「どうしてこのようなことを?」
「目立ちたくはない。けれど未来が判るのにただ放ってもおけないでしょう?」
「もっとやり方もあったでしょう」
「ヒカリの能力は覚醒者のように見せることはできないので証明もできません。ヒカリのこともあまり表に出したくなかったですし……」
「なるほど……ひとまず方法は置いておくとしてそちらのドラゴン……ヒカリというのが未来を見ることができるのですか?」
「そうですが……自在に見れるものでもありません」
「と言いますと?」
「ヒカリが意図して未来を見ているのではなく時々断片的に未来が見えるそうなんです」
ヒカリの能力ではなくトモナリの記憶によるものなので覚えていないことも多く間違いがあったりもする。
トモナリが介入することによって変わってしまうこともあるかもしれない。
予言が間違っていると言われても困るので保険をかけた言い方をしておく。
「そのようなことが……」
実際細かく精査していくと預言者の書き込みでちょっとだけ違っていることもあった。
断片的で確実な情報ばかりでないのなら納得だとシノザキも思った。
「それに……きてくださってよかったです」
「それはどうしてですか?」
「No.10」
トモナリの言葉にシノザキがピクンと反応した。
「中国は失敗します」
「……なぜそれを?」
「重要なのはそこじゃないでしょう?」
「……失敗するというのは本当ですか?」
「……未来は確実じゃありません。どんなものを見たとしても変わる可能性はあります。ですが失敗する可能性は高いでしょうね」
「No.10とは十個目の試練ゲートのことか」
人類は99個の試練ゲートをクリアせねば滅亡する。
世界各地に試練ゲートは出現していて現在30個まで出現していて多くがクリアされている。
一方でクリアされていない試練ゲートもあった。
日本には一つクリアされていない試練ゲートがある。
それが通称No.10と呼ばれるゲートである。
名前は単純なことで世界で十個目に出現した試練ゲートなのだ。
No.10は覚醒者協会としては頭の痛い問題となっている。
もうすでに30個も試練ゲートが出ているということはNo.10はかなり前に出た試練ゲートなのである。
それなのに攻略されていない。
全人類で攻略すべき試練ゲートを攻略できていないことは恥ずべきことだと感じているのだ。
ただ日本の覚醒者協会も試練ゲートを放置しているのではなく、何度も攻略に挑んでいる。
加えて他の国の覚醒者でも攻略したい人がいれば費用を負担して攻略に挑んでもらったりしていた。
それでも攻略は失敗した。
しばらく攻略は及び腰になっていたのだけどつい先日、中国がNo.10を攻略することが決まった。
ただしまだ中国の攻略も公表はされていないのでシノザキは驚いた。
「……しかしどうしようもない」
シノザキは深いため息をついた。
仮に失敗するとしてどうしたらいい。
失敗するので攻略はやめておきましょうなんて他国の覚醒者に言えるはずがない。
「まあ俺が言いたいのはそこじゃないです」
「なんだと?」
まだ何かあるのかとシノザキは思わず怪訝そうな顔をしてしまう。
「そんな顔しなくてもいいですよ。No.10、俺が攻略してあげましょうか?」
「はっ……?」
今度はシノザキの顔に驚きが広がる。
トモナリが切り出したかった話はこれだった。
「アイゼン君……それは流石に」
マサヨシですら困惑を隠せない。
「No.10がどんなゲートが知っているのですか?」
「知っていますよ。別名ワンスキルゲートですよね」
なぜNo.10が攻略されないのか。
それはNo.10の入場制限や人数制限のためであった。
「攻略人数十人以下、入場制限レベル19以下ですもんね」
No.10は入るための条件がやや特殊なものとなる。
人数制限が少ないということはあり得るし、入場制限としてレベルの上限があるゲートも少なくない。
しかし試練ゲートは難易度が高いものであり、そこに低いレベルでの制限をかけられているゲートはこれまでなかったのである。
レベル19以下ということは第二のスキルスロットが解放される前のレベルということになる。
最初のスキルのみで挑むことになるゲートということでNo.10はワンスキルゲートなんて呼び方もされているのだ。
低レベル、少人数、スキルは一つだけ。
このせいで未だにNo.10は攻略されないのである。
「……本気で挑むつもりですか?」
「未来予知でゲートを攻略するための秘密を俺は知ったんです」
「ならばそれを中国に……」
「中国はもう手遅れです」
「まだ攻略もしていないんだぞ?」
「ゲートに入る前からもうすでに攻略は始まっているんですよ」
「……一度話を持ち帰らせてもらって、改めて場を設けさせてもらってもいいかな?」
これはより上の判断が必要となる。
シノザキは渋い顔をして考え込んだ後に改めて話し合いの機会を設けるように提案した。
「いいですよ。俺もテスト勉強あるんで」
トモナリは爽やかにニコリと笑った。
この分なら上手くいきそうだ。
わざわざネットで目立つように書き込んだ甲斐があったものだと内心でガッツポーズしたい気分であった。