「この野郎!」
立ち上がったミヤマエは飛んでくるヒカリに腕を突き出す。
「ウハハッ! 僕を怒らせた罰なのだ!」
「うがっ!?」
ヒカリはミヤマエのパンチを軽くかわすと、お返しと言わんばかりに手を振った。
乾いた音が響き渡る。
爪を立てずに振られたヒカリとおててによって頬を叩かれたミヤマエが弾き飛ばされた。
いわゆるビンタというやつになった。
「俺が手を出すまでもないか……」
バチンバチンと手だったり尻尾だったりでミヤマエは頬をビンタされる。
トモナリもミヤマエの生意気な態度にはイラついていたが、ヒカリがしっかりとやってくれているので手を出すまでもない。
「く……そっ!」
「ぬはははははっ! 当たらないのだぁ!」
冷静さを失ったミヤマエは、しっかりとファイティングポーズをとることもなく腕を振り回す。
しかしヒカリは自由自在に飛び回り、ミヤマエの攻撃を掠らせもしない。
強くなったのね、とちょっとした親心みたいな気分。
「なっ……」
「どぉりゃああああっ!」
ヒカリはすっかり両頬が腫れているミヤマエの後ろに回り込む。
爪を立てて服を掴むと翼を広げてミヤマエを持ち上げる。
「え……うおおおおっ!?」
ミヤマエを持ち上げたままヒカリは後ろに一回転。
「うごぉっ!?」
「ジャ、ジャーマンスープレックス?」
持ち上げられたミヤマエももちろん一回転して頭からリングに叩きつけられる。
「だぁー! 僕はチビじゃないのだー!」
コーナーで吠えるヒカリ。
ミヤマエは叩きつけられた体勢のまま白目を剥いて気を失っていた。
ーーーーー
「はっ!」
保健室に運び込まれたミヤマエは目を覚ました。
「起きたか?」
「あっ……」
ベッドの横にはトモナリがいた。
戦いで気絶させてしまったし、ここで放っておくほど無責任ではない。
ただヒカリはミヤマエが起きるのを待ちくたびれて、トモナリに抱きつくようにして寝てしまっている。
「これで分かったか?」
少なくとも実力の差があることは分かっただろう。
駆け出しの覚醒者にとって一年の差は大きい。
レベルがある程度上がってしまえばあとは才能や努力の差になってくるが、今はトモナリとミヤマエではレベルが30近く違う。
たとえミヤマエに今後トモナリを超える才能があったとしても、大きなレベル差を超えるのは難しい。
「生意気なこと言ってすいませんでした!」
トモナリがなんと声をかけようかと迷っていると、ミヤマエはベッドの上で正座して頭を下げた。
「自分、調子に乗ってました!」
「うー……うるさいのだ……」
保健室に響くような大声にヒカリも目を覚ました。
「ヒカリ先輩もちっちゃいとか言ってすいませんした! ヒカリ先輩強かったです! 偉大な存在です!」
「むむ? そーだろぉー?」
寝起きでポヤポヤしていたヒカリはミヤマエの言葉に嬉しそうに笑った。
今時あんまりみないタイプの性格した子だなとトモナリは思った。
「先輩の話、なんだったんですか? 俺、なんでもやります!」
教室での態度がウソのようにミヤマエは従順である。
「部活の勧誘だよ。課外活動部……」
「入ります! 自分、入らせてください!」
「まだなんの説明もしてないけど……」
「自分、強くなりたいっす! 先輩についていけば強くなれるような気がするんす!」
「まあまず説明をだな……」
「大丈夫っす!」
これはこれでめんどくさい圧がある。
「舎弟ゲットなのだ!」
「勝手にそんなものゲットするんじゃない、ヒカリ」
「うす! 先輩方よろしくお願いします!」
「オメーも受け入れるんじゃない!」
なんでこうなった。
『ふむ、お主の人徳だな』
「こんな人徳いらんけどな」
『悪い童ではなさそうだしいいのではないか? アゴで使えばいい』
「そうもいかんだろ……」
あとで冷静になったら改めて説明しよう。
そう思いながらトモナリはミヤマエを寮に帰したのであった。