「姉さんに愛されてるんだな」
「や、やめろよ……まあ……可愛がってはくれてるけど」
いつもクールな無表情のミクであるがコウを見る目は優しいとトモナリは気づいていた。
コウは恥ずかしそうに頬を赤らめるけれど実際ミクがコウに対して良くしてくれていることは感じていた。
トモナリには兄弟はいないのでどんな感じなのか完全には分からないけれど良い関係性だとは思う。
「それでは残ったみんなで休憩用のテントを張るぞ」
ゲートの中から戻ってきたイリヤマが次の指示を出す。
ゲートに入らないからと言ってただ暇を持て余していていいというわけではない。
実際のゲートでも1日で終わらず継続的に攻略を続ける場合がある。
そうした時に近くに町があるなら泊まりに戻ることもあるのだけど、そうでない場合はテントなどで対応することもある。
アカデミーではモンスターを倒してレベル上げするだけではない。
こうしたゲート攻略周りでの技能についても教えてくれるのだ。
回帰前でもテントすら立てられない奴がいたなとトモナリは思い出して目を細めていた。
「クドウ、そっち支ててくれ」
「分かった」
各班に分かれてテントを立てる。
8班はトモナリが中心になって手際よくテント設営を進めていた。
「ヒカリ、それとってくれ」
「ほーい」
ヒカリも手伝ってくれて8班は中でも素早くテントを立てることができた。
「うむ、早かったな」
「学長」
「見ていたぞ。良い手際だった」
「ありがとうございます」
今回の遠征にはマサヨシも同行していた。
他の班は勝手が分からずに苦労しているのにトモナリはまるでやったことがあるかのようにテントを立ててしまった。
「キャンプなんか経験があるのか?」
「ないですよ。テント立てたのも初めてです」
ただし今回はという言葉がつく。
回帰前はテントぐらいよく立てたものだ。
本当の最後らへんではテントすら立てることもなかったけれどそれなりには設営の経験がある。
「だとしたらテントを立てる天才だな」
「あんまり嬉しくないですね」
トモナリとマサヨシはにこやかに会話する。
ミズキたち他の子はマサヨシに少し緊張したような様子であった。
「例のアレ、試験段階に入ったそうだ」
「早いですね」
「オウルグループが興味を持ってくれてな」
「フクロウ先輩がですか?」
「彼女の口添えがあったかは知らないが……その可能性もある。もしかしたら将来的に商品化するのにお前さんに話があるかもしれない」
「俺になんの話が……」
「アイデアの元はお前さんだ。人の考えだろうと平気で奪ってしまう会社もあるがオウルグループはそうではない。特に俺を介しての話であるしな。ほぼ原案通りに制作は進んでいる。不要な問題を避けるためにもお前さんに話をしておくのが筋というものだ」
「なかなか面倒ですね」
「世の中そんなものだ」
マサヨシは軽く笑ってみせる。
「剣の調子はどうだ? 変わったことはないか?」
マサヨシがトモナリの腰に差してあるルビウスに目を向ける。
誰にも持つことを許さなかった燃える剣がトモナリ相手では大人しくしている。
燃えだしてすぐに手を離し生き残った人に話を聞いてみたところ頭の中で聞いたこともない言葉が聞こえて、次の瞬間には剣を持つ手が燃えていたのだという。
剣を持ってぼんやりとした様子を見せたということは剣から何かの反応があったのだろうとマサヨシは考えていた
けれどトモナリの身には何も起きていない。
「変わったこと……どころじゃないことがありました」
「ほぅ?」
トモナリがニヤリと笑ってみせる。
何か良いことがあったようだとトモナリの顔を見れば分かる。
「今度教えてあげますよ」
「ふふ、ぜひとも聞かせてほしいな」
今すぐではないということはそれなりのことなのだろう。
トモナリがどのような奇縁を手に入れたのかマサヨシは楽しみであった。
「他のみんなもよくやっているようだな。8班には特に期待している。頑張ってくれたまえよ」
みんなにも一言かけるとマサヨシはゲートの中に入っていった。
「8班、なーんていうけどトモナリ君だよね」
「そうだね。トモナリ君凄いから」
学長とあんなに仲良く話せる生徒などいない。
トモナリがいるから8班に注目しているのだろうとミズキとサーシャは話している。
「お弁当が到着した。早めにお昼にするぞ」
他の班も苦労しながらテントを立てた。
近くの町まで昼食を買いに行っていたバスが戻ってきてお弁当でお昼にすることになった。
攻略によっては自分たちで食事を作ることもある。
最近のキャンプ用品は優秀なのでそうしたものを活用して作ったり、覚醒者の中にはキャンピングカーなんてもので来て調理や休憩をすることもあった。
便利だからキャンピングカー欲しいなんてトモナリも思ったことはある。
「おっべんとぉ〜おっべんとぉ〜」
ちゃんとヒカリの分もお弁当が用意してあった。
しかも二つ。
トモナリはマサヨシが注目しているのはトモナリではなくヒカリなのではないかと思ったりもした。
自分で設営したテントの中でお弁当をいただく。
「ニンジン苦手、ヒカリちゃん食べる?」
「あーん」
「はい、ありがとう」
「むふふ、任せるのだ」
サーシャが自身の苦手なニンジンをヒカリに食べさせる。
ヒカリは基本的に好き嫌いなくなんでも食べるし互いにウィンウィンな取引である。
小うるさくニンジン食べなさいなんてトモナリも言わない。