「そうでしょ? 僕の後輩だからね」
「お前の後輩だから期待してなかったが考えを改めるよ」
「いたっ! はははっ、ひどいなぁ」
イヌサワはシノハラにちょっかいをかけるけれどデコピン一発で退散させられる。
「次はアイゼン君だな」
ほんの少し空気が張り詰めたことをトモナリは感じた。
ドラゴンを連れたドラゴンナイトという希少な職業な覚醒者であるトモナリの実力はみんなが気になっていた。
「相手は誰ですか?」
「相手は……」
イガラシがトレーニングルームの中を見回す。
何人かがイガラシに視線を送る。
自分がやりたいということである。
「……ユウ、お前がやってやれ」
「僕ですか?」
「そうだ。彼のことは気にしていただろ?」
「本人の前でそれ言いますか? 恥ずかしいなぁ」
イヌサワは頭をかいて笑う。
「でもまあ……興味があったのは本当ですからね」
イガラシに視線を送っていた一人がイヌサワであった。
「聞いたよ。悪名高きNo.10ゲートを攻略したのは……君だって?」
イヌサワはサングラスを外す。
色素が薄くて茶色っぽい色をした瞳がトモナリのことを見つめる。
「それに終末教とも戦ったんだろ?」
「どうしてそれを……」
No.10ゲートを攻略したこともトモナリたち個人の名前は出ていない。
加えて終末教の襲撃については完全に隠匿された情報である。
No.10を攻略したのがトモナリだということは調べられるだろう。
しかし終末教については普通は知り得ないのである。
「ユウスケとは友達でね」
「ユウスケ?」
「ミヤノユウスケだよ」
「ああ……」
名前を聞いて思い出した。
No.10ゲートを攻略した後終末教に襲撃されることは予測できていた。
だから覚醒者協会に協力を要請していたのだが、その時に助けに来てくれたのがミヤノンウスケという覚醒者であったのだ。
大和ギルドという大きなギルドに所属する強い覚醒者でトモナリもスカウトされたことがある。
ミヤノはアカデミー出身の覚醒者ではないものの、イヌサワと交流があった。
トモナリたちが来る前にイヌサワはミヤノと連絡を取ることがあり、その会話の中でたまたまトモナリについても離すことがあったのである。
「僕も試練に立ち向かった者だからね」
洒落た言い回しをする者だが要するに試練ゲートに挑んで攻略した者であるということだ。
「その関係で機密保持の契約も結んでいるから聞かせてもらったのさ」
「……それを今話していいんですか?」
「…………あっ」
途中までいい感じだったけれど今はトモナリとイヌサワの二人きりでない。
周りに多くの人がいる。
機密の情報を聞ける立場にあることは別にトモナリにとってどうでもいいのだが、機密に当たる情報をみんなの前で堂々と口にしてしまっている。
「……みんな、今の話は秘密だよ?」
イヌサワは誤魔化すように笑ってみんなを口止めする。
いいのかそれでと思うのだけど、周りも苦々しく笑って頷いている。
イヌサワユウといえばクールで天才肌の覚醒者だと聞いていた。
もっと近寄りがたい人をイメージしていたのに想像よりも親しみのある人間性でトモナリも思わず笑ってしまう。
「ふふ、先輩がこれ以上何か言っちゃう前にやりますか」
ともかくイヌサワがトモナリに注目していることは分かった。
強さを語るなら口ではなく戦えばいい。
トモナリはルビウスを抜いた。
「赤い剣……なかなか面白いものを持っているね」
燃え盛る炎のようなルビウスは目を引くだけでなく、一定以上の実力があれば強い魔力を宿していることが感じ取れる。
「いつでもおいで。可愛い後輩に胸を貸してあげよう」
「それじゃあ遠慮なく。ヒカリやるぞ」
「任せるのだぁ〜」
トモナリが肩に乗ったヒカリの頭にポンと触れて合図するとヒカリは翼を羽ばたかせて飛び上がる。
イヌサワほどの実力者ならトモナリが手加減する必要などない。
トモナリは床を蹴って一気にイヌサワと距離を詰める。
「速いな」
距離を詰めるトモナリの速度を見てイガラシは目を細めた。
「おっと……最初からやるね」
正面から切りつけると見せてトモナリはイヌサワの後ろに回り込んでルビウスを振る。
隙だらけのように見えてしっかりと警戒していますイヌサワは素早く剣を抜いて攻撃を防いだ。
普通の剣よりもやや細身だが、灰色がかった色をしていて普通の剣じゃないなとトモナリは思った。
対してイヌサワもトモナリの速さや剣から伝わってくる衝撃に内心で驚いていた。
せいぜいサーシャの少し上ぐらいだろうと思っていたのに能力値はサーシャよりも遥かに上である。
剣を持つ手の痺れからすると油断すると危ないなとイヌサワは少し気を引き締めた。
「ずっと強くなってる」
顔合わせで初めて出会った時に戦ったトモナリとは見違えるようだとフウカは思った。
アカデミーに来たばかりの時は技術に能力が追いついていないような感じがあった。
当然回帰前の知識がありながら体はまだレベルも低く、意識して動かそうとしてもついていかない部分が残っていた。
しかし地味で辛いトレーニングを続けて能力値を伸ばし、レベルアップしてきた。
同じレベル帯はおろか、多少上のレベルでも戦える自信が今はある。