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接触1

「みんな悪いな」


「怪我したらお前のせいだからな」


 ユウトはビッとトモナリに顔に指をさす。

 結局日本も終末教襲撃に参加することにした。


 もちろん反発はあったけれど、みんなもトモナリとマサヨシの会話は聞いていた。

 ここまでトモナリが何か無駄に行動したことはない。


 必要だからやる。

 そのためにはみんなの力も必要であった。


 ユウトだって本気で責任をトモナリに押し付けようとしているのではなく、軽い冗談のようなものである。


「危険だから行く……トモナリ君らしいね」


 未来予知のことはみんな知らない。

 だから今回は失敗するような嫌な予感がするという大分ふんわりした理由なのに、みんなはトモナリがそういうならと信頼してくれている。


 あえて危険に飛び込もうとしているのに力を貸してくれるのだ。

 どう言い訳を作ったものかと考えていた。


 日本が参加する理由は全くないはずなのに、それでもトモナリという存在を信じてくれる。


「やはりどっかの国に行くなんてことはできないな」


 揺るぎない信頼を得るのがどれほど難しいか。

 決して裏切ることなく、裏切ってはいけない信頼が出来上がりつつあった。


 自分の居場所はここなのだ。

 そんな思いが周りの信頼から湧き起こる。


「きっと相手は襲撃を予想していて、罠が仕掛けられていると予想している」


「あえて罠の中に飛び込むつもりなの?」


「証拠もないのに罠だって言って信じる人はいないだろ?」


「私らは証拠もないのにトモナリ君のこと信じてるけどね」


 冗談っぽく笑ってミズキは肩をすくめた。

 今回の作戦については大義名分もある。


 復讐というだけなら止めることもできたかもしれないが、連れて行かれた子たちを助けるという立派な理由があるのだ。

 集められた場所では復讐を押し出していたけれど、表立った作戦の名目は救出作戦となっている。


 止めることはできない。

 だが大きな被害が出るのにこのまま放っておくこともできない。


 罠があるかもしれないと警戒するトモナリたちがいれば、事前に罠を察知できる可能性もある。


「にしても……中国も参加するってのは意外だったな」


「やっぱりトモナリ君、狙われてるんですかね……?」


「トモナリ狙いで参加すんのか? そこまで来たらこえーよ」


 参加を表明したのは日本だけではなく、中国もであった。

 トモナリが参加するなら参加するというメイリンの言葉は本気であったようである。


 これで少しは対抗できる可能性が高まったとトモナリは思う。

 メイリンたちは優秀である。


 回帰前には日本も中国も参加しなかったはずで、今回この二カ国が参加して覚醒者が増えるだけでも何かは変わるはずだ。


「俺たちは最後尾でバックアップ的に動いてればいいから無理はしないようにしておこう」


「ふっ、一応私が部長なんだがな?」


「あっ……すいません」


 つい癖で話し合いをトモナリが主導してしまっていた。

 一年生だけならトモナリがリーダー的な役割を果たしてもいいだろうが、今は二年生もいる。


 ただカエデも怒っているわけではない。

 適切に話し合いが進んでいるのなら口を挟むこともない。


「いい。私も終末教には思うところがあるからな」


 カエデ自身は終末教との戦いで怪我もなかった。

 代わりにイレブンとの戦いで前に出ていたタケルは結構ボコボコにされていた。


 何とかナインとの戦いは乗り越えたものの、日本で唯一の重傷者として入院しているのがタケルであったのだ。

 命に別状はなかったので敵討ちとまでいかないが、罠を仕掛けて何かの計画をしているというなら邪魔してやるぐらいの復讐心は持っている。


「こんなことならクロサキを連れてくるんだったな」


 マサヨシは小さくため息をついた。

 クロサキとはコウのことではなく、マサヨシの秘書をしているミクのことだ。


 ミクは戦いに関して能力が低いけれど、怪我を治療するヒーラーのスキルを持っている。

 ヒーラーはいてくれるとかなり心強い存在である。


 今ミクは休暇でいない。

 交流戦期間中に問題なんて起こらないだろうし、ゆっくりするといいとマサヨシが休みにしていたのである。


 今教員はマサヨシとイリヤマ、それに加えて二年生の特進クラスの担任である二人の計四人がいる。

 信頼している教員たちであるが、やはり多少の不安はどうしてもある。


「それに君もいいのか?」


 アカデミー勢はトモナリを信頼しているからいいとして、アカデミー以外から来ている人もいる。

 流石にそこまで付き合えないと辞退した人もいるけれど、アユムは一緒に来てくれると言ってくれた。


「もうここまで来たらみんなも仲間ですよ。仲間をほっといてホテルでぬくぬくしてたらウチのギルマスに殺されちゃいます」


 アユムは苦笑いを浮かべる。

 正直安全なところにいたいが、事の顛末を聞かれた時に逃げましたなんて言えない。


 人数制限の都合上ゲートに入らなかったアユムは被害にも遭わなかった。

 それはしょうがないとしても、ここで行かないという選択肢は選べないと自分のギルドのギルマスの顔を思い描きながらため息をつく。

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