目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

終末教の被害2

「‘……俺はいく! アイツらは……フリエンの仇だ!’」


 教員たちは口々に生徒たちを連れていくことに難色を示し、生徒たちは沈黙していた。

 そんな時にブラジルの覚醒者の一人が机を叩きつけて立ち上がった。


 目の前で仲間が殺され、操られた。

 仕方なかったとはいえ一度死んだ仲間を止めるためにバラバラにしたのだ。


 どんな思いなのかは想像できる。

 たとえ戦いに参加できなくとも、仲間の仇が倒される光景を目に焼き付けようとしたいというのも理解ができる。


 少なくともトモナリたちが止める問題ではない。


「‘俺たちも行く! アイツらが死ぬ様を見届けてやるんだ!’」


 ブラジルを皮切りにして、仲間が被害にあったいくつかの国から参加の声が上がった。

 ただ消極的な国もある。


 あまり大きな被害にあっていない国や、逆に大きな被害にあった国は及び腰になっていた。

 トモナリたちも消極的な国の方である。


 終末教憎しの思いはあるけれど、拠点襲撃はリスクが大きい。

 終末教の狡猾さはすでに知るところだ。


 感情のみで参加をしては痛い目を見ることになるかもしれない。


「アイゼン、何か考えていることがあるようだな?」


 マサヨシが何か考え込んでいるトモナリに気がついた。

 みんなの空気は酸化しない方に傾いているというのに、何を考えるのか疑問に感じた。


「……そうですね」


 トモナリは記憶を探っていた。

 アカデミーの生徒たちが襲撃される事件は大事件だといっていい。


 もし仮に回帰前に同じ出来事が起きたとしたらニュースになっていてもおかしくない。

 この時期にこんなことがあっただろうかと考えた。


 そして一つ思い出したのだ。


「この襲撃、失敗するかもしれません」


 覚醒者のニュースを取り扱う専門のサイトでチラリと見たものを思い出した。

 その時集まっていたアカデミーの学生と協力して終末教の拠点を襲撃したというものだった。


 結果は成功、だった気はする。

 しかしその代わりに襲撃した側の被害もかなり大きなものであったのだ。


 多くの死傷者を出し、実際の結果は終末教と痛み分けのようなものだった。

 出来事としては大きかった。


 けれども日本は襲撃に参加しなかったために、日本のニュースサイトでの取り上げ方は小さかったのである。

 だから思い出すのに時間がかかった。


「……それは例のアレ、か?」


 例のアレとは予知のことである。

 マサヨシもトモナリが覚醒者協会に未来予知と称して情報を流していることを知っている。


 トモナリの様子がおかしいのは、ヒカリが何か未来に関して見たからかもしれないと思った。


「そうです」


 トモナリは否定することなく頷いた。


「止めるつもりか?」


「どうやって止めるんですか……」


 こんな状況で襲撃そのものに異議を唱えられはしない。

 止めようとしたところで聞いてくれる人はいないだろう。


 そもそも何が起きてそんな被害が出たのかも分かっていないし、未来を知っているからやめましょうとも言えない。

 日本が主導ならトモナリの影響力もあるが、この流れはトモナリには止められない。


「ならばどうする?」


「どうすると言われても……」


 どうしようもない。

 行かない人はそれでもいいが、襲撃は行うという流れは完全に出来上がっている。


 せめて何が起きたのかぐらい分かれば警告できるのに、ニュースの内容を思い出してみても細かなことは分からない。

 大きく取り上げられていなかったから、何が起きていたのか書いていなかったのかもしれない。


 ただおそらく相手は備えているのだろうとトモナリは思った。

 終末教も仲間が捕まっていることなど分かっている。


 情報が漏洩することも織り込み済みだろう。

 となると罠を仕掛けていた可能性が高い。


「‘日本はどうするの?’」


「‘えっ?’」


 悩むトモナリの隣にいつの間にかメイリンが座っていた。

 本来隣にいたはずのユウトは立たされている。


 メイリンは頬杖をついて目を細めてトモナリのことを見ている。


「‘うちは行かないようだけど……トモナリが行くなら行こうかな?’」


 被害に遭わなかった中国は特に復讐に燃えることもない。

 わざわざリスクを冒すことはないと行くつもりがなかった。


「‘トモナリは私が守ってあげるよ?’」


 何でこんなに気に入られているのか分からないなとトモナリは思う。


「中国か……」


 もしかしたら未来を変えられるかもしれないとトモナリは思った。


「‘俺が行くなら本当に来てくれるんだな?’」


「‘私、嘘はいっぱいつくけど、トモナリにはつかないよ’」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?