「終わった〜そして……終わった…………」
一度グーッと体を伸ばしたユウトは机に突っ伏した。
「問七あれどうだった?」
「んと……四にした」
「あー……やっぱりかぁ」
ミズキがうなだれる。
「なんでもないけど疲れるもんは疲れるな」
「お疲れ様なのだ、トモナリ」
今は中間考査、つまりはテストが終わったところだった。
「にしてもずるいよなー」
「何が?」
「テストの直前になってあんなこと言うなんて」
「前々から言っててもお前は変わらないだろ?」
「うっ、それは言うなよ……」
テスト前にあることがイリヤマから告げられた。
それはテストの成績で優秀なものには霊薬が与えられるというものだった。
テスト数日前なんかに言わないでもっと早く言ってくれていたらもうちょっと勉強にやる気出したのにとユウトはボヤく。
一部やる気を出した生徒はいたけれど、ユウトの場合最初から知っていても何も変わらなかったとトモナリは思う。
ちなみにトモナリもやる気を出した方の一人である。
テストを乗り越えたみんなの様子はそれぞれ。
ユウトのようにテストで玉砕して落ち込んでいる人もいるけれど教室全体の雰囲気は比較的明るい。
「まあ後ちょっとで夏休みだから忘れよう!」
雰囲気が明るい理由は夏休みが近いから。
中間考査が終われば次に待ち受けているのは夏休みなのでみんなテストの結果を心配するよりもそちらが楽しみなのである。
「なーあー?」
「なんだよ?」
「夏休み、家に帰るのか?」
「ああ、帰るつもりだよ」
夏休みの間どうするかは生徒たちに任されている。
帰省する人もいれば寮に留まる人も一定数存在している。
トレーニングすることを考えれば夏休みで人の少なくなるアカデミーは絶好の場所である。
しかし今回は母親であるゆかりのこともちゃんと大切にするんだと心に決めているので帰省するつもりだ。
「お前ん家ってどこか聞いてもいいか?」
「ああいいけど」
トモナリが家の住所を教えてやるとユウトはすぐさまスマホを取り出してトモナリの家の位置を調べ始めた。
何してるんだと思いながらトモナリはスマホの画面を覗き込む。
「へぇ……お前ん家からなら海にも行けそうだな」
「まあ、行けないこともないな」
海側の家というわけでないけれど電車に乗って行けば海水浴ができる海に行くこともできるところではあった。
「俺ん家はさぁ……海近くにないんだよぅ」
「……そうか」
なんだか嫌な予感がするなとトモナリは思った。
「夏ならさぁ、海、行きたいじゃん?」
「言いたいことあるならはっきり言え」
「お前ん家、泊まってもいい?」
「……それは」
「私も泊まりたい」
「おい、クドウ……」
「私も!」
「お前の家は歩いて行けんだろ!」
トモナリとユウトの話に聞き耳を立てていたサーシャとミズキも会話に入ってくる。
せっかく同じ班にもなったのだし夏休み遊びに行きたいなんてことを話していた。
ユウトの家は海が近くになく、行こうと思うと泊まりがけになってしまう。
対してトモナリの家は日帰りで海にも行けるところにあった。
ちなみにサーシャの家も海は近くないらしい。
なのでトモナリの家に泊まらせてもらえば海に行けるのではないかとユウトは考えた。
「別に布団とかなくてもいいしさ! なっ!」
「ミズキの家にしろよ。あっちならデカいし」
手を合わせてお願いするユウトにトモナリは困った顔をする。
遊びに来るぐらいならなんとかなるかもしれないけれど泊まりに来るとなると少しハードルが高い。
別に広い家でもないしゆかりの負担を考えると抵抗があった。
「うーん、まあそっちの方がいいかもね」
お願いポーズのままユウトがミズキの方を見る。
ミズキの家は大きい。
道場部分だけでなく普通の家のところもしっかり立派なのである。
ミズキも自分の家ならばいいかもしれないとは思う。
「まあまずはスケジュールを決めた方がいい」
「お前も来るつもりか?」
「僕だけ仲間外れにするのはダメだよ」
コウも近くにいることは分かっていた。
こうしたことには興味なさそうなクールな感じ出しておいてコウも行く気満々なのであった。
どこに泊まるにしてもスケジュールが分からないと泊めてほしいとお願いもできない。
先に予定をある程度決めてしまうのがいいだろうとコウは提案した。
「そこから考えるか……」
夏休みも振り返れば短いけれど日数を考えれば割と長い。
どこでどう遊ぶのか今のうちから計画立てておくのがいい。
「ただまずは部活だな」
計画を考えるのはいいけれどもテスト終わりで課外活動部の集まりがあった。
「マコト、行こうぜ」
「あ、うん!」
トモナリたちは教室を出て課外活動部の部室に向かう。
「お前も行くか?」
「え?」
「話聞いてただろ? 夏休みに海に行こうって話だよ」
トモナリはマコトも聞き耳を立てているのを察していた。
どうせならマコトを誘っても悪くはない。
「そういえば家遠いのか?」
「ちょっとね。でも夏休みは帰るつもりないんだ」
「そうなのか?」
「両親は海外にいていないから……」
「なら一緒に遊びに行っても構わないな」
「そ、そうかな」
トモナリが笑顔を向けるとマコトも少し前向きになったようだった。