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悪夢消ゆる日2

「なんだか薄気味悪いな」


「ううむ……人がいないのは変な感じなのだ」


 慌てて逃げたのではなくオフィスの形だけ作って、使っていなかったような感じである。

 人がいないからというより、人がいたような雰囲気を出しながら人がいた気配がないから違和感があるのだ。


「ここはただのセットだな」


 オフィス風にしてあるだけの場所。

 扉が隠されていたことも考えて、偽装か何かに利用してそのままなのだろうと思った。


「ちょっと臭うのだ……」


「確かに少し臭いな」


 言われてみれば何か少し臭う。


「死臭……」


 独特の臭いは忘れることができないものだった。

 人が死んだ後に腐敗して起こる嫌な臭いだ。


「汚れている……」


 よく見ればオフィスの椅子が黒ずんでいたりと汚れていることに気づいた。


「ジョン・ドゥ」


 死体といえば思い出すやつが一人いる。

 未来で悪夢のような出来事を起こした、ネクロマンサーを職業に持つ覚醒者だ。


「ここは死体置き場だった……」


 ほんのりと臭う死臭と薄汚れた使われた様子のないオフィス。

 ネクロマンサーに必要なのは死体である。


 ただ死体はそこら辺に転がっているものではない。

 ならばどこかに死体を保管しておく必要がある。


 トモナリの中で点がつながって線となった。

 このオフィスは死体を置いていた死体置き場だったのである。


「……悪趣味なことをしやがる」


 トモナリは顔をしかめる。

 床に置いておけとは言わないが、わざわざオフィス風の場所を用意して席に座らせておくなんて狂ってる。


「……早く行かなきゃ」


 なんにしても今このオフィスは無人である。

 つまり死体は総動員されている。


 ビルの中から死体が出てきたことは不思議だったが、まさかビルの中に死体を保管しているのは意外だった。

 下に降りれるところはないかとトモナリは早足で探す。


「トモナリ、あれなんなのだ?」


「あれ?」


 ヒカリは部屋の中を覗き込んでいる。

 仕切りで分けられた平社員用のスペースではなく、ちゃんとした部屋になっている管理職用の部屋だ。


 ただ部屋の中には大きな棺桶が立っていた。

 隣の部屋も同じく一つ棺桶が置いてある。


「ナンバーズだな」


「ナンバーズ?」


「あのクソ野郎お気に入りさ」


 回帰前のジョンにはナンバーズと呼ばれる存在があった。

 ジョンの中で気に入った選りすぐりの死体数体に数字をつけて呼んでいた。


 丁寧に防腐処理を施して定期的に手入れを施していて、ジョンの最大の武器でもある。

 回帰前に起きたジョンによる大量虐殺の時も、ナンバーズは暴れ回った。


 たださらに趣味が悪いのは、ナンバーズのほとんどが女の子なのだ。

 ジョンが気に入った見た目と能力を持つ女の子をナンバーズとしているのである。


 特に気に入っているナンバーズはワン。

 つまり数字の一で、ジョンが世の中に現れた時からそばにいる。


 高い能力を持つ女性の死体で、多くの人を殺めて仲間にしてきた恐怖の存在だ。

 部屋に置いてある棺桶は、ナンバーズを保管しておくためのものだろうとトモナリは思った。


 どの部屋の棺桶も開いている。

 死体だけでなくナンバーズも動員して戦っているようだった。


「……ひとまずジョンがいるようだな」


 ネクロマンサーは脅威的な存在だ。

 味方が死ねば死ぬほど敵が増えるということになる。


 元仲間であった死体と戦うのに全く何も感じないという人の方が少ない。


「なんだ?」


 大きな爆発音が聞こえてきた。

 トモナリが走って爆発の方に向かうと床が大きく崩れ落ちていた。


「戦ってるのだ」


 息を潜めてヒカリが床の穴を覗き込む。

 下の階の様子が見えている。


「ジョン・ドゥだ……!」


 トモナリも穴を覗いてみると指示を出しているようなジョンの姿が見えた。

 少し身を乗り出すようにして、さらに覗き込むと戦いの様子が見えてきた。


 アメリカの覚醒者たちが死体と戦っている。

 ただあまり状況は良くなさそうだ。


 人数がだいぶ少ない。

 集まっていた数を考えるとこんなものではないはずなのに。


 戦っている死体の方でメインとなっているのは金髪の少女である。


「あれはワンだな」


 トモナリも一度見たことがある。

 年齢にすると中学生ぐらいの見た目をしているが、その能力はとんでもない。


 今もワンに殴り飛ばされた人の腕がへし折られている。


「……倒すなら今か?」


 ジョンは将来的に大量虐殺を行う。

 終末教の幹部級であるし、今ならまだ能力も最大ではない。


 上の階が死体置き場だと知っているジョンは天井の穴に注意を向けていない。

 上手くいけば後ろから襲いかかることができる。


「ルビウス、ドラゴンズコネクトだ」


『ふふふ、任せおれ』


 トモナリは腰のルビウスに手を当てる。

 ルビウスが光を放ってトモナリの手に吸い込まれていく。


 トモナリの体に変化が起き始めて、竜と人がミックスしたような姿に変わってしまう。

 鋭い人ならばトモナリの魔力を感じて振り返ることもあるかもしれない。


 しかし慢心しているジョンはトモナリに気づかない。

 ネクロマンサーは本人そのものの能力が低めなのでそれも関係しているのかもしれない。


「いくぞ、ヒカリ」


「うむ、狙うはあいつだな」


 一気に攻撃を仕掛ける。

 狙いはジョン・ドゥ。

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