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閑話・ハンバーグをみんなで

「はっ……」


 気づくとベッドの上で剣を抜いたままの体勢だった。

 ルビウスと話したことは覚えているけれどなぜか不思議な夢でも見たような気分であった。


「なんか……ちょっと疲れたな」


 ルビウスとの会話による精神的な疲労か、それともルビウスの精神世界に呼ばれたことで何か影響があるのか知らないけれどちょっとした疲労がある。


「トモナリ、ハンバーグだぞ!」


 見るとテーブルの上にハンバーグやご飯が乗った皿が運ばれていた。

 トモナリがルビウスと話している間にヒカリが運んでくれていたのだ。


「ヌヘヘ……」


 やはりヒカリは優秀だとトモナリはヒカリの頭を撫でるとヒカリは嬉しそうに笑う。


『それはなんだ!』


「あっ?」


「えっ? どうしたのだ?」


「……ルビウスだ」


 急に頭の中で声が聞こえてトモナリは驚いた。

 ルビウスの声だと分かるのだが多少大声だったのでびっくりしてしまったのである。


『それはなんなのだと聞いているのだ』


「それ? ハンバーグだよ」


『はんばーぐ? 美味そうだな』


「美味いもんだよ」


『食べたい!』


「食べたい?」


 剣のくせに何をいっているんだとトモナリは顔をしかめる。

 剣がどうやってハンバーグを食べるのか。


「お前食えやしないだろ」


『召喚してくれ!』


「…………召喚?」


『契約するとはただ繋がるだけではない。互いにその存在を呼び出すこともできるのだ。妾のこともトモナリが望むなら呼び出すことができる』


「そうなのか?」


『知らんのか?』


「知らん」


 初めて聞いたとトモナリは思った。

 魂の契約の説明にそんなことは書かれていなかった。


 もしかしたら相互作用があるなんて言葉に無理矢理集約されていたのかもしれない。


『妾のことを呼び出そうと意識すればいい』


「……やってみよう」


 ついでだしルビウスの召喚を試してみることにした。

 目を閉じてルビウスの姿を思い起こしながら呼び出そうと試みる。


 最初は変化がなかったのだけど意識をルビウスの剣に向けてみると剣から赤い光が飛び出してきた。


「おっ……おっ?」


「……な、なんだこれはー!」


 ルビウスの言う通りルビウスを召喚することができた。

 けれど大きな問題が一つ。


「な、なんと言うことだ……高貴な妾の姿が……」


 落ち込んでベッドに横たわるルビウスはドラゴンの姿だった。

 ただしルビウスは自分がちんちくりんなどと言っていたヒカリと同じようなミニ竜姿なのであった。


 トモナリとしては可愛いからいいじゃないかと思うのだけどルビウスはショックを受けていた。


「ええい! どれもこれもお主が……ぶえっ!」


「トモナリに近づくな!」


 トモナリにかかっていこうとしたルビウスにヒカリの蹴りが炸裂した。


「何をする! このちんちくりん!」


「なんだと! お前も変わらないだろ!」


 巨大な竜の姿のルビウスなら敵わないだろうけど、今はどちらもちっちゃい竜の姿である。

 回帰前の記憶にもある巨大な竜の姿で争ったならアカデミーが消し飛んでいただろうけど、今の姿ならベッドの上で争っても壊れるものはない。


 いや、ちょっと枕が危ないかもしれない。


「うにー!」


「このー!」


 互いに口を引っ張り合うレベルの低いケンカを繰り広げている。


「こらこら、やめろ!」


 特進クラス用の寮は一部屋が大きく壁は厚めになっている。

 だからといって夜にバタバタと暴れていいわけではない。


 トモナリがヒカリとルビウスを引っ掴んで引き剥がす。


「そもそもお主が悪い!」


 一瞬見た真っ赤で美しさすら感じさせるドラゴンの姿はなんだったのかと思うほど短い前足をビシッと伸ばしてトモナリに向ける。


「俺が?」


「お主の力が足りないから契約している妾もこんなになってしまったのだ!」


「……んなこと言ったってな」


 そもそもトモナリはまだレベルが二桁にすら達していない。

 力不足なんて言われても仕方ないのである。


「くぅ……こんなのは予想外だ」


 ルビウスはしょんぼりと項垂れる。

 まさかちんちくりんなどと馬鹿にしていた姿になるなんて思いもしなかった。


「まあそういうなよ。可愛いぞ」


 トモナリはヒカリを下ろしてルビウスの頭を撫で回す。

 同じようなドラゴンの姿ではあるのだけれど意外に触ってみた感触は違っていて面白い。


「なっ、触っ……まあ悪くないな……」


「ずるいぞ!」


 一瞬触られることを拒否しようとしたルビウスだったが思いの外に撫でられるのも悪くなくて大人しく受け入れた。

 嫉妬したようなヒカリがトモナリの体にしがみつく。


「はいはい」


 今度はヒカリのことを撫でてやる。


「ハンバーグ冷めちゃうから食べんぞ」


「あっ、忘れてたのだ」


「ふむ、仕方ない」


 ちび竜二匹とトモナリは席に着く。


「僕のだぞ!」


「まあまあ、ちょっとあげなよ」


「そうだ、これからお前に色々教えてやるのだから少しぐらいいいだろ」


 当然のことながらルビウスの分のハンバーグなんて頼んでいない。

 だからヒカリの分を一つルビウスに分けてあげる。


 ヒカリはだいぶ不満そうであるが今からまたハンバーグを頼んで持ってきてもらうのも申し訳ないので今日は我慢してもらう。


「ぶぅ〜」


「明日はもっと食べよう」


「……しょうがないのだ」


 トモナリに撫でられてなんとかヒカリの機嫌も持ち直す。


「ウッマッ!」


 ルビウスはハンバーグを一口食べて目を輝かせている。


「なんだこれは! こんなもの食べたことないぞ!」


 アカデミーの食堂のレベルは非常に高い。

 ハンバーグも肉肉しくルビウスも一口で気に入ってしまった。


「もう一個……」


「あ、あげないぞ!」


 あっという間にハンバーグを食べ尽くしてしまったルビウスはヒカリが食べているハンバーグを穴が空くほど見つめる。


「……はぁ、まだギリギリ時間あるし頼むから」


 このままではまたケンカになってしまう。

 トモナリは仕方なくまたハンバーグを注文したのだった。

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