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二つ目のスキル1

「それじゃあ行ってくるね」


「いってらっしゃい。怪我しないようにね」


「いってくるのだ〜」


 夏休みも残り数日。

 思ったよりも早かった。


 引っ越したばかりではあるもののトモナリはもう家を出発した。

 少し外出するのではない。


 次に帰ってくるのはまた長期休暇の時となる。

 ゆかりに挨拶をしたトモナリは呼んであったタクシーに乗り込んで空港に向かう。


「ひこーきってやつなのだ?」


「ひこーきってやつだ」


 今回はまっすぐにアカデミーに向かうのではない。

 別の場所に行くことになる。


 そのための移動手段として利用するのは飛行機であった。

 少し値段が張る移動手段ではあるものの今回は自分のお金ではないから気楽なものである。


 ただ何も考えずに飛行機に乗れた頃よりも空港の人は減った。

 けれどもやはり飛行機という移動手段は重宝されていて利用する人は多い。


「こんな鉄の塊が空を飛ぶのかぁ〜」


 飛行機のチケットを用意してくれたのはマサヨシである。

 ヒカリはペット扱いでもなくちゃんと座席が一つ与えられている。


 窓際の席で、ヒカリは尻尾をフリフリしながら外を眺めていた。

 翼があるドラゴンが空を飛べることはよく分かるが羽ばたきもしない飛行機が空を飛んでいることが不思議でならないのだ。


「トモナリ!」


「いつか……僕がおっきくなったらトモナリのこと乗せてやるからな!」


「んん?」


「こんなヒコーキなんかよりも僕の方が速いんだ!」


「ふっは、なるほどな」


 思わず笑ってしまう。

 何を言い出すのかと思えば飛行機に対抗心を燃やしていたのだ。


「期待してるよ」


 トモナリは回帰前に見たヒカリの姿を思い浮かべる。

 強大な敵だった。


 しかしそれを抜きにして考えると美しさすら覚えるような雄大なドラゴンだった。

 背に乗って空を飛ぶことができたらきっといい気分になれるだろうなと思う。


「ふふふん、期待するのだ」


 ヒカリは翼を広げて胸を張る。


「ヒカリに乗って移動できたら楽だろうな……」


 ドラゴンを襲うバカなモンスターも多くはないだろうとなると安全で速くてかっこいい移動手段となる。

 大いに期待させてもらおう。


 そう思ってトモナリはヒカリの頭を撫でてやるのだった。


 ーーーーー


「なんもしないってのも疲れるな……」


 空港から出てトモナリは体を伸ばす。

 覚醒者の体は長時間の移動でもびくともしないはずなのだけど、なんだか凝り固まってしまったような気がする。


 やはりヒカリの背中には期待だ。


「先に来てる奴がいるはず……」


「ぬおっ!? な、何するのだぁ〜!」


「……ああ、ヤナギ先輩……どうも」


「ん」


「トモナリ、助けるのだ〜!」


 振り返ると三年のフウカが無表情でヒカリを捕まえていた。

 そしてわしゃわしゃとヒカリのことを撫で回し始める。


 無表情ながら卓越した手つきにヒカリは逃れることもできずにされるがままになっている。


「キュウ……やられたのだ……」


「みんなあっちにいるよ」


 散々撫で回されてヒカリはフウカの腕の中でぐったりとしている。

 だいぶ強くなったトモナリだけどフウカにはまだ敵う気がしない。


 申し訳ないが助けるにはまだ力不足なのである。

 一通りヒカリを撫で回したフウカが歩き始めてトモナリも荷物を持って追いかける。


「おっ、遅くもなく……早くもないな」


「そうね。真ん中ぐらいってところね」


 ロビーの一角に見覚えのある顔が何人かいた。

 二年のレイジやカエデ、一年のマコトやサーシャといった顔ぶれだ。


 今日集まっているのはアカデミーの中でも課外活動部の活動のためであった。

 課外活動部の活動はゲートを攻略してレベルを上げることである。


 夏休みの自由の時間なんかうってつけだ。

 夏休みが始まる時に一つ攻略した。


 ちょっとイレギュラーな形でNo.10ゲートではあったが一応あれは課外活動部としての攻略であった。

 今回は二、三年生を中心としてゲートを攻略し、一年はサポートとしての動きを学ぶのである。


「お前らまたゲート攻略したんだって? 今レベルなんぼだよ?」


「今は19ですね」


「もうセカンドスキル目前か」


 レイジは驚いた顔をする。

 今の二、三年生もかなり速いペースでレベルを上げてきたがトモナリたちはさらにそれよりもペースが速い。


「どっかで抜かされそうだな」


「じゃあ抜かした先輩って呼んでください」


「やなこった」


 歯を見せてレイジは笑う。

 最初の当たりこそキツかったものの打ち解けてみると意外といい先輩である。


「レベルの上がり方が異常なのはいいけどあなたたちのセカンドスキルも気になるわよね」


 レベルが20になると二番目のスキル枠が開く。

 能力値が優れていても優秀なスキル一つに潰されてしまうこともある。


 逆に優秀なスキルを手に入れたことでここまで平凡なだった覚醒者が日の目を見ることもある。

 どんなスキルを手に入れることができるのかということは優秀な人であるほど当人のみならず周りも気になるものなのだ。


 トモナリは最初に見たこともないスキルを二つも手に入れた。

 自ずと周りも次のスキルはどんなものかと期待してしまうのだ。

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