「……ここはどこだ?」
「僕たちは今ゲートを出たはずだよね?」
ゲートは外にあった。
通常、ゲートから出ると入ったところに出てくる。
なのに今いるのはどこかの大きな工場か何かの中にいるようだった。
しばらく動いていなさそうな大きな機械が残されていて、壁に穴が空いていたり機械に傷跡が残っている。
周りの状態を見るにモンスターの襲撃などで放置されることになった工場のようだとトモナリは思った。
「‘正しき終末に抵抗する罪深き者よ! 迎えるべき運命に抗い、世に苦痛をもたらすことは神の意思に反することである! 新たなる世界への扉は正しき終末によりもたらされる。我らが大業のため、お前らには選択の機会を与えてやろう!’」
「……あのエンブレムは!」
一人の男が現れた。
両手を広げてニヤリと笑う男の胸には特徴的なエンブレムがあった。
「終末教だ!」
ラッパと開かれた扉。
終末教を表すエンブレムである。
「‘貴様、何をした!’」
ジェレミーが剣を構えて終末教の男を睨みつける。
「‘少しばかり君たちを招待しただけだ。そして選択肢を与えてあげている。我々の仲間になるか……それとも偽りの終末を迎えるかだ’」
「‘誰が貴様らのような狂信者の仲間になるものか!’」
ジェレミーは怒りの表情を浮かべる。
アメリカでも終末教は有名だ。
むしろ終末教の被害はアメリカの方が大きい。
そのために終末教の本拠地がアメリカにあるのではないかと言われていて、アメリカの覚醒者には終末教をひどく嫌っている人も多い。
実際終末教の本拠地はアメリカにあった。
ただし何回か場所を移しているらしく、現段階でどこに本拠地があるのかはトモナリも分からない。
「‘流石に若いな’」
男はジェレミーの怒りを鼻で笑うと指をパチンと鳴らした。
放置された古い機械の後ろから終末教のローブを着た連中が飛び出してきて、トモナリたちを取り囲む。
「‘我々の仲間にならないというのなら君たちは今すぐ偽りの終末を迎えることになるだろう!’」
「‘そんな脅しに屈する奴などいない! みんな、すぐに助けが来るはずだ!’」
ジェレミーはみんなを鼓舞する。
ゲートの外では各国の引率者が待機している。
教員となる人は生徒を指導するために強さも求められ、高レベルの覚醒者活動経験者が多い。
異常事態に気づいたらどうにか助けに来てくれるはずだとジェレミーは考えた。
しかしどうだろうかとトモナリは感じた。
終末教がいて、周りの環境を見るにゲートの中ではない。
どうやったのか知らないが、ゲートから直接工場に誘拐された。
ゲート前では教員たちが待っていたはずなのにどうやってそんなことを可能にしたのだろうか。
すでに教員たちがやられている可能性や、戦闘中の可能性がある。
ゲートの外にも待機している先輩たちもいるので、そちらに先に手を出していることだってあり得る。
本当に助けに来てくれるか、疑問を抱いてしまう。
助けが来るという楽観的な可能性ではなく、助けが来ないという可能性を念頭に置いて動くべきだろう。
「‘ふん……正しい終末に抗う愚かな者よ……何人か偽りの終末に送ってやれ。そうすれば心変わりする奴もいるだろう’」
「‘来るぞ!’」
終末教がトモナリたちに武器を向ける。
人数としてはトモナリたちの倍近くがいる。
終末教の覚醒者の実力はピンキリで、とんでもなく強い人もいれば素人のような人までいた。
だがどうやっているのか全体的にレベルは高めで侮ることはできない。
「……マコト」
「トモナリ君?」
「隙を見て逃げ出すんだ」
「えっ?」
「お前の能力ならこっそり抜け出せる。ただ助けを待つだけじゃなく、こっちからも動かないとな」
終末教が巧みに物事を進めていて、教員たちが気づいていないという可能性もある。
何にしても今どうなっているのか全く分からない。
来るだろうではなく、トモナリたちからのアクションが必要かもしれないなら動くべきである。
マコトは影に潜んで隠れられる。
今逃げ出そうとしてもバレるだろう。
だが戦いの最中に隙を見て姿を隠せばこっそりと抜け出すこともできるはずである。
「……でも」
「ここは圏外で電話もかけられない。やるべきことは何でもやるべきだ」
仲間を見捨てて一人で逃げられないとマコトは戸惑う。
しかし逃げて助けを求めることも立派な作戦だ。
他の子の能力もわからないし、今はマコトに任せるのが一番である。
マコトなら逃げ出せるという信頼でもある。
「まあ、倒せそうなら倒しちゃえばいいんだ」
自分たちで撃退してしまえるのならそれがいい。
「……私たちは固まって対処するぞ!」
「‘トモナリ、僕たちも固まるよ!’」
終末教に対して飛び出していったのはアメリカだった。
やはり終末教憎しなところがあるのかもしれない。
そしてアメリカに続くようにブラジルも攻撃を仕掛けた。
対して日本は飛び出さずにトモナリ、カエデ、マコトで固まって、迎え撃つ形をとる。
ドイツも一瞬悩んだようだが、アルケスがトモナリのそばに行くのを見て、日本とまとまって防衛することを選んだ。