「……ということでこれが新しく発見されたゲートだ。数日前の調査じゃ見つからなかったものだから新たに発生したものだろう。もうモンスターが出てきているからブレイク状態だ。ブレイクまでの時間が極端に短いか、ブレイキングゲートだったのだろうな」
畑に現れたモンスターがどこから現れたのか五十嵐ギルドで調査を行ったところ放置された古い倉庫の中にゲートが発生していた。
放置建物とはいっても持ち主が生きている可能性があって勝手に壊すことはできない。
五十嵐ギルドでも見回りはしているのだが、放置された建物を全て毎日見回りすることは現実的でない。
ある程度の感覚で中も見ているのだが、今回のゲートは見回りの間に発生したものであるようだった。
ただ見回りも月一回とか大きな間隔が空くものではない。
数日に一度は見回る。
通常ならゲートがブレイクを起こす前に見つけられるものなのである。
けれども今回はもうすでにモンスターが畑近くにまで現れていた。
そのことを考えるにゲートがブレイクを起こしてから多少の時間も経っている。
ゲートが発生してブレイクを起こすまで時間が経っていないと考えられるのである。
つまりはゲートはブレイキングゲート、すなわち最初からブレイクを起こした状態で発生したゲートだったのである。
「ゲート周辺でモンスターの存在が確認された」
会議室のモニターにモンスターの映像が映し出される。
「モンスターの照会をかけたところ新種のモンスターのようだ。仮の呼び方としてミニサウルスと呼ぶことにする」
サーシャが受けた印象のように恐竜っぽいと思った人は多かった。
新種のモンスターは発見者が名前を付けることができる。
どんな名前にするかは後回しにしてとりあえずの仮称としてミニサウルスと呼ぶことに決めたのである。
「ミニサウルスはそれほど強くはないが力が強く鋭い牙を持っている。攻撃を受けると痛い目を見るかもしれない。魔石の魔力から推定するにDからC級相当ぐらいの強さだろう」
魔石の魔力がモンスターの全ての力ではないものの魔力の強さがモンスターの強さに直結しているケースは多い。
「イマガワがゲートに接近して情報を得てくれた」
次に映し出されたのはゲートの情報だった。
『ダンジョン階数:三階
ダンジョン難易度:Cクラス
最大入場数:123人
入場条件:レベル14以上
攻略条件:全ての階を攻略せよ』
ギルド員の一人がミニサウルスの目を盗んでゲートに接近し、ゲートの情報を持ち帰ったのだ。
三階、Cクラスゲートであれば難易度としてはそこそこ高めな方となる。
ただ最大入場数と入場条件の方はほとんど制限無しの形である。
攻略条件はシンプルでどんなモンスターが出てくるかなどヒントになりそうなものは読み解くことができない。
「ゲート内部の調査は周りのミニサウルスを倒して安全を確保してからだな。先発の調査隊を送り調査の上でゲート攻略の部隊を編成する」
五十嵐ギルドはあまりゲート攻略を焦るギルドではないが新たなゲートが発生してモンスターが出てきているとなると事情は違う。
警戒すべきことが増えるし、畑に侵入して野菜を荒らした前科があるので早めに処理しなければならないと考えていた。
「報告は以上だ。何か意見のあるものはいるか?」
イガラシは会議室を見回す。
トモナリを含めて手の空いているものは会議室に集まっている。
誰も手をあげない。
ゲートが現れた時の一般的な手順を踏んでいるので意見があることもないだろうと分かっている。
「それでは解散だ」
ギルド全体の状況を共有するミーティングもまた重要である。
今日のミーティングは主に新しく発見されたゲートについてであった。
「イヌサワさん、少しお時間いいですか?」
「ああ、可愛い後輩のためならいくらでも時間を作るよ」
新たなゲートのためにいつもより長めだったミーティングを終えて会議室を出たトモナリはイヌサワに声をかけた。
軽く答えたイヌサワだったが、トモナリは真面目な顔をしているのでサングラスの奥の目を細めた。
「ここでする話かい? それとも少し落ち着いた場所がいい?」
「落ち着いた場所で」
「……僕の部屋に行こうか」
普段軽めな態度のイヌサワであるが、真面目な時には真面目になれる。
決して勘の鈍い人ではなく、むしろよく周りを見ていて鋭いところがある人だとトモナリは感じていた。
真剣に何かを話せば決してそれを蔑ろにする人ではない。
「そこのイスを使ってくれ」
「ありがとうございます」
イヌサワの部屋は質素と感じられるほどに物が少なかった。
見た目や態度ほど派手な人ではないと分かっているが想像よりもシンプルな部屋だった。
トモナリとイヌサワは小さいテーブルを挟んで座る。
ヒカリはトモナリの膝の上だ。
「それで話したいことはなんだい?」
「新しく発見されたゲートについてです」
「あのゲートについてかい?」
現れたばかりのゲートでモンスターも新種である。
まだ分からないことも多くて特に話すべきこともないだろうとイヌサワは首を傾げた。