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ギルドのお仕事2

「おお、待っていたぞ!」


 トレーニングルームではギルド長のイガラシを始めとして、食堂で見たような人も待ち受けていた。


「今日は君たちの力を見せてもらう。実際にどの程度なのか分からないとどう戦わせていいのかも分からないからな」


 弱いのに前に出せば大怪我をさせてしまう。

 だからと過保護に扱うつもりもない。


 実力を把握して的確に運用してこそ最大限の効率で安全に戦うことができる。

 どうすれば実力を把握できるのか。


 それはもちろん戦うことである。

 何もなく実力を見せてくれといっても難しい。


 戦えば実力や戦い方を見ることができる。


「まずは一年から戦ってもらおう。どちらからやる?」


 トモナリとサーシャは互いに顔を合わせた。


「私がやる」


「オッケー」


 珍しくサーシャがやる気を見せている。


「よし、工藤君からだな。君はタンクタイプだな」


 サーシャは安定してタンク役をこなすためにやや大きめな盾を持っている。

 アタッカーでも盾を持つ人はいるけれど、動きやすいような小型な盾を持つことがほとんどである。


 たとえサーシャの職業を知らなくとも大きな盾を持っている時点でタンク役を担っていることは予想できる。


「さて……シノハラ!」


 トレーニングルームを見回したイガラシは一人の男を指名した。

 短髪の男性で装備は比較的軽装であった。


「よし、俺だな。安心しな、手加減はしてやるから」


 前に出たシノハラは肩を回す。


「うちにはヒーラーもいるから倒しちゃっても大丈夫だよ」


 イヌサワがニコッと笑ってサーシャの顔を覗き込む。

 傍目にはいつもと変わらないように見えるけれども、それなりに付き合いのあるトモナリにはサーシャが緊張しているのが分かった。


「頑張れ」


「うん、頑張る」


「サーシャ、やっちゃうのだ!」


「ふふ、うん」


 ヒカリにも応援されてサーシャは軽く微笑む。


「倒されないように気をつけないとな」


 シノハラは腰につけていた武器を取り出した。


「なかなか珍しい武器だな」


「ね、僕もそう思うよ」


 シノハラの武器は大型のククリナイフであった。

 真ん中から前の方に折れ曲がった形をしている特殊なナイフで、シノハラが持っているものはククリナイフの中でもかなり大きなサイズのものである。


 分厚くて大きな刀身を見ているとナイフというよりも普通にソードである。


「行くぞ!」


 盾を構えるサーシャに向かってシノハラが走り出す。


「うっ……」


 シノハラはククリをサーシャの盾に叩きつけるように振り下ろした。

 盾とククリがぶつかって甲高い音が響く。


 サーシャはしっかりと盾で受け止めたにも関わらず大きく後ろに押されてしまった。

 手加減すると言いながら大人げない一撃だった。


 レベル差があって能力にも大きく差があることは今の一撃でサーシャにもよく分かっただろう。


「……強いですね」


 アサミはシノハラの戦い方を見て思わずうなってしまう。

 ククリという武器のみならず戦い方もやや変則的である。


 正統派な戦いから外れて予想がしにくい攻撃を絶え間なく叩き込んでいる。


「元々彼は傭兵だったんだ。武器のチョイスもその頃の影響を受けているらしいね」


 だからなのかとトモナリは思った。

 シノハラの動きは対モンスターというよりも対人的な動きをしている。


 元傭兵としてどんなことをしていたのか知らないが、対人的なことも行っていたのだろう。

 サーシャにとっては格上が経験したことない動きをするのだからやりにくいことこの上ない。


 だが良い経験になることは間違いない。

 モンスターだって予想しない動きはしてくる。


 シノハラの動きに対応することは今後のサーシャの動きにも活きてくるはずだ。


「……光の加護!」


 防戦一方でこのままでは反撃もできない。

 サーシャがスキルを発動させた。


 体が淡く光に包まれてサーシャの能力が上がる。

 盾でククリを受け流すように受け止めて剣を突き出す。


「ははっ、まだまだだな!」


 無理に繰り出した反撃をシノハラは指で挟んで防いだ。


「抜けない……!」


「ほらよ!」


「うっ!」


 シノハラはサーシャの腹を蹴り飛ばした。


「そこまで! シノハラ……」


「なんだ? 女の子相手なんだから優しくしただろ? 野郎だったら今頃ボコボコにしている」


「……はぁ」


 太々しく笑うシノハラにイガラシは大きなため息をついた。


「うぅ……」


「大丈夫?」


 壁際まで転がっていったサーシャに女性が駆け寄った。

 ヒーラーの椎名愛美(シイナマナミ)はサーシャのお腹に手をかざすとヒールを始めた。


 鈍い痛みがヒールによってスッと引いていく。


「悔しい……」


「ふふ、強い子ね。レベル差があるからしょうがないわよ」


「むぅ……」


 シノハラはスキルすら使っていない。

 レベルの差があるほど能力値の差も大きい。


 加えて元傭兵のシノハラは経験も豊富であり、今のサーシャが勝てるような要素はない。

 それでも悔しい、もっとやれたと目の奥で炎を燃やしているサーシャをマナミは微笑ましく見ていた。


「しかし……正直あそこまで持つとは思わなかった。簡単に終わると思っていたけどあれが一年生ねぇ……」


 シノハラは腕を組んで感心してしまう。

 なんなら一撃で終わってもしょうがないと考えていた。


 なのにサーシャはシノハラの攻撃をよく防いで反撃の機会までうかがっていた。

 結果的に無理に反撃したことでやられてしまったが、反撃も悪くなかったし良い気概をしている。

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