「……大丈夫なのだ?」
「何がだ?」
「ここ敵陣ど真ん中なのだ」
「確かにそうだな」
言われてみれば、とトモナリも気づいた。
スラーサから離れたくてとりあえず部屋から出てきた。
みんながいるのは下だろうと階段を降りているのだけど、ここが襲撃しようとしていたビルの中だとすると敵の中にいることになる。
ヒカリに言われて、不用心に降りようとしていたことを反省する。
ただどうしようもない。
ビルの高さを考えるに飛び降りることは不可能だ。
以前メガサウルスと戦った時にドラゴンズコネクトの能力を活かして飛んだことはあったのだが、あれはメガサウルスの能力強化ありきだった。
高まった能力で無理矢理制動していて、長時間安定して飛行するのはまだ難しい。
下手に飛び降りて飛行に失敗したら飛び降りと結果は変わらなくなってしまう。
こんなことならもっと飛行の練習をしておけばよかったと思うのだが、ドラゴンズコネクトはそれそのものだけでも結構力を使う。
ただ飛ぶためだけに気軽に使えるスキルでもないのだ。
「とりあえずこのまま進もう」
地響きのような戦闘の音が少し上がってきているような気がする。
上手くいけば味方と合流できる可能性もある。
「ヒカリ、偵察を頼む」
「任せるのだ!」
窓から飛び降りるのは最終手段だ。
そもそも階段は長く続いていて、途中で入れそうな扉もない。
どこまで続いているのか知らないが、下から誰か来ると袋小路の状況なのはあまり良くない。
ヒカリはトモナリよりも小さくて音も小さく移動できるので偵察をお願いする。
トモナリに役割を任されたヒカリはキリッとした顔をして階段を降りていく。
「壁は……結構分厚そうだな」
トモナリは壁に手を当てる。
白いコンクリートの壁は軽く力を込めてみても壊れるような様子はない。
壊れないのは当然のことではあるが、薄壁でもなさそうだ。
いざとなれば壁を破壊する必要もあるかもしれない。
しかし壊すのにも簡単な壁ではなさそう。
「あそこにいくためだけの階段……?」
『また難儀な作りをした場所だのぅ』
再び階段を降りていく。
上の部屋から見た感じではかなりの高層階であった。
エレベーター的なものはないか最初に探したのだけど、結局階段しかなかった。
それなりに降りてきたと思うのに建物の中に入ることができない。
「まさか下まで行かないとダメなんてことないよな?」
『その可能性もあるかもしれないな』
「だとしたら良いのか悪いのか分からないな」
一階から直通なんてことになれば結構面倒である。
味方と合流できる可能性は大きいけれど、下まで降りるのは大変だ。
降りるだけなら体力的に大きな負担ではないにしても、多少時間はかかるだろう。
「トモナリー!」
「ヒカリ! どうだった?」
ヒカリが戻ってきてトモナリの胸に飛び込む。
「なんもないのだ!」
途中までヒカリは意気揚々と降りていった。
しかしなんの変化もない階段がずっと続くものだからちょっと不安になってしまった。
そうだ、少し報告に戻ろうとトモナリに飛び込んできたのである。
「行くだけ行ってみるか」
わざわざ階段があってどこにもつながっていないなんて事ありえないだろう。
ヒカリはトモナリの肩にしがみついて、二人で階段を降りていく。
「戦いの音が近いな」
ドンドンとした戦闘音が近くなってきた。
今が何階なのかは不明だが戦場には近くなっていることは間違いない。
「ちょ……本当に下まで行くのか?」
かなり近くで戦う音が聞こえる。
けれども中に入るような扉はいまだに見当たらない。
この分だと本当に一階まで降りてしまいそう。
「こっち側が建物の中のようだな」
音の方向からどちらが外でどちらが中なのか、なんとなく推測できる。
もう壁を壊してしまおうかという考えが浮かぶ。
「トモナリ、ここなんか変なのだ?」
「変?」
ヒカリが壁を指差している。
「……確かに」
ヒカリが指差している壁を眺めていると、他とわずかに色が違うことにトモナリも気がついた。
白い壁なことに変わりはないのだが、他の壁よりも明るい白色をしている。
まるで新しく壁を作ったみたいだった。
トモナリはコンコンと拳で軽く壁を叩く。
偽物の壁というわけではなく、普通に硬い感じではある。
「下まで行くなら試してみるか」
このまま下に降りたって出られる保証はない。
ここで壁の異変を見つけたのも何かの運命かもしれない。
トモナリはルビウスを抜く。
「どりゃっ!」
ルビウスに炎をまとわせて色の違う壁を切りつけた。
硬い壁、その向こうに何か別の手応えがあった。
けれどもトモナリは別の手応えのものもそのまま切り裂く。
「……扉があったのか」
細かくバラバラにされて壁が崩れ落ちる。
壁の向こうには金属の扉があった。
別の手応えは扉のものであったのだ。
「なんにしても中に入れるな」
なぜ扉を壁で埋めていたのか知らないが、ひとまず階段から脱することができた。
「ここはオフィスか?」
中はオフィスのようになっていた。
衝立で仕切られた簡易的な個人スペースがいくつも並んでいるけれど、人はおらず誰かが働いていたような様子もない。