「残念、ツンツン」
「ぬううぅ〜サーシャもやめるのだぁ〜!」
今は空港前にトモナリたちはいた。
付き添うことになっているフウカもいるのだが、メンバーそれだけではない。
サーシャもいてフウカが抱えるヒカリの頬をツンツンとつついている。
もちろん勝手についてきたのではない。
サーシャも三年生の付き添いとして付いてきていた。
トモナリと同じくサーシャも三年生から指名されていた。
課外活動部の先輩から指名されていたのでサーシャはそのまま受けることにしたのだが、サーシャを指名した三年生の行き先もたまたま五十嵐ギルドであったのだ。
なんとなく似ているサーシャとフウカ。
どっちも寡黙な感じでデフォルメした絵を描いたら姉妹みたいになるだろう。
どちらの職業もタンクタイプのもので、そんなところも似ている。
ついでに二人ともヒカリがお気に入りのようである。
「ええと……五十嵐ギルドの迎えが来るんですよね?」
「ええ、そのはずね」
助けを求めるヒカリから目を逸らしつつトモナリは予定を確認する。
サーシャを指名した三年生の安室亜紗美(アムロアサミ)が頷く。
艶やかな黒髪を肩口で切りそろえた女性の三年生だ。
「まあまだ時間には少し早いものね」
アサミは腕時計で時間を見る。
五十嵐ギルドは大きなギルドであるが拠点はやや田舎にあるために迎えが来ることになっている。
覚醒者ギルドと一口に言っても目的は様々だ。
覚醒者といえばモンスターを倒してゲートを攻略するものということになっている。
だから覚醒者ギルドと言えばゲートを攻略するものである、とは単純に言えない。
もちろん多くのギルドがゲート攻略を目的としていることは事実である。
だがゲートのみが目的ではないギルドもある。
例えばミネルアギルドなんかがそうである。
ミネルアギルドは積極的にゲート攻略をしないで必要に迫られたらモンスターと戦う。
浜辺という限られたスペースのみを守っていた。
他にも都市や商業施設、居住地や要人などモンスターだけじゃなくて脅威から人を守る選択をしたギルドも存在している。
さらにはモンスターやゲートの調査目的、覚醒者としての強さを追い求めることが目的なんてところもあるのだ。
「あれかな?」
空港の前で待つトモナリたちの近くに車が止まった。
「……俺たちが目的で間違いないですね」
「ようこそ!」
“ウェルカム 柳風花 安室亜紗美 愛染寅成 工藤サーシャ”と書かれたボードを持った若い男性が車から降りてきた。
サングラスをかけているけれど目までニッコリ笑っていることが分かるような笑顔を浮かべている。
「イ、イヌサワ先輩じゃないですか!」
男を見てアサミが驚いた顔をする。
「おっ、嬉しいなぁ。僕のことを知っててしかも先輩と呼んでくれるなんて」
車から降りてきた明るい茶髪の少しチャラそうな男こそ五十嵐ギルドから迎えであり、鬼頭アカデミーの卒業生でもある犬沢優であった。
別名ウルフマンと呼ばれる高い能力を持つ覚醒者である。
「も、もちろんです! 先輩のご活躍はアカデミーでも話題です!」
アサミは少し興奮気味である。
イヌサワはアカデミーでも有名な覚醒者だった。
卒業生ということもあるのだがイヌサワは七番目の試練ゲートをクリアした覚醒者の一人として、その実力の高さも有名なのだ。
アカデミー卒業生が試練ゲートをクリアしたのだからアカデミーの授業の中でも参考にすべき覚醒者として触れられていた。
割と顔もいいのでそこらへんもイヌサワが人気の理由だ。
「トランクに荷物を。少し遠いからすぐに出発しようか。自己紹介は車の中で」
大きめの車の後ろに荷物を積む。
唯一の男であるトモナリが助手席に乗せられて女性陣は後ろの席に座る。
「改めて自己紹介だ。僕は犬沢優。僕も鬼頭アカデミーの卒業生だから君たちの先輩だね」
イヌサワが車を運転しながら軽く自己紹介をする。
「君たちのことはすでに聞いてるよ。ギルドに着いたらまた挨拶することになるだろうから君たちの自己紹介はその時に。先にこれから向かう五十嵐ギルドについて説明しておこうか」
車は市街地を離れていく。
「僕たち五十嵐ギルドが何を目的にしているのか君たちは知ってるかな?」
「モンスター占領区の奪還ですよね」
「その通り」
イヌサワの質問にアサミが答える。
「僕たちはモンスターに占領された土地を取り戻そうとしている」
ゲートを目的としたギルドや何かを守ることを目的としたギルド以外に、モンスターに占領されてしまった土地を取り戻そうとしているギルドもいた。
ゲートが現れてモンスターが出始めた頃は覚醒者の数も少なく、覚醒者自身も未熟であった。
大都市だって陥落してしまったところが多く、ゲートが放置されたままモンスターが溢れかえって人の住めなくなった土地があちこちにある。
それがモンスター占領区と呼ばれている場所だった。
ゲートが目的とも言えるのかもしれないが、人が住める土地を取り戻して安心して暮らせるようにすることを目的としているのが五十嵐ギルドなのだ。