋ねるレイに、あまねは少し後ろめたいような気恥しいような気持ちがそのたおやかな体の奥から湧き上がり視線を逸らす。


 そして、あまねはもう一度照れ気味に顔と視線を軽く向けて見上げ、今度は小さく、ソプラノ調のおしとやかな少女らしい小鳥が鳴くかのような声で言葉を発する。


「あ……えっと……レイくんって、とてもダンスゲーム上手かったですね。初めてチャレンジしたとは思えませんでした」


 すると、レイは健康的な白い歯を見せて軽く笑いつつ、元気な少年らしい軽い口調で返す。


「誉めてくれてありがと。ま、一応、高校でいっつもバスケットボールの練習してるからね。あれくらいならお茶の子さいさいってとこかな」


「いえ、凄かったですよ。ぼくは小さいころから運動とかは苦手で……いま通ってる中学でも、体育の時間にはいっつも徒競走とかビリですし」


 モノトーン調のロングスカートゴスロリ服に身を包んだあまねはそう言うと、中学校での普段の冴えない学園生活を思い出して、その白いヘッドドレスを着けた長い黒髪を揺らし目の前にあるスカートの上に視線を移しつつ、黒いタイツを履いた太腿で布地に谷ができるよう内股気味に挟んで少し落ち込んだ。


 すると、レイは少し表情を気安く崩して、残っていたジュースを一気に飲み干してから組んでいた足を崩して、気を使ったようにこんなことを言う。


「そういう風に他の人の良いところを、自分の自信がないところと比較するのは愚の骨頂じゃないかな? じゃあよかったらボクに、あまねちゃんの良いところを教えてくれない? あまねちゃんは休日とかは他にどんなことをしてるの?」


 そう爽やかな面持ちでフォローしてくれる目の前に美少年に対して、あまねの心境は複雑だった。


 ――最初が、あんな出会い方じゃなかったらなぁ。


 ――どうして、あんな形でレイくんと出会っちゃったんだろ。


 ――そしたら、ちゃんとした友達になれたかもしれないのに。


 そんなあまねの心中を知る由もなく、レイはすぐ隣にいるゴスロリ服をまとった瞳の大きな黒髪ロング美少女な様相の、つい一週間前に知り合った可愛い友達に視線を向けつつ、返答を待っている。


 あまねは、後ろめたさからレイの顔を直視するのは躊躇ためらいつつ、照れ気味な頬を引っ込み思案な様子で隣に向けてぼそぼそっと喋る。


「えっと……お菓子作りとか、それなりに得意かもしれません。お姉ちゃんが料理を作るのが趣味なんで、それに付き合ってるうちに自然とぼくもある程度ですけど、お菓子を作れるようになりました」


「そりゃ凄いよ! あまねちゃんみたいな女の子だったら、ボクみたいにスポーツじゃなくって、お菓子作りのようなカワイイ趣味とかが得意な方がずうっといいって!」


 まったく他意も悪意もなく、飾り気のない天衣てんい無縫むほうな笑顔を見せる目の前の美少年の姿に対して、あまねはそのパッドで誤魔化した薄く小さな胸の中にある良心がチクリと傷んだ。


 ――可愛い趣味が似合う女の子、って思ってくれてるの。


 ――やっぱりこれって、レイくんを騙してるってことになるよね。


 そんな誰にも言えない罪悪感を知らず、レイは無邪気な様子で、すぐ隣にいるあまねに対して言葉を続ける。


あまねちゃんの作ったお菓子って、評判良かった? 誰かに食べてもらってるとかあるの?」


「えっと……お姉ちゃんと、お父さんとお母さんと……あ、あと家族以外だったらたまに家に遊びに来た大諦ひろあきに食べてもらってますね。おおむね美味しいって言ってくれてます」


 あまねがそう言うと、レイは興味深そうに、ごく自然体に顔を明るくする。


大諦ひろあきくんって、もしかしてあまねちゃんの彼氏?」


「え!? いえ違います! 違います! 近所に住んでいる幼馴染でただの男の子の友達です! 大諦ひろあきとはそんなんじゃないですから!」


 顔を赤くして両手を振って否定するあまねの様子に、レイは微笑ましいような、目の前にいる少女が少しばかり心を開いてくれたことを嬉しがるような表情を見せた。


 そんな、好意を寄せていてくれそうな美少年とどういう風に向き合えばいいか分からない、いたたまれない状況に、あまねは心の中で祈る。


 ――神様、助けてください。


 すると、どこからともなくスマートフォンから呼び出し音が鳴った。


 ティロリンティンティン ティロリティンティン ティッティティティ


 その、スマートフォンに電話がかかってきたことを知らせる典型的な呼び出し音は、レイの穿いているジーンズのポケット内から鳴った様であった。


 グレープジュースがさっきまで入っていたペットボトルを片手に持っていたレイは、その空のペットボトルを一時的に床に置き、ジーンズポケットから白いシリコンカバーがはめられたスマートフォンを取り出し、画面を少し触って通知を確認してからすぐ隣にいるあまねに伝える。


「兄さんから連絡だ。ごめんあまねちゃん、ボクちょっと兄さんと電話してくる。しばらく建物の外に出てくから、その辺で待っていて」


 そんなことを言って、レイはスマートフォンと床に置いてあった空になったペットボトルを持ちつつ長椅子から立ち上がり、その様子を隣に座っているあまねが見上げる。


 ――レイくん、スマートで、背がスラリと高くて格好いいなぁ。


 立ち上がったレイの身長は170センチメートル台の半ば、175センチメートルくらい。肩幅は広くなく、スラリとした細身な体にフードを後ろに垂らしたやや大きめなグレーのパーカーを着こなしており、その容姿ようし端麗たんれいな顔だちも相まって、ファッション雑誌によく写真が掲載されている著名な読者モデルだとしても何もおかしくないような風貌であった。


 レイはあまねに背中を見せて、持っていた空のペットボトルを行儀よくゴミ箱に入れ、そして手にしたスマートフォンを顔の近くに構えつつゲーム音の喧騒鳴り響くゲームセンターの建物外に、履いている赤いスニーカーをフロアにキュッキュッと鳴らしつつ自動ドアを抜けて歩いていく。


 その様子を目で追いつつ、あまねは少し考える。


 ――もし、ここから僕がいきなりいなくなったとしたら。


 ――レイくんにとって僕はずっと。


 ――下の名前を知ってるだけの正体不明な女の子、で終わるのかな。


 そんなことを心中で思いつつあまねは脇に置いていたポシェットの紐を肩にかけて長椅子から立ち上がり、艶のある長い黒髪と身に纏った白と黒の色調のロングスカートゴスロリ服を揺らし、その少しだけ厚底なローファー靴を履いた足でゲームセンターの光沢ある床を踏みしめる。


 そして、そのフリルの付いた少女趣味的な布に覆われた細い腕を掲げ、小さなこぶしを弱々しく握り締めて心の中で強く決意する。


 ――よし! 決めた! 逃げちゃおう!


 ――レイくんにぼくの正体がバレて、嫌われたり気持ち悪がられたりするの怖いし!


 厚底靴を履かなかったとしたら身長が153センチメートルしかない、頼りなく小さな体のあまねはいつもの引っ込み思案な態度に相まって、いつも後ろ向きに前向きであったので、その決断も早かった。


 あまねは、スマートフォンで電話をかけるためにレイがゲームセンターの外に出て行ったのはわかっていたが、出入り口からどれくらい離れたところで、どちらを向いて電話口向こうの相手と話をしているかはわからなかった。


 そこであまねは、出入り口近くの壁で遮られている死角に隠れ、レイが外から戻ってきてゲームセンターの奥の方に歩いていくタイミングでこっそりと気づかれないように自動ドアをくぐり、外に抜け出してそのまま何も言わずに去るという計画を思いつく。


 あまねはその少女趣味的なゴスロリ服を着た手折れそうなほど細い体で、その黒いタイツを履いた細い脚にて普段あまり履きなれてるとはいえない厚底ローファー靴を一歩一歩倒れないように動かし歩いていき、そっと出入り口の自動ドアからは死角になっている物陰に隠れる。


 そして、ポシェットから取り出した自分の黄色いシリコンカバーケースに収まったスマートフォンを操作し、レイからの連絡が一時的に来ないよう機内モードへと切り替える。


 ――ごめんね、レイくん。いきなり裏切ることになっちゃって。


 ――もっと別の場所で、別の形で出会っていれば、もっと違う関係になれたかもしれないのは残念だけど。


 物陰に隠れたままあまねは、ほんの一週間前に出会った少年に対して心の中でそんな謝罪をする。


 それと同時にあまねの心の中に、数日前に自宅で交わした、いつもあまねを気遣ってくれる大学生の優しい利発な姉、利愛りあの言葉が思い起こされる。


 ――まーちゃん、せっかく友達になりたいって言ってくれてるならその心意気には報いるべきなんじゃない?――


 ――それに、鳥神とりかみ教授の一人息子さんときっちり遊んできたら、結果がどうなってもまた道が拓けるかもしれないし――


 そんな姉の諭してくれたことを心の中で反芻するも、物陰に隠れているあまねの逃げの決意は固かった。


 ――お姉ちゃんが、せっかく僕のためを思って言ってくれても。


 ――ぼくにはそんな、神経の太さも勇気もないよ。


 そんな風に内心で自己憐憫していたあまねではあるが、そこで、先ほどのレイの言葉の中に潜んでいた不思議な違和感を思い出す。


 ――あれ? お姉ちゃんによると、レイくんって鳥神教授っていう大学の先生の一人息子さんって話だったよね?


 ――だったら、レイくんがお兄さん・・・・と電話してくるって、どういうことだったんだろ?


 そんな疑問を抱いたものの、レイが電話を終えたようで自動ドアを潜り抜けてゲームセンターの建物の中に入ってきたので、あまねはすぐさま気持ちを切り替える。


 そして、レイがゆっくりと先ほどあまねがいた場所、すなわち自動販売機コーナー近くの長椅子へと歩いて行ったので、あまねは気持ち抜き足差し足で、足音をなるべく立てないよう静かに出入口となっている自動ドアに近づく。


 ――レイくん、束の間だったけど、僕なんかに好意を寄せてくれて有難う。


 奥の方へ歩いていったレイの後姿を見ながらそんなことを思いつつ、外に手開きのドア、内に自動で開く二重扉になっているうち内側の部分があまねを赤外線センサーで感知し、開き始めたその時であった。


 外側の手開きドアを、小さな人影が勢い良く開け、そして開き切っていない自動ドアに向かって飛び込むように潜り抜けてきた。


 その人影は身長150センチメートル弱くらいとあまねより少しばかり背が低めのカジュアルな私服を着たスタイルのいい少女で、茶色い髪を小さく両脇で結ったショートツインテールの髪型をしていて、右と左のテールヘアーはそれぞれ赤色と青色の布で織られたリボンを結っており、頭には真鍮のような黄金色の金属でできた星形の髪飾りを着けていた。


 その、ショートツインテール女子は自動ドアを強引にすり抜けてゲームセンターの建物内に入ったと思ったら、誰かを探しているように体ごと顔を動かしてあたりを見回す動作をする。


 もちろん、自動ドアのすぐ傍にいたロングスカートゴスロリ服の黒髪ロング美少女の様相であるあまねにも一瞬だけ注意を払ったが、アーモンド形の均整の取れた瞳でジト目を向けただけで、すぐに興味がない素振りで視線をそらした。


 そしてその少女は、ゲームセンターの奥、自動販売機コーナーの方に目をやってから探していた宝物を見つけたような表情になって、片手を挙げて小さな体には不釣り合いな大きな胸を服の下から張り出しつつ、嬉しそうに声を張り上げる。


「レイさーん!! みーっつけたっ!!」


 あまねはその、ゲームセンター特有の騒音を物ともしない少女の甲高い大声が建物内に響いたことで、自分の当初画した逃走計画が完膚なきまでに失敗したことを理解せざるをえなかった。


 自動販売機コーナー近くで、おそらくあまねを探していたレイは入口近くに向かって振り返り、あまねとその隣にいる少女に気づき、気まずそうな顔を見せてから二人の元へ歩き始める。


 先ほど高調子の声をゲームセンター内に響かせたショートツインテ少女は、今度は両手を挙げて何回もジャンプし、その小さな体には似合わないグラマラスで魅力的な上半身の膨らみを、着ているトップスごと柔らかそうにゆっさゆっさと何度も揺らしながら存在をアピールしていた。


 そしてあまねは、この状況をある程度客観的に分析していた。


 ――あれ? もしかしてこの状況って……修羅場?


 ――この女の子、レイくんの彼女とかだったら……一緒にデートしてた僕の立場まずいよね? 浮気になるだろし。


 ――あ、でもそしたら遊ばれて傷ついた振りして、堂々と逃げられるかも。


 そして、あまねにはレイに教えていない、お菓子作りのほかにもうひとつの特技があり、そちらの特技を活かした方の作戦に急遽切り替えることにした。


 頬を指で軽く掻いて愛想笑いをしつつ近寄ってきたレイが、すぐ隣にショートツインテール少女がいる状況のあまねに、申し訳なさそうな声をかける。


「えっと……あまねちゃん。これはね、なんといっていいか……。まず、説明させてくれるかな?」


 そこで、その青色と赤色のリボンで髪を結って頭に星形のヘアアクセサリーを着けたショートツインテの女子が、すぐ隣にいるロングスカートゴスロリ服の少女の格好をしているあまねに注意を払い、ピンときたような顔を見せる。


 そして低身長な少女が、長身のレイに対していきなりその豊満な胸の膨らみをむにゅっと押し付けつつ抱き着き、頭1つ分は身長差のあるその顔を見上げて、長年連れ添った古女房が文句を言うような口調で話しかける。


「ちょっとぉー。もしかしてレイさん、何も知らない幼気いたいけな女の子とデートしてたとか?」


「いや、まああまねちゃんに本当のことを何も教えなかったのはその通りなんだけど……ちょっと言い出すタイミングを失って……。つい、ね」


 そんな風に、少女に抱き着かれたレイが振り払う様子も見せず、気まずそうに頬を指で触って弁明していると、ワックスの効果で光沢が浮き出たゲームセンターの床に、キラリと光を反射しながら涙の粒が音もなくポトリと落ちた。


「ひ……ひどいです、レイくんにはこんな可愛い彼女さんがいたなんて……ぼくをからかってたんですね?」


 そんなことを女の子らしいか細い声で言う、黒髪ロング美少女にしか見えないあまねの目頭からは、涙が一粒、また一粒と落ちて頬を濡らしていた。


――涙を自在に流すこと。それがあまねのもう一つの特技であった――


 そして、口元を両手で抑えたあまねは嗚咽する振りをしようと顔を下に向ける。


 するとレイは、あまねの流した女の子としての哀しみの涙を見て、悲しそうな眼差しを見せて、目の前の小さな存在を傷つけないようにと可能な限り優しい口調で伝える。


「えっと……そんな風に泣かないでよ。ボクにとってのミホシちゃんは、彼女とかそういうんじゃあないし。とはいっても、結果的にあまねちゃんのこと騙してデートする形になっちゃったのは完全にボクが悪いから、改めて心を込めて謝るよ。ごめんね」


 レイが心底申し訳なさそうな声色でそんなことを言うも、あまねの心の底で立てた計画の達成は目前であった。


 ――よし、後は嘘泣きしながら振り向いてドアを抜けて、ここから一目散に逃げるだけ。


「ぼ……ぼくもう、帰らせてもらいます。レイくん、今日は付き合ってくれて有難うございました」


 そうあまねが涙声で伝えて、この場から離脱しようと踵を返す直前、ミホシと呼ばれた目前の少女がレイに抱き着きながら、あまねの方を向いて得意げな顔になって言い返す。


「そうそう! レイお姉さまとワタシとはね、昨日今日知り合った女の子なんかが付け入る隙のないくらい強い絆で結ばれているの! さっさと泣きながら尻尾巻いて逃げ帰りなさい!」


 ――え?


 白いヘッドドレスを取り付けたあまねの頭の中は、一瞬だけ真っ白になる。


 あまねはゆっくり顔を上げ、目の前でレイに抱き着いてるミホシと呼ばれた少女に、ただでさえ大きな瞳をさらに目を丸くした感じで尋ねかける。嘘で流した涙は既に乾いていた。


「あの……いま何て?」


 すると、ミホシと呼ばれた少女が威勢よく呼応する。


「だーかーらー、さっさと泣きながら尻尾巻いて逃げ帰りなさいって言ったの!」


「いや、そこじゃなくって、その少し前……。レイお姉さま・・・・って言ったように聞こえたんだけど」


 黒髪ロング美少女のような外見をした、ロングスカートゴシックロリータ姿のあまねが少しばかり素に戻った口調で尋ねかけると、少年っぽいグレーのパーカーを着たレイは気まずそうに中性的な声で告げる。


「えーっと……本当に勘違いさせてごめんね、あまねちゃん。最初は騙すつもりはなかったんだけど、つい……。実はボク、こんな男の子のような紛らわしい格好してるけど、正真正銘の女の子なんだ」


 その、スラリと背が伸びた美少年にしか見えないレイの告白に、一瞬だけあまねの頭はまたもやフリーズする。


 そして、一拍おいてからあまねは、先ほどまで小声で引っ込み思案に会話していた状況にあったことなど嘘のように、その少女らしい甲高い声で絶叫した。


「え……ええ――――――っ!!!?」


 ゲーム筐体の音が鳴り響くゲームセンターに、騒音に負けないくらいのあまねのボーイソプラノな叫声が響き渡る。


 伊原あまね、この瞳の大きな黒髪ロングの美少女にしか見えない、白と黒のモノトーン調のゴスロリファッションに身を包んだ中学生は――


 一見して女の子にしか見えない、女装した少年。いわゆるおとこであった。


 しかしその事実をまだ、目の前の二人の少女、鳥神とりかみれい早乙女さおとめ海星みほしは知る由もなかった。


 ◇


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