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終末を夢見る者2

「‘いけ、キュリシー!’」


「‘な、なんだこのモンスターは!’」


 牙を剥き出して襲いかかってくるキュリシーには、ヒカリにないような圧力がある。

 キュリシーが相手に噛み付いてブンブンと振り回す。


 ドイツの覚醒者は人と命をかけて戦うことにまだためらいが見られるけれど、キュリシーはそんなためらいなどない。

 終末教を投げ捨てて血に濡れたキュリシーを見て、終末教たちは怖気付いたように一歩下がる。


 No.10ゲート前で戦った終末教よりも、今戦っている終末教の方が質が悪そうだ。


「‘起きろ、そして戦え’」


 最初に現れた男は戦わずの様子を見ていた。

 しかし押されている終末教を見て、深いため息をつくと動き出した。


「‘ぐふっ……クルカッタ様……なぜ…………’」


「‘なんだ? 何が起きて……’」


「死体が起き上がって……仲間を刺した?」


 キュリシーに投げ捨てられた終末教はぐったりとして動かなくなっていた。

 状態を見るに死んでいた。


 なのに死んだ終末教はゆっくりと立ち上がると、怖気付いた終末教を背中から剣で突き刺したのである。


「‘フリエン!’」


 異常事態はそれだけではない。

 よく周りを見ると倒されたはずの終末教が再び起き上がっている。


 ブラジルの覚醒者が起き上がった終末教に斬られて倒れる。


「ネクロマンサーだな」


 敵ですら困惑している中でトモナリは異常事態の正体を冷静に見抜いていた。

 急に死んだ人は生き返らない。


 ヒーラーでも死んだ人を生き返らせることはできない。

 死んだ人は死んだままだ。


 ならばどうして死者が動くのか。

 それは動かされているからだ。


 禁忌、危険職業、特定監視職など呼ばれる職業がある。

 たとえ本人がどんな人であろうと関係なく、危ない力を持つ職業として一生管理されることになるものが存在している。


 その一つがネクロマンサーである。

 死者を操るスキルを開花させるネクロマンサーは非常に危険な力を持つ。


 リッチと呼ばれるモンスターがアンデッド系のモンスターを操り、軍隊のような力を行使するのに似たような能力にネクロマンサーは目覚める。

 さらには死者を操るという点で忌避されることも多く、手駒を手に入れるために殺人を起こしたり、死体の掘り起こしを起こしたりする懸念もある。


 だからネクロマンサーという職業は警戒されるのだ。

 もちろんネクロマンサーとなった覚醒者の資質にもよるのだろうが、何がきっかけで闇に落ちるかは誰にも分からない。


「ジョン・ドゥ」


「ジョン・ドゥだと?」


「ジョン・ドゥってなんですか?」


「身元不明者を表す言葉だ。だがあいつはそう名乗ってる」


 トモナリには終末教のネクロマンサーについての記憶があった。


「終末教の危険人物の一人です」


 回帰前にネクロマンサーが大暴れした事件がある。

 三十六番目のゲートに単身乗り込んできた男は死体を呼び出して、ゲートの攻略に当たっていた覚醒者たちをほとんど殺した。


 その後ゲートそのものを攻略した後、ネクロマンサーを倒そうとゲートの外で待ち構えていた覚醒者たちも皆殺しにしたなんて出来事があったのだ。

 ゲートから逃げて助けを求めた覚醒者が犯人の名前をこう言った。


“やつはジョン・ドゥと名乗っていた”


 その事件をきっかけにしてネクロマンサーのジョン・ドゥは有名になる。

 直後終末教が犯行声明を出して、終末教の仕業だったのだと広く知られる。


 なぜジョン・ドゥと名乗るのか。

 それはジョンが存在を消された人だからだった。


 ネクロマンサーという職業に目覚めたジョンは一生を監視されることが決まった。

 だがそんな人生はかなり辛いだろう。


 ジョンの両親は幼くしてネクロマンサーに目覚めてしまったジョンの存在を消した。

 いなかったことにした。


 名前も全てを消して、ジョンはいなかった人となったのである。

 故にジョン・ドゥ。


 日本語で表現すれば名無しの権兵衛、名前が分からない人につけるものだ。

 仮の呼び名をジョンは自分の名前とした。


「もう終末教の仲間だったのか……」


 ジョンが事件が起こすのはもっと先である。

 しかしもうすでにジョンは終末教の仲間だったようである。


 あるいは、トモナリが起こした行動の数々がジョンの行動にも影響を及ぼしているのかもしれない。


「ともかく起き上がったやつは死体だ! あいつを倒すか、死体を完全に破壊するんだ!」


 単純なアンデッドなら頭を斬り落としてしまえば倒せる。

 しかしネクロマンサーが操る死体は頭を斬り落としても終わらない。


 動けないほどにバラバラにするか、燃やしたりと体を破壊しない限りは操れてしまうのだ。

 あるいは操っているネクロマンサー本体を倒すしかないのである。


 トモナリは英語でもう一度同じ内容を伝える。

 ただ普通の人と操られた死体が混じって襲いかかってくると対処の難易度はかなり上がる。


「‘あいつ何か知ってそうだな。狙え’」


 ジョンがトモナリを指差した。

 すると死体が一斉にトモナリの方に向かっていく。


「トモナリ君!」


「俺もやられるつもりはないさ!」


 トモナリはルビウスに炎をまとわせる。

 燃やしてしまうのはネクロマンサーが操る死体に対して有効打となる。


「俺も意外と相性悪くないんだ!」


 トモナリは炎をまとった剣で死体を斬りつける。

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