目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

二つ目のスキル9

「何が選ばれるのかは完全にランダムで運に任せるしかない……というのがこれまでの通説だった」


「……そう言うということはまさか?」


「確実に良いスキルを手に入れられるとは限らないが確率を上げられる方法がある、らしいのだ」


「そんな方法が?」


 テルのみならずみんなが驚いたような顔をする。


「この方法を使えば良いスキルを手に入れられる確率が上がる。他にも手に入れたいスキルの方向性を固定することもできるらしい」


「らしい、なのですね?」


「やらなかった場合に手に入れられるスキルとやった場合に手に入れられるスキルの比較はできないからな。だがこの方法を使って得たスキルはいいものである傾向が強いというのが論文の検証だ」


 回帰前にガチャスキル理論なんて呼ばれたものがあった。

 それは金持ちの遊びから始まった。


 スキルの抽選がソーシャルゲームにおけるガチャで、まるでなんの対価も払うことがない無料のガチャだと言い出した人がいた。

 ならばソーシャルゲームになぞらえて石を入れたら高いガチャになるのでは、なんて考えたのである。


 金持ちだったその人はたまたま身近に魔石を保有していた。

 レベルが上がってスキルスロットが解放された金持ちは魔石を使ってスキルを解放しようとした。


 悪ふざけだったのだがその時使われたのはA級モンスターの魔石だった。


『確率変動が起こりました!』


 そんな表示が現れて金持ちは新たなるスキルを手に入れた。

 かなり強力なスキルを手に入れた金持ちはこれまで地味な覚醒者だったのだが、以降第一線で活躍する覚醒者となる。


 しばらくスキルの解放に魔石を投じたことは秘密にされていたのだが、人類の旗色が悪くなってくると金持ちは慌てて自分がスキルを手に入れた秘訣を公開した。

 良いスキルを手に入れる方法があるということに世界は騒然となった。


 ただ金持ちが言うほどに簡単な方法ではなかった。

 確率変動が起きるまでに必要なものは低等級の魔石なら大量に必要であったのだ。


 ただ確率変動が起こらずとも良いスキルが手に入れられる可能性は高まっていると色々な人が試した中で言われるようになる。

 魔石だけでなくアーティファクトやモンスターの素材でも代用がきくことが判明して人類のスキルは良くなり、一時期だいぶモンスターに対して盛り返したものだった。


「まだ確実ではないらしいが試してみる価値はある」


「試す……とは誰が」


「アイゼンだ」


「アイゼン君が?」


 みんなの視線がトモナリに集まる。


「実は前回のゲートでレベル20になったんです」


 サポーターとしてついていくだけなら分からなかったけれど、途中モンスターウェーブが発生したおかげでトモナリも戦うことになった。

 そのおかげでトモナリのレベルも20を越えていた。


「そこでアイゼンで論文を試してみようと思う」


「試すって……アイゼン君はそれでいいのかい?」


「もちろんですよ。仮に論文が嘘でも普通にスキルが選ばれるだけですから」


「確かにそうかもしれないが……」


 テルはまだ確実でもない論文をトモナリで試すことにやや難色を示している。

 だがトモナリはもちろんやる気だった。


 なぜならその論文を書いたのがトモナリ本人なのであるから。

 覚醒後の能力について説明してくれる人などいない。


 今現在ある知識も先人たちが経験の中から得たものである。

 言ってしまえばかなり不親切なのだ。


 回帰したトモナリにはこうした偶然発見された知識もいくつか覚えているものもあった。

 ただトモナリがいきなりそうした知識を披露したところで信じてもらえないだろう。


 なのでこっそりと論文という形で発表した。

 論文の名前は偽名であるが完全に匿名でもなく未来予知として貢献してきた覚醒者協会を通じて発表し、ある程度の検証まで行ってもらっていた。


 論文の内容を先んじてマサヨシに送ってもらっていたのである。

 ちなみにマサヨシには論文のことは言っていない。


 トモナリがレベル20になりそうなことをそれとなく伝えていたのでタイミング良しだと今回の話が持ち上がったのだ。


「あっ! じゃあモンスターの死体集めてたのって……」


「そのとーり」


 ミズキがゲートでのことを思い出す。

 不必要なはずのレオンコボルトの死体をトモナリはインベントリに入れて回収していた。


 なんでそんなことするのか疑問だったけれどようやく理由が分かった。

 スキルの解放で利用するためにトモナリはレオンコボルトの死体も持って帰ってきたのである。


「なるほどね。やっぱりトモナリ君は意味のないことをしないね」


 マコトが感心したように頷いている。

 いくらインベントリに空きがあるからとおかしいとは思っていた。


「とりあえず今日の話はここまでだ。細かく知りたいものがアカデミーの図書館にも資料があるし電子でも読めるようにしてある」


「トモナリはスキル抽選すんのか?」


「ああ、これからやろうと思ってる」


「ふーん、じゃあ見学してってもいいか? お前のスキル気になるしな」


「ああ、構わないぞ」


「んじゃ私も!」


「僕もいいかな?」


「見たいなら好きにしろ」


 論文についての説明は終わった。

 となると次は実際にやってみるということになる。


 みんなもトモナリのスキルは気になる。

 ユウトが見学したいと言い出してミズキやマコトも同調したので別に減るものでもないしトモナリは軽く許可を出した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?