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免許皆伝2

「あとは好きにせい」


 蔵の鍵を開けてもらった。

 テッサイは鍵をトモナリに預けると腰を叩きながら道場の方に戻って行った。


「相変わらずテッサイは強いのだ〜」


 今でも頭を殴られた時のことを思い出すと頭がムズムズするようだとヒカリは思う。


「覚醒者になってくれたら心強いぐらいなんだけどな」


 覚醒者でもないのに覚醒者を制圧できるほどの強さがある。

 覚醒者になるようなつもりはテッサイにないようだが、覚醒者だったら相当頼もしい存在になっていたことだろう。


「えーと……神切はっと……」


 トモナリは神切を探す。

 蔵の奥の方にある木の箱を手に取る。


「これじゃないな……」


 似たような箱がいくつもある。

 最初に手に取ったものは神切ではない刀が入っていた。


「これか?」


「トモナリ、多分そっちだぞ」


「これか?」


「その隣なのだ」


 ヒカリの指示に従って隠されるように置いてあった箱を抜き取る。

 手に持った瞬間に魔力が吸い込まれるような感覚があった。


 まだ中身は見ていないけれどこれが神切の入った箱だとトモナリも直感した。


「相変わらず禍々しい見た目してんな」


 お札が貼られている刀はホラーチックな禍々しさがある。

 初めて見せてもらった時は触らないようにと注意された。


 人を呪い殺す刀だと言われたし、今でも触ることをためらうような圧力を感じる。

 だが一方で刀を抜いてしまいたくなるような抗いがたい衝動にも駆られる。


「トモナリ……トモナリ!」


「あ、ああ……大丈夫だ」


 自分の中にある二つの衝動がせめぎ合い、ぼんやりとするトモナリのほっぺたをヒカリが尻尾でつつく。

 ハッとしたトモナリは改めて神切を見る。


「見ただけでこれだもんな。怖い刀だぜ」


 神切なんて名前も割とおどろおどろしいものであるが、もっと危険物的な名前でもいいのにとすら思う。


「ふぅ……いくぞ」


 トモナリは手を伸ばして神切を掴む。


「これは……」


 神切を掴んだ瞬間頭の中に声が響く。

 何かを呪うような呪詛の言葉と刀を抜いて暴れろという黒い欲望を刺激するような言葉がこだましている。


「やっぱり危険だな」


 こんな言葉に飲み込まれるほどトモナリは弱くない。

 だが頭の中に響く言葉を聞き続けたらトモナリでも精神がやられてしまうかもしれない。


 トモナリは気が狂う前にと神切をインベントリの中に放り込んだ。

 流石にインベントリの中にあると声は聞こえないようである。


『なんじゃ、今の気持ち悪いのは?』


「聞こえてたのか?」


『聞こえておったわ』


 神切の声が聞こえなくなったと思ったら今度はルビウスの声が聞こえてきた。

 なんと神切の声はルビウスにも聞こえてきていたのだ。


『やかましいことこの上ない。なんじゃあれは?』


「さあな、俺にも分からない。ただ一筋縄ではいかなそうだ。もうちょっと封印だな」


 覚醒前、あるいは覚醒直後に手にしていたら危なかったかもしれない。

 今も長時間持っていると精神に影響が出てしまいそうだ。


「もう少し強くなってからだな」


 神切を手にして分かったのは神切が魔力を持っているということだ。

 ただの武器ではなく何か魔力が関わるような力がある。


 しっかりと抑えきれる自信がないのに手を出すべきではないとトモナリは神切については後回しにすることにした。


「盗まれる前に手に入ってよかった」


「盗まれる?」


「ああ……この刀は盗まれるんだ」


 小首を傾げるヒカリを見てトモナリは笑顔を浮かべる。


「この刀が表舞台に出てきた時、それこそ妖刀扱いされていた。回帰前の連続殺人犯が持っていたのが神切なんだよ」


 刀を持っていたことから侍の亡霊などと呼ばれた連続殺人犯がいる。

 その犯人が持っていたのが神切だった。


 連続殺人犯を捕まえようとした覚醒者すら多くが返り討ちにあって刀は常に血に濡れていたなんて話をトモナリは聞いたことがある。

 最終的に神切を持った連続殺人犯は倒されて神切は別の人の手に渡った。


 ただ他の人の手に渡った神切は次々と人を狂わせ戦わせた。

 呪いの妖刀として神切が有名になっていた頃に神切はある人に渡った。


 刀を扱っていた女性覚醒者で彼女は神切を手に入れても狂うことがなく、神切の力を存分に発揮して有名になった。

 どうやって神切の力を抑えたのか知らないがともかく彼女は神切をコントロールしていたのだ。


 そして後々彼女が受けたインタビューの中で神切の経緯が語られたのである。

 テッサイのところから盗まれたもので、神切が見つかった時にはテッサイは亡くなっていて管理できないから神切は覚醒者の手を渡ることになったのだ。


 いつ盗まれたのかまでは記憶にないがどこかで盗まれ、どこかで人の手に渡って多くの血を流すことになる。

 その前に手に入れて上手く扱えば他の人も犠牲にならないし強くなれるだろうと思って欲しいと訪ねたのだが、そう簡単なものでもなかったようである。


「まあ、なんなら未来の持ち主に渡したっていいしな」


 扱えなさそうなら回帰前の神切を使っていた女性覚醒者を探し出して神切を渡してもいい。


「そろそろみんなも起きてくる。朝ご飯食べに行こうか」


「ユキナのご飯も好きだぞ」


「純和風でいいよな」


 トモナリは蔵の鍵をしっかりと閉めて後にした。

 少なくとも神切の流出で連続殺人事件が起こることはないだろう。


 それよりもテッサイに認めてもらったことがトモナリは嬉しかったのだった。

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