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終末を夢見る者3

「‘チッ……少し厄介そうなのがいるな’」


 トモナリが斬りつけた死体に炎がついて燃える。

 燃えながらも死体は抵抗を見せた。


 しかし完全に肌が炭化するほどに燃えた死体は、ゆっくりと手を伸ばして倒れて動かなくなった。


「‘あれを出せ!’」


 思っていたよりもトモナリたちが冷静に戦っているので、ジョンは早めに手を打つことにした。

 機械の影からさらに終末教の教徒たちが出てくる。


 人数が増えるだけでも厄介なのに、終末教は二つの大きな棺桶を担いでいた。


「‘丁寧に下せ!’」


 終末教たちは棺桶をそっと地面に下ろす。


「‘起き上がれ! 奴らに分からせてやれ!’」


 ジョンは手に黒い魔力の玉を浮かび上がらせると棺桶に向かって飛ばした。

 飛んでいった黒い魔力はスッと棺桶の中に消えていく。


「……なんだかヤバそうだな」


「ボーッ!」


 止めに行きたかったが死体がトモナリに襲いかかってきて、そんな余裕もない。

 ヒカリも死体を燃やして戦ってくれているので確実に数は減っているが、棺桶がただのおもちゃな訳もない。


 ガタガタと棺桶が激しく揺れる。


「先手必勝!」


 何が入っているのか知らないけれど、死体が入っているのは確実だろう。

 わざわざ棺桶に入れて持ち運んでいるのだからきっと相手の切り札的な存在に違いない。


 死体が本格的に動き出すのを待つ必要はない。

 動く前に倒してしまえば手っ取り早いとトモナリは飛び出した。


 終末教の間を抜けて棺桶に迫る。


「はああああっ!」


 トモナリは炎をまとったルビウスを片方の棺桶に振り下ろす。


「なっ……」


 中の死体ごと棺桶を切り裂く。

 そのつもりで振り下ろされた剣を、棺桶を突き破ってきた手が受け止めた。


「素手で……ぐっ!」


「トモナリ!」


 青白くなっているが何も身につけていない素手なのに、燃え盛るルビウスを掴むように受け止められた。

 トモナリが驚いていると、もう一本の腕が棺桶から飛び出してきてトモナリの顔を殴りつけた。


 強い衝撃にトモナリが吹き飛ぶ。


「うっ……」


「‘キュリシー!’」


「アイゼン!」


 受け身も取れず地面に叩きつけられたトモナリに死体が迫る。

 トモナリを助けようとアルケスがキュリシーを向かわせ、カエデもトモナリのところに駆けつける。


「トモナリ、大丈夫なのだ?」


 キュリシーとカエデに守られるトモナリにヒカリが飛んできた。


「うぅ……大丈夫だ……」


 目の前がチカチカする。

 それなりに体力値も高くなって体も頑丈になってきた。


 加えてとっさに頭を引いて威力を殺したのに、それでも顔から頭に突き抜けるような衝撃があった。

 悠長にダメージの回復を待っている暇はない。


 トモナリは頭を振って立ち上がる。

 時を同じく棺桶の中の死体も起き上がっていた。


「‘あれは……!’」


 棺桶に入っていたのは二人の男性の死体であった。

 トモナリが攻撃した方に入っていたのは身長190センチはありそうな大柄の男性で、もう一方はやや細身の男性である。


 二人の姿を見てジェレミーたちアメリカの覚醒者が驚いたような顔をしている。


「‘あいつらは何者だ!’」


「‘……少し前に行方不明になったアメリカの覚醒者だ!’」


 イレブンとナイン。

 それが二人の名前だ。


 高レベルの覚醒者で、能力の高さから二人ともA級覚醒者に認定されている。

 兄弟で活動している覚醒者として有名な二人は、休暇中に突然連絡が取れなくなって騒ぎになっていた。


「酷いことをするものだな……」


 死体を保存して手駒として使っている。

 行方不明になった原因は終末教に襲われて殺されたからである。


「‘彼らは本来今日の警備に当たるはずだったんだ!’」


 ジェレミーがトモナリの近くまで下がってきた。


「‘なるほど……それも目的か’」


 アカデミーではなく外のゲートで襲撃された。

 このことに疑問があった。


 確かに外ならば襲撃はしやすいだろうが、どこのゲートを攻略するかなんて秘密にされているはずである。

 それなのにこんな用意周到に襲撃してきた。


 どこかで情報が漏れていたかもしれないとトモナリは頭の隅で考えていた。

 イレブンとナインはただ死体の駒が欲しくて手を出されたわけじゃない。


 情報が欲しくて狙われ、結果として駒にさせられたのだろう。


「かなり厄介な相手だな……」


 イレブンは燃え盛る剣を素手で掴んだ。

 死体が生前の能力をどれほど発揮できるのかはトモナリも分かっていないが、少なくともトモナリよりは上そうだった。


「‘おっと、新しいお客さんだ’」


「な、なんだ!?」


「コウ、サーシャ!」


「トモナリ君?」


「タケル!」


「お、お嬢!」


 地面が光って、そこに人が現れた。

 それはトモナリたちとは分かれて行動していた別のグループであった。


 日本組はコウやサーシャ、タケルがいた。


「‘……追加で人員を呼んでこい。こいつら結構強い’」


「‘分かりました!’」


 ジョンの命令で終末教が走っていく。


「一体……何が起きてるんだ?」


「分からん。終末教が何かしたようだ。周りにいる奴らは終末教で、敵だ! 固まった動くぞ!」


「終末教……!」


 終末教と聞いてコウの顔が険しくなる。

 No.10ゲートで襲われたことは今も忘れられない。


 細かな状況の把握は後回しにしてとりあえず戦いに備えて構える。

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