「この……!」
抜け出したからと終わらせない。
フウカの闇の手はさらに殴りかかってイサキを追撃していた。
「流石王職……センスも高いし最前線の覚醒者とも遜色がないね」
イサキは剣を振って闇の拳を切り裂く。
フウカはスキルで生み出した山をただの防御スキルとしてではなく手のようにして運用している。
かなりの破壊力があってフウカの思い通りに動く手が二本ある。
フウカ自身も剣で攻撃することを考えると通常の人よりもはるかに多い手数にもなるのだ。
ただ射程が短いというデメリットはある。
単純に闇を広げるだけならそれなりの範囲に広げられるが、攻撃できるほどまでの力はフウカの近くでしか発揮されない。
「ふぅ……楽な相手じゃないと分かっていたけどこのまま負けちゃ面目が立たないね! スキル怪力、剛体!」
イサキは自身のスキルを発動させた。
「怪力に……剛体」
「おっ、トモナリ君はスキルの価値が分かるかい?」
戦ったおかげか若干距離が近くなったイヌサワがトモナリの肩に手を回す。
スキルにもメリットばかりではなく、デメリットが生じるものもある。
現在判明しているスキルでも、デメリットを打ち消すことができるように組み合わせると一つ上の効果を発揮すると理想的に語られるものがある。
その一つが怪力スキルだった。
怪力スキルは非常に分かりやすいスキルだ。
力の値を倍加してくれる強力な効果を持っているのだが大きなデメリットがある。
それは他の能力値を上げてくれないということである。
力が上がるからいいと考えることも間違いではないのだが単純に力だけが強いと体がついていかないのだ。
倍になるということは力が大きいほど怪力スキルの効果も大きくなり、体の負担が激増していく。
強すぎる力はふさわしい能力がないと扱いきれずに使用者の体を破壊してしまう。
要するに体力値が必要なのである。
だから体力値が高いか、あるいは体力値を補うようなスキルがあれば怪力スキルはより活かされる。
「剛体は怪力と組み合わせたいスキルとして理論値のようなものですからね」
現在普通に発現するスキルの中で怪力と組み合わせたいスキルとして上げられるものに剛体スキルがある。
読んで字の如く体をつよくしてくれる。
体力値を上げて、物理的なダメージにも耐性をつけてくれるスキルなので怪力のパワーにも耐えられる体にしてくれるのだ。
スキルが狙って取れるものでない以上は二つを組み合わせると強いかもしれないという理想の話であったが、現実に二つのスキルを持っている覚醒者がいたのかと驚いてしまう。
「おりゃあ!」
イサキが剣を振る。
フウカの闇の手が剣を受け止めようとしたが、怪力で増したイサキの力を抑えきれずに消し飛んでしまう。
「あーあ、修繕も大変だな……」
そのままフウカに迫ったイサキが剣を振り下ろす。
フウカは闇を集めて防御するけれどもイサキの剣を止められたのは一瞬だけだった。
かわされた剣が床に当たって大きく床が砕け散る。
「シャドーブレード」
接近戦は危ない。
少し距離を取ろうとフウカがスキルで闇の剣を作り出す。
「どりゃあ!」
けれどもイサキは飛んでくる闇の剣を魔力を込めた自身の剣の一振りで打ち消してしまう。
「シンプルが故に止められない……そう聞いていたけど」
怪力スキル一つでも厄介だ。
純粋なパワーも圧倒的ならば小細工など通じない。
剛体スキルで体が持つならばこれほど恐ろしいスキルはない。
加えて剛体スキルはそれそのものが体の頑丈さを上げてくれる防御スキルである。
防御面でも剛体スキルによって強化されているのだから止められる人などいない。
「負けない……!」
フウカの体からさらなる闇が噴き出す。
闇が蠢いて迫り来るイサキを包み込んでいく。
「はああああっ!」
けれどもそれですらイサキは力で脱出する。
イサキが大きく剣を振り回して闇が散らされてしまう。
「離れてダメなら近づくよ」
イサキの目の前にフウカが迫る。
「なっ……」
フウカの突きをかわして下がりながら剣を振ろうとしたイサキは驚いた。
闇が壁となってイサキの行動を邪魔していたのである。
中途半端に振り下ろされたイサキの剣は力も乗っておらず狙いも曖昧になっていて、フウカに容易くかわされてしまう。
フウカの反撃を防いで邪魔な闇の壁を切り裂こうと振り向きながら剣を振るが、もうそこには闇の壁はなかった。
「くっ!」
イサキの足に何かが絡みついた。
気づけばフウカとイサキの足元には闇が広がっている。
怪力のパワーで無理やり足を引き抜いたイサキに今度は闇のトゲが伸びてくる。
「上手いものだ。戦い方を変えてきたな」
フウカは闇を広げて自分のフィールドを作り出した。
防御スキルである闇を攻撃転用して上手く戦っていただけでも感心ものなのに、さらにまた別の使い方を見せてきた。
怪力スキルが厄介ならパワーを発揮させないようにすればいい。
フウカのスキル活用のセンスはずば抜けている。
「だが私も負けてらんないよ!」
イサキも覚醒者の先輩として簡単には負けられない。
剣に魔力を込めて床を叩きつけて、フウカが広げた闇を消し飛ばす。
「うっ……」
広げていた闇は全て消されてしまい、フウカは顔をしかめる。
「さて、これも防げる……」
「モンスターが出現しました! 場所はC十三番の畑です!」
イサキがトドメの一撃を放とうとした瞬間、サイレンが鳴った。
そしてスピーカーから女性の声が響いてきた。