「お前には……職人を認めさせてほしいんだ」
「職人を認めさせる……とは?」
お願いの内容を聞いてみてもいまいちピンとこない。
「今回二年生に装備を提供するのがうち……オウルグループなことは知っているな?」
キズクは頷いて答える。
リンゴジュースを飲み切ったヒカリはおかわりを求めて会議室を出ていった。
「もちろんうちのグループだけでも武器を用意することは可能だ。けれども今回のことをきっかけにして装備の生産にもより力を入れようという話になった」
オウルグループのメインは素材の研究開発であり、装備よりも発明品や道具などを作る方が得意である。
だがやはり装備品の需要は高い。
アカデミーと協力して装備を作る話が舞い込んできたので、装備品の研究開発、製作のウェートを増やそうというのだ。
「そのために職人を集めた」
ナナのように覚醒者として鍛冶職人に目覚める人もいるが、鍛冶職人以外の職業でも装備品製作に関わる人はいる。
世の中に職人はあまり多いとはいえず、オウルグループでも色々なところに声をかけた。
「その中で高名な職人がいて、こちらが提示した条件にも乗り気なのだが、一つ向こうからの条件があってだな」
「条件……それが認めさせろってことですか?」
ヒカリはジュースとお菓子を持って戻ってきた。
「そうなんだ。どんな方法でもいい……惹かれるアイテム、能力、あるいは人間性でもいいから自分が装備を作りたいと思える覚醒者を連れてきたら協力する、と」
「それで俺なんですか?」
「君は私が知る中でも最も興味深い覚醒者だからな」
カエデはトモナリの目をまっすぐに見つめて笑顔を浮かべる。
相手がどんなものを求めているのか分からない。
どんなことをすれば認めてもらえるのかあまりにも条件は抽象的である。
ただ逃すにも惜しい相手だ。
オウルグループも考えうる中で最高の相手をぶつけてみるしかない。
それがトモナリだった。
トモナリならば相手に認めさせることができるかもしれないとカエデは考えたのである。
「必要なものがあるならこちらで用意しよう。金銭についてもオウルグループが持つから気にしなくていい。仮にうまくいかなくても気に病むことはない」
悪くない話だなとトモナリは思った。
つまりはいい職人に装備を作ってもらえる機会であるということだ。
そんなに気難しい人なら失敗することもあるかもしれないが、別に失敗してもトモナリに損はない。
「とりあえず会って話すだけでもいいから……どうだ?」
「先輩の頼みですしね。やるだけやってみますよ」
今の所断る理由はない。
作ってもらう自分専用の装備というのも気になるし、会うだけ会ってみようと思った。
「本当か? 助かるよ」
トモナリが頷くとカエデは嬉しそうな顔をした。
「まあ何がいいかは……相談だな。ある程度考えておかなきゃな」