「くらえ!」
フウカの闇の鎧が槍の先端を包み込んで拘束する。
さっさと武器でも手放せばいいのにレオンコボルトは無駄に槍を引き抜こうと試みる。
ただ簡単に抜けるはずもなく、動きが止まったところにタケルが前に出た。
レオンコボルトの一体に素早く拳を叩き込んで倒す。
前に戦った時よりも動きが速くなっていて強くなっているなとタケルを見ながらトモナリは思った。
「流石の連携だな」
「ひーまーなーのーだー」
「今日は我慢だぞ」
トモナリはちょっとでも勉強になればとみんなの戦いを眺めているけれど、暇を持て余したヒカリはトモナリの頭に顎を乗せて頭をグリグリ動かす。
ちゃんと出しゃばらずに引いた動きをするということも時には大切だ。
しっかりとサポートに徹するつもりのトモナリはヒカリの攻撃にもめげない。
『こら、トモナリを困らせるでない!』
「むむむむ……」
ちょいちょいヒカリと同等の争いを繰り広げるルビウスであるが、割と年長者としてヒカリをビシッと指導してくれることもある。
お姉さん、時にはお母さんのようにヒカリを諭してくれるのだからありがたい。
ドラゴンの品格というものがルビウスの中にあるらしく、ヒカリにも品格を持つようにと言っている。
本来は親がこうしたことを教えるらしく妾はまだ子供もいないのに……と文句も言っていたりする。
『妾も暇だが我慢しておるのだぞ!』
ただルビウスの指導はちょっとズレているのではないかとトモナリは思う。
別にそれでいいので黙っているけれども。
「トモナリ君、お願い」
「はーい!」
戦いが終わったので今度はトモナリの出番である。
ナイフを取り出してレオンコボルトの解体に取り掛かる。
「にしても……+がつくほどの感じは今の所ないな」
水分補給をしながらタケルがレオンコボルトの事態に目を向ける。
タケルは正直な感想ではレオンコボルトを弱いと感じている。
難易度E+ならDに近い難易度になるはずと聞いて警戒していたが、これなら通常のEぐらいの難易度がせいぜいといったところであった。
「これならパパパッと片付けて帰れそうですね」
「タケル……そういうのは……」
『レオンコボルトが侵略者の存在に気づきました! 総力を上げて抵抗を見せます!
300/300』
「フラグっていう……遅かったか」
タケルの余裕そうな発言を受けてカエデがたしなめようとした瞬間トモナリを含めた全員の前に表示が現れた。
「はぁ……だから言ったのに」
「す、すいません、お嬢……」
カエデがやれやれと首を振ってタケルは気まずそうに小さくなる。
「特殊なクエストが発生したのか」
トモナリは表示を見ながら面倒なことになったと目を細める。
「引く時間は……なさそうだね」
ゲートまで下がって撤退かAチームと合流したいところであったのだが、すでに地鳴りのようなレオンコボルトの足音が聞こえ始めている。
全方向から足音は聞こえていて逃げ場がないことをフウカは察した。
「モンスターウェーブね」
カエデは冷静に特殊クエストの内容を予想する。
大量のモンスターが発生するモンスターウェーブというものが時に発生する。
300という数字はモンスターの数なのである。
「トモナリ君、サポートはやめて戦闘準備」
戦うしかないとフウカは判断した。
「分かりました!」
トモナリは背負っていた大きなリュックを下ろしてルビウスを抜く。
「300か……結構多いな」
「300もいないだろうね」
「どういうことですか、お嬢?」
「お嬢って呼ぶな。ここにはもう一チーム攻略してる奴らがいるだろ。なら多分半分はそっちに行ってるはずだ」
「なるほど……なら150ってことですね」
300匹のレオンコボルトが発生した。
普通に考えると300匹を倒さねばならないが、今はAチームとBチームで分かれて攻略を行なっている。
300匹全てがBチームに向かってくるとは考えにくい。
となると半分ずつ分担することになるだろう。
それでも150匹である。
一人当たり20匹以上倒さねばならない。
ここでトモナリをサポートとして温存して守っておく暇はない。
「きたぞ!」
「互いの背を守るようにしながら戦うんだ!」
三年生の指示で丸くなるように布陣して走りくるレオンコボルトを迎え討つ。
「ワハハハハッー!」
緊張感の走る戦いの中でヒカリはようやく出番だと嬉しそう。
一人でレオンコボルトの群れの中に突っ込んでいったヒカリは暴れる。
爪で切り裂き、ブレスを吐いてレオンコボルトを倒していく。
「ハハッ! あいつも強くなってるな! 今なら噛まれたらタダじゃ済まなそうだ!」
意外と心強いヒカリの活躍にタケルがやる気を燃やす。
「スキル拳闘之体(ケントウシタイ)!」
タケルがスキルを発動させる。
魔力を消費して力と素早さを大きく向上させる効果を持つ。
「アイゼンはフクロウを守れ!」
「分かりました」
魔法使いタイプであるカエデは接近戦を苦手とする。
実力を発揮するためにはしっかり守ってやる必要がある。
その役割をトモナリが任されることなった。