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スカウトしましょ2

「部活の勧誘だ。ちょっと外に……」


「嫌だね。ここで言えばいいだろ?」


「ト、トモナリ君……?」


 トモナリの笑顔が引きつっているとコウも顔が引きつる。


「そのちっこいの……ドラゴンか。噂聞いてるぜ。あんた強いんだってな」


「なんだと!」


 ミヤマエが立ち上がる。

 足長いなとは思ったけど、立ち上がってみると身長が高い。


 トモナリも決して小さい方ではないのだが、ミヤマエには見下ろされる形になる。

 ヒカリはヒカリでちっこいのという言葉に怒っている。


 可愛いという言葉はいいのだけど、小さいと言われることは許せないのだ。


「俺は俺よりも弱い奴の話を聞くつもりないんだ。どうだ? 俺とちょっとやり合おうぜ」


「あっ……」


 こいつやったな、とコウは思った。

 よりによってトモナリに喧嘩を売るバカがいるなんて思いもしなかった。


「いいぜ。放課後やろうか」


「ふっ、逃げんなよ?」


 トモナリの方も穏便に収めるつもりも引くつもりもない。

 やりたいというなら受けて立つ。


「あーあ……アホいたね」


「まあ……あんな人も一定数いますからね」


 トモナリとミヤマエの様子を見ていたミズキは呆れ返った顔をする。

 マコトも思わず肩をすくめる。


 覚醒して能力に目覚めると分かりやすく強くなった感覚がある人もいる。

 自信家な人が強くなった自覚を持つと、増長してしまいがちなこともたまにあるのだ。


 今なら誰にでも、どんなモンスターにでも勝てると思い込んでしまう。

 こんな人は後々の授業で鼻をへし折られるものだが、その前にトモナリにへし折られそうだとマコトは思う。


「アイツぶっ飛ばしてやるのだ!」


 珍しくプンプンと怒っているヒカリはミヤマエとやる気満々だ。


「後でな」


「ああ……まあしょうがないか」


 コウはため息をつく。

 スカウトしてこいとは言われたが、どうスカウトすればいいかは言われていない。


 実力を見せてスカウトすることもまた一つの方法となる。


「怪我させないようにね?」


「今日はミクさん見たから大丈夫だろ」


「他人の姉さん、当てにしないでね……」


 ーーーーー


「逃げずにきたな」


「同じ言葉返すぜ」


 トモナリはトレーニング棟に来ていた。

 目的はミヤマエと一戦交えるためである。


 トレーニング棟にあるリングに上がって、互いにグローブを身につける。

 流石に武器を使っての戦いはルビウスを持っているトモナリの方が有利すぎる。


 鼻っ柱をへし折るにしてもそこまでやりはしない。


「ついでに手加減もしてやる。俺は魔力無しで戦ってやるよ」


 トモナリはスマホを操作する。

 すると手足につけられた魔力抑制装置が機能してトモナリの魔力は完全に封じられる。


「へっ、負けても言い訳すんなよ?」


「しないさ。お前の靴だって舐めてやる」


 ズンと体が重たくなったような感覚もだいぶ慣れたものだ。

 あるいは純粋に能力値が伸びたので体の重さも気にならなくなったのかもしれない。


「あいつらはお前が誘ったのか?」


「おうさ。二年だって大したことないって見せつけてやるためにな」


 リング横にはミズキを始めとした二年生の課外活動部のメンバーの他に、特進クラスの一年生も何人か来ている。

 トモナリとミヤマエが戦うと聞いて見学に来たのだ。


 ミヤマエに声をかけられて、すでに噂になっているトモナリとヒカリのことが気になって実力が見られるならばと集まっている。


「それじゃあ……始め!」


 審判役のコウが開始の合図を出す。


「おらっ!」


 ミヤマエは素早くトモナリに近づくと右腕を突き出す。

 顔面を狙った一撃をトモナリは見切ってかわす。


 ただの素人ではないと今の一撃で分かる。


「やるじゃねえか!」


 腕を上げて構えたミヤマエは素早くパンチを繰り出す。

 トモナリは冷静に攻撃を回避するが、自信満々だった理由もなんとなく分かった気がする。


「ボクシングか?」


 姿勢といい、パンチの鋭さといい何かやっていたことはすぐに分かった。

 蹴りを繰り出す気配がない戦い方からボクシングだろうと予想した。


「へっ、よく分かったな。だけどボクシングだと分かっても逃げてばかりじゃ俺には勝てないぞ!」


 パンチを見切られ、ボクシングをやっていたことも言い当てられてミヤマエは少し驚いた。


「お前に先手を譲ってやったんだ。ヒカリ、いいぞ」


 いきなり倒してしまっては実力の差もわからないだろうと手加減してやった。

 なのに逃げ回ってばかりだとは心外である。


「どりゃー!」


「なっ! ぐわっ!」


 忘れちゃ困るのはヒカリもお怒りであるということだ。

 横から飛んできたヒカリに反応できず、ミヤマエは脇腹に体当たりを食らう。


 今やヒカリの力はバカにできない。

 ぶっ飛んだミヤマエはリングのロープにぶつかり、反動で弾き飛ばされてリング上をゴロゴロと転がった。


「ぐっ……卑怯だぞ……」


「何を言ってる? こいつは俺のパートナーだ。それはお前も知ってるし、卑怯なことなんて何もない」


 実際の戦いなら最初からヒカリも参戦している。

 最初は様子見してくれたのだから優しいぐらいだ。


「僕のこと小さいって言ったなー!」


「チッ!」


 飛び蹴りしてくるヒカリを、ミヤマエはリングを転がってかわす。

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