「Cの十三……今朝見回った畑のところだね。センサーの反応はモンスターだったみたいだ」
朝に見回りをした畑で防犯装置に怪しい反応があった。
その時はモンスターか泥棒か分からなかった。
だが今その畑の付近でモンスターが出たというアラートが発せられたということはモンスターの反応だったのだろう。
「今度はギルドとして良いところを見せるぞ!」
モンスターが領域内に現れたら対処するのも五十嵐ギルドの仕事である。
「今戦ったものと夜の担当は外れて残りのものはついてこい。ただしイヌサワは研修生たちを連れてこい」
「んー、僕も休みたい……」
「いいから!」
「はぁーい」
すでに装備は身につけているので後は現場に向かうだけである。
「あんた強かったね」
「……次は負けない」
「ふっふ。次を考えてくれるのは嬉しいね。次はちゃんと勝たせてもらうよ」
イサキがフウカに労いの言葉をかける。
決着こそついていなかったが、イサキの最後の一撃を防げたかは正直フウカも自信がない。
イサキは最後の攻撃でフウカを倒せただろうと思っているし、フウカは防げなかったかもしれないと思っている。
実質的な決着は二人の中でついていた。
負けを素直に認められるなら次会った時には強くなっているだろうとイサキは笑顔を浮かべてフウカの頭をくしゃっと撫でた。
「行っといで。何事も経験だ」
スッゴイ姉御タイプの人だなとフウカのサポートのためにタオル片手に待機していたトモナリは思った。
「行くぞ!」
イガラシたちはトレーニングルームを出ると走っていく。
トモナリたちの戦いに触発されてイガラシたちも体がうずいていた。
「僕たちは少しゆっくりと行こうか」
トモナリも同じ速度で追いかけるべきかと思ったのだけどイヌサワは苦笑いを浮かべていた。
ヒールしてもらったとは言ってもトモナリたちは全力を尽くして戦った直後なのだ。
レベルも高くて戦ってもない覚醒者たちの後を追いかけるのは酷である。
一応走るけれど全速力ではなく余裕を持って畑に向かう。
「イヌサワさん!」
畑の方からムラタを含めた畑で働いていた人たちが避難してきていた。
「状況はどうですか?」
「センサーが感知してくれましたし、もう仕事終わりでしたので被害はありません。それに今日は駆けつけてくれるのも早いですね」
「みんなやる気でね。このまま避難してください」
「分かりました。モンスターは頼みましたよ」
「きっと僕たちの出番はないさ」
そのままムラタたちとすれ違って走っていくと畑が見えてきた。
「にょわっ!」
上から飛んできた何かがトモナリの前にべチャリと落ちた。
びっくりしたヒカリはトモナリの腕の中から頭の後ろにサッと移動する。
「モンスター?」
飛んできたものはモンスターであった。
襲いかかってきたものではない。
「恐竜みたい」
口を大きく開けて舌を出したままモンスターは絶命している。
襲いかかって飛んできたのではなく、先に到着していた五十嵐ギルドの誰かによって跳ね飛ばされて落ちてきたのだ。
モンスターを見てサーシャは昔何かで見た恐竜を思い出した。
二足歩行のモンスターは前足が小さく後ろ足が太く発達している。
ナンチャラサウルスのようだとサーシャは盾でモンスターをつついて死んでいるかを確認しながら思った。
「結構モンスターの数はいたようだけど……大丈夫そうだね」
戦いの状況を見てイヌサワは笑った。
そこら中にモンスターの死体が転がっている。
イガラシを始めとしてみんな特に怪我もなくモンスターを倒していた。
「うちの野菜をよくも!」
イガラシが大きめの剣を振り上げると大きなキャベツを咥えたモンスターが真っ二つになる。
本当に野菜を狙ってきたようだ。
「あのモンスターは……」
「この辺りじゃ見たことがないモンスターだね。新しくどこかでゲートが発生したのかもしれないね。ともかくこうして人や畑を守ることも僕たち五十嵐ギルドの仕事さ」
畑に侵入したモンスターはあっという間に倒されてしまい、トモナリたちを含めて周辺に残りのモンスターがいないかを見回った。
「最後に色々あったけれど五十嵐ギルドはどうだい?」
「良いギルドですね。みなさん強いですし、仲も良さそうです」
トモナリたちは一足先にギルドに戻ってきた。
食堂で夕食を食べながら今日の活動を振り返る。
まだ一日目なのにずいぶんと濃い時間を過ごした気分だ。
アサミは笑顔でイヌサワに答えた。
濃い時間であったが悪くはない。
ゲートの攻略を主にしているギルドだとゲートがなければすることも少ないが、五十嵐ギルドには日々やることがある。
毎日戦っていては疲れるので見回りだけのような日もあるだろうけど、使命感を持って体を動かしていられるギルドであることは間違いない。
「まあ普段はもっとゆったりしてるからさ。改めて、短い間だけどよろしくね」
大きな都市に居を構えるギルドとはまた違った趣がある。
このまま五十嵐ギルドが無事でいるのなら候補の一つにもなるのかもしれないとトモナリは思っていたのである。