「とりあえず治療は受けておきなよ」
「そうします」
大きな外傷こそないが、重力操作で大きな重力に耐えた体のダメージはある。
トモナリはヒカリを抱えて壁際に下がってマナミの治療を受ける。
「無茶なことして……」
「無理だからと諦めてたら届くものも届かなくなりますからね」
「そんなことばっかりしてると女の子に心配かけちゃうわよ」
マナミは少し呆れたような顔をして治療をする。
トモナリの根性は認めるがたかが訓練、しかもまだ駆け出しの覚醒者がそこまで食い下がることもないだろうと思うのだ。
「男の子ですから」
「ふふ、そうね」
「ぽわ〜ヒールはあったかくて気持ちいいのだ〜」
「確かに体がほぐれていくような感覚があるな」
重力に抵抗したことでやはり体の筋肉はこわばっていたようだ。
ヒールを受けると体が軽くなるような感覚で気持ちよさがある。
トモナリが治療を受けている間に三年生の訓練も始まる。
まずはアサミが女性の覚醒者と戦う。
アサミはナイフを使ったスピードタイプの覚醒者で、相手の女性も同じタイプの戦い方をする人であった。
「ふぅ……」
治療を終えたトモナリは一応フウカのそばに控える。
サポートとしてついてきているので何かやることがやるのだ。
特に何もないだろうとは思いつつも真面目に役割はこなしておく。
「アレ……使わなかったの?」
レベル差があるので相手の方が強い。
しかしアサミもスキルを使いながら相手に食らいついている。
フウカは戦いを眺めながらもチラリと近くに来たトモナリのことを見た。
アレ、とはトモナリのセカンドスキルであるドラゴンズコネクトのことである。
ブレスの一撃が協力であったことはフウカの記憶にも新しく、ドラゴンズコネクトを使えばまだ戦えたのではないかと思った。
「あのスキルはまだちゃんとコントロールできないので」
ドラゴンズコネクトは強力なスキルである。
だがまだその力の全てを制御しきれない。
たとえトモナリが全力でブレスを放ってもイヌサワなら耐えられるだろうが、トモナリの方が耐えられないかもしれない。
ルビウスが手元になくなるデメリットもあるし、こんな場で制御できない力を使うべきではない。
ひとまずまだ切り札として他の人には見せないということもまた覚醒者としての生き抜き方でもある。
「ふーん」
ドラゴンズコネクトでどれだけ戦えるのかということにも興味があったフウカはちょっとだけつまらないなと思った。
「それでも強かったね」
「確かにイヌサワさんには全然敵いませんでした」
「そうじゃないよ」
強いのはトモナリの方だ。
第一線で活躍する覚醒者とトモナリは良く戦った。
負けるのが当然であるけれど、どうにか勝ち筋を探して足掻く姿はフウカも見習うべきだと感じている。
「ね、私が勝ったらヒカリちゃん抱っこさせて」
「ヒカリを?」
アサミはだんだんと苦戦を強いられていた。
相手の女性もファーストスキルを使い、アサミのサードスキルまでの全力を相手にしている。
勝負はさほど続かずに決まるだろうとトモナリは見ている。
「そ、全力で戦うから。勝ったらごほーび」
「俺じゃ決められないですね。なあ、ヒカリ、どうだ?」
いつも無断で抱っこしているではないかというらツッコミは胸に留めておく。
抱っこしたいといってもそれはトモナリの一存では決められるものではない。
トモナリは抱えているヒカリのことを見る。
「むむむむ……」
普段ならキッパリ断るところである。
けれどもヒカリは悩んだ。
なぜなら負けたから。
サーシャも負け、トモナリも負け、アサミも負けそうになっている。
勝てない勝負なのは理解しているけれどアカデミーから来た全員負けるのも悔しい。
フウカならば一矢報いることもできる可能性がある。
ヒカリが抱っこされることによってやる気を出してくれるのならちょっとだけ頑張ってもらいたいとも思うのである。
「むむ……勝ったらなのだ……」
アサミが負けた。
それを見てヒカリも渋々承諾する。
「なら頑張る」
フウカは目を細めるようにして笑い、アサミと入れ替わりで前に出る。
「イサキ」
「分かりました」
フウカの相手は頭の側面に刈り込みを入れた大柄の女性覚醒者であった。
「伊咲円香(イサキマドカ)だ。よろしくね」
「……よろしく」
イサキの武器は分かりやすい。
背中に大きな剣を背負っていて、あとは防具に胸当てぐらいという軽装である。
「全力で来な」
「分かった」
イサキは剣を抜いて構える。
フウカも同じく剣を抜いてスキルを発動させる。
「それがスキルかい」
質量を持ったように見える不思議な闇は波打つように蠢いている。
「ふっ!」
フウカは床を蹴ってイサキと距離を詰める。
真っ直ぐに剣を振り下ろすとイサキもそれを剣で受け止めて防ぐ。
「うっ?」
闇が手のような形をなして動き、イサキの剣の先を掴んだ。
さらにもう一つの闇の手が拳を握って下からイサキを殴り上げようとした。
「ほっ、はっ!」
イサキは足を上げて拳を足裏で蹴るように受け止める。
そのまま後ろに回転しながら飛び上がり、掴まれた剣を引き抜いた。