再びバスでアカデミーから遠征する。
ほとんど丸一日ほどバスで移動したところにゲートが発生していた。
今回はそこでモンスターを倒してレベルアップを図ることになっていた。
「んー! 流石にバスの中で一日中座ってると体辛いな」
バスから降りたユウトがグッと体を伸ばす。
途中に泊まれるところもなく、授業などのスケジュールもあるので夜もバスで走り通しだった。
滅びる前の世界ではより過酷な環境で寝ていたこともあるトモナリはバスの座席ぐらい良い方だと思う。
ただ生徒たちにとってバスで寝るなんてなかなか経験がなく、大変だったようである。
「改めて今回の遠征について確認するぞ」
生徒たちが思い思いに体を伸ばしている中でイリヤマがゲートの攻略について説明する。
「今回はスイセンギルドにご協力いただくことになっている。ゲートの中はダンジョン型となっていて道が複数あるのでスイセンギルドに同行してもらいながら二班一組となって二組ずつ入っていくことにする」
ゲートの中にも色々と種類がある。
フィールド型と呼ばれるダンジョンは前回入ったゲートのようにある程度の広さを持った一定の環境があってモンスターがその中に点在している。
ダンジョン型とはいくつかの部屋に分かれている形をしたダンジョンで部屋や部屋を繋ぐ通路にモンスターがいる。
フィールド型では攻略だけしたいなら他のモンスターを避けてボスを狙うことができるけれど、ダンジョン型ではモンスターとの戦闘を避けることはほとんどできない。
レベルアップをしたいというのならモンスターを探し回らなくてもいいダンジョン型のゲートは好都合である。
「ボスは攻略せず、その手前までで終わりだ。モンスターはブルーホーンカウというモンスターで、攻撃は突撃してきてツノで突いてくるという行動を多用する。もちろんそれ以外の行動もとるので気をつけるように」
今回の攻略は一般の覚醒者ギルドと共同で行う。
生徒に同行してもらい安全確保などを手伝ってもらう代わりに倒したモンスターの素材などはギルドの方が引き取る条件になっている。
「まずは1班と5班、2班と6班でゲートに入ってもらう」
装備を身につけて呼ばれた班の生徒たちがスイセンギルドの覚醒者と一緒にゲートに入っていく。
「おい、トモナリ!」
「なんだよ?」
「そのちょーかっこいい剣どうしたんだよ!」
ユウトはトモナリが腰に差している赤い剣を指差した。
「ああ、ルビウスのことか」
「ルビウス!? なんだよ、それ! いつの間にそんなもん手に入れたんだよ?」
赤い剣とはもちろんルビウスが宿った剣のことである。
今回はゲートに入る実戦であるし、剣の性能を確かめたかったので持ってきたのである。
剣に新しく名前を付けるのも変なのでルビウスの名前のまま剣の名前もそう呼ぶことにした。
ユウトは目をキラキラとさせてルビウスのことを見ている。
言われてみれば赤い剣なんて男子心を刺激する。
それにまだまだ自分用装備を持っている生徒も少ないので赤い剣を持っていたら余計に目立つのも仕方ない。
「おじいちゃんから刀もらうんじゃないの?」
羨ましい。
そんな風に目を細めながらミズキもルビウスを見ている。
ただトモナリは刀をもらうのだとミズキはテッサイからチラリと聞いていた。
「もらえるのか?」
「……これ言っちゃいけなかった?」
未だにトモナリは神切をもらえるかどうかテッサイから聞いていない。
力をつけて認めたらくれてやるとテッサイはトモナリに言っていた。
アカデミーに入る前もまだまだだ、なんて言われたことをトモナリは覚えている。
本当にくれる気があるのかと疑ってすらしまうぐらいだったけれど、くれるつもりはあったようである。
「師匠もツンデレだな」
「人のおじいちゃん捕まえてツンデレって言わないで」
「孫のお前には激甘だったからな」
トモナリがミズキに連勝していると上手く負けてやれなんて言う人だった。
他の門下生にも厳しいことでも有名だったのにミズキに対してはデレデレとしたおじいちゃんになってしまう。
「トモナリ君にも優しかったよ?」
「どーだか」
結構厳しく指導されていたような記憶しかない。
おかげで短期間で強くなったので文句はないけれどミズキに対する態度とは全然違っていた。
「きっとおじいちゃんが聞いたら拗ねるよ」
「それは怖いな」
いい歳した人がそんなことで拗ねていたら怖い。
「ほんと、トモナリ君は色々と驚かせてくれるよね」
「そう言いながらもコウだって支給された武器じゃないだろ?」
「うん、これは姉さんにもらったんだ」
コウが持っている武器もアカデミーから支給されているものではなく自分用の装備であった。
魔法使いであるコウの武器は杖である。
短めのワンド、大きなスタッフ、その中間に当たるロッドと杖にもさまざまな種類がある。
コウが使っているのは三十センチほどの大きさのワンドと呼ばれる分類の杖で、黒い本体の先端に青い大きな石がつけられている。
安い杖の類ではないことは確実だ。
ミクが用意したのならきっといいものなのだろうなとトモナリは思った。