――ゲームセンターでのデートから、遡ること一週間――
11月の初頭、秋の天高く晴れ渡る空が爽快な日曜日の午前中。
新宿駅から中央線に沿って数駅だけ西へと離れたところ、ある駅前にあるロータリー近くの歩道に沿って、白いファミリータイプのミニバンがゆっくりと停車した。
ミニバンの後部座席の窓には、内部から黒いプライバシーカーテンがかけられており、その中の様子を知ることはできなかった。
今、後部座席のスライドドアがゆっくりと開き、そのミニバン乗用車の中から白と黒の色を基調としたロングスカートゴスロリ服を着た、長い艶やかな黒髪に白いヘッドドレスを着けた大きな瞳の美少女がポシェット紐を肩にかけつつ降りてくる。そして、ドアが閉まらないうちに後ろに振り返りおどおどした顔で、運転席に座っている齢を感じさせない綺麗な女性に悲痛な声で願いを訴えかける。
「ねえ、お母さん? やっぱり、いつもみたいに
そう、震え気味の高い声で訴える小さな美少女の様相を見せた我が子に対して、運転席に座っている長身でスタイルの良い美人な母親は笑顔のまま気兼ねなく返す。
「だーめ。これはね、
「う、うう……わかりました」
「それから、その格好してる時の一人称は『
「は……はい。それじゃあ……ぼ……
「いってらっしゃい、
運転席に座っている
中学校では普段は乱視矯正の入った度が強い眼鏡をかけており、常日頃同学年の誰かと遊ぶこともなく、休み時間の教室では自分の席にていつも一人でスマートフォンゲームをしているような日常を送っている。
しかし、若いころにお台場での年2回の祭典にてカリスマコスプレイヤーとしての評判を博していた彼の母親は、この一見冴えない一人息子が、
ここしばらくの間、齢を感じさせない美魔女な母親は
そして、
女装して母親と一緒に隣町のショッピングモールへと車で訪れ、喫茶店にて仲のいい母と娘のように一緒に女性向けのパフェを注文してその甘さを味わっていたときには、
しかし
ロータリーのすぐ近くにある、一般車道沿いの歩道に降り立った遍は、そのモノトーン色調のゴスロリ服を微かに揺らして、パッドで可憐な少女らしく小さく膨らませた胸の奥で大きく深呼吸する。
そして、もう一呼吸おいてから意を決して前に進むことを決意し、顔を上げる。
――でもここまできたら、行くしかないよね。どうせ知り合いになんか会わないだろし!
そう思いつつ前へと進むことにして顔を上げた
駅構内に入るためには必ず前を通らなければいけない入り口近くにて、中学校の同級生ら、サッカー部に所属する体のでかい男子が数人たむろしているのが視界に入ったのである。
――お母さん! やっぱり今日は中止! 帰らせて!
泣きたいような気持になりつつ
もう家に母親の運転する車に乗って引き返すことはできない、という事実に
ドクン ドクン
そんな心臓の音が聞こえてきそうな緊張感の中で、駅の反対側に歩いていったらもうバス停にも戻れなくなり、更に不自然になることを悟った
カツ カツ カツ
母親に教えられた、可憐な少女らしい歩き方を必死に思い出しながらその素振りを演じつつ、
少女趣味的なゴスロリ服を着た
その際に
そして、男子らのいる場所を通り過ぎて駅の入り口に到達し、
ゴスロリ少女の姿をした
――駄目だー! あれ、クラスの男子たちに確実に
――休み明けから、もう学校いけない! クラスですぐに噂広められて
そんな
「なー、さっきのゴスロリ服着たの見た?」
「見た見た!」
――ああー! 馬鹿にされてるー!
そう
「あの
「モデルとか芸能人とかじゃね!? クラスの女子とレベルがダンチ!」
「俺、追いかけてナンパしてこよっかなー!?」
「おめーじゃムリムリ! 身の程弁えろっての!」
――え? バレてない!?
自分の正体が一切バレなかったことに、ひとまず安堵した
駅構内を歩いていると、あるところで一面がガラスで装飾された壁の中にいる女の子の存在に、
その人影とは、黒と白を基調としたゴスロリ服を身に
その女性の服装を身に着けた容姿の整った美少女の姿をしばらくの間見つめていた
――本当にいまの
母親から女装姿を可愛い可愛いとこれまで繰り返し言われてはいたものの、母親が我が子のことを可愛い、と表現するのは当たり前といえば当たり前のことなので、
だが、いま駅構内の大きな鏡に映った
少し自信ができた